フリーアナウンサーの長谷川豊です。

「メディア・リテラシー」について解説をしたい。

僕が大学生の時に専攻していたのがそもそもこの「メディアリテラシー」という学問だった。1990年代前半に日本でも注目され始めてきたこの学問は歴史は比較的新しい。

が、これからの時代に最も大切な考え方と学問だと、僕は迷わずに専攻した。僕にその考え方や歴史をご教授くださったのは立命館大学で教鞭をとられていた、故・鈴木みどり先生という方だった。僕を屈託のない笑顔で「あなたは私の一番弟子」と呼んでくださった僕の恩師だ。

「メディアリテラシー」。一言でいうと、「メディアを一度、疑ってかかること」。

真実を語っているのかどうか、本当かどうかをしっかりと見極める。見極めきれないなら、とにかく、全部を一度に信じ切らないこと。

簡単なように見えて、実は多くの日本人が最も欠けている能力と言える。日本人、みんな性格良いしね。素直だし。だが、疑ってかからないことはそもそも「無知」に等しい。「無知とは罪なり」とは誰かの言葉だが、全くその通りになった事例がある。

全くその通りになった事例??

そう。そもそも、先ほど「日本に入ってきた学問だ」と書いたが、この考え方はイギリスやアメリカで生まれた学問だ。何故か?何故、メディアを最初から信じ切ってはいけないのか?実際にアメリカの国民は苦々しい思い出と屈辱の情報操作の歴史を持っているからだ。

そうだ。無知は、情報は国民を動かし、人を殺すことさえ、容易にしてしまうからに他ならない。どういうことなのか?いや、これは多くの日本人だって、ちゃんと知ってる知識とニュースのはずなのだ。

「アメリカの屈辱」

1991年1月。イラク・クエート。第1次湾岸戦争、勃発。

イラクのフセイン大統領がクエートに対して侵攻を行ったことに対して、アメリカを中心とする多国籍軍がイラクに対して戦争を仕掛けたのだ。きっかけは油田の利権問題にまつわる戦争だった。その中東の戦争に口だけでなく手を出し始めたのが自称「世界の警察」アメリカだ。

当時ブッシュ政権(お父さんの方のブッシュ大統領ですね)だったアメリカは、イラクに対して「世界の安全と秩序」を守るために戦争を仕掛けた。さすが共和党政権、と毒づくのは後回しにして、とにかく、戦争が起こった。そのきっかけとして、今も語り継がれているのが、メディアリテラシーの世界では最も有名な出来事。「ナイラ証言」だ。

イラク軍がクウエートに進行してまもなくの1990年10月10日「ナイラ」という名前のクウエート人少女(当時15歳)がアメリカ議会の公聴会で、ある証言を行った。

『私は病院でボランティアとして働いていましたが、銃を持ったイラクの兵隊たちが病室に入ってきました。そこには保育器の中に入った赤ん坊たちがいましたが、兵士たちは赤ん坊を保育器の中から取り出し、保育器を奪って行きました。保育器の中にいた赤ん坊たちは、冷たいフロアに置き去りにされ、死んで行きました』

その行為は「何百人」もの赤ん坊にたいして行われたと、ナイラは涙ながらに説明。その現場はむごく、イラク兵たちは平気で人間の爪を剥ぎ、残虐な行為に多くの仲間が命を落とした、と語ったのだ。

この証言はアメリカが湾岸戦争の開始に踏み切る間際にTVで放映された。放送のあとアメリカ議会は5票差の投票で湾岸戦争開始が採択されることになる。

ちなみに、戦争に賛成した議員のうち、6人以上が後に、そのTVに影響されて、開戦に投票したと証言していることから、このナイラという一人の少女の言葉によって、湾岸戦争という戦争が起きたことは後々、有名な歴史的事実となった。

この証言は当初は「裏付けの取れたもの」であったとされていた。当時のマスコミはイラク占領下にあるクウェートへ入れなかったため、この証言が信憑性のあるものとされ、当時のアメリカではかなりの時間をかけて繰り返し報道された。

この少女の証言はアメリカのブッシュ大統領や上院議員が何度も引用し、議会のみならずアメリカ世論もイラク制裁へと傾いていった。さらにこのニュースは国連安保理事会での議論にも影響し、安保理はイラクに対する武力制裁を容認。イラク制裁のために多国籍軍が形成されていくこととなる。

戦争開始当初、アメリカは世界の平和を守るんだ、とアメリカ国内は湧く。開戦当初のアメリカ大手メディアの世論調査の結果は、「戦争に賛成」が70%を超えていた。アメリカらしいと言えるかもしれない。

が、次第に、戦局が停滞する。フセイン大統領の居場所はつかめないし、意外と攻めにくい地形も相まって、開戦当初の勢いは失われつつあった。メディアにも批判が渦巻き始める。

「はたして意味のある戦争なのか?」

そんな風潮がアメリカを覆い始めそうになった1991年1月26日。衝撃的な映像がテレビ画面に映し出される。

重油まみれになった水鳥の映像だった。

力なく、羽をばたつかせるも、もはや飛ぶことが出来ないことは誰の目から見ても明らかだった。その重油はフセイン政権が流したペルシャ湾の重油だったと報じられた。

どれだけ頑張っても、水鳥とは、羽で水をはじきながら飛ぶものだそうだ。その水をはじく機能が重油によって、完全に失われ、その水鳥はもはや、少しづつ力尽きていくしかないのであった。

私利私欲で戦争をはじめ、戦況が悪くなると見るや、ペルシャ湾に重油をまき散らしたフセイン政権!なんてふざけた人間がこの世にいるんだ!アメリカ世論はまた一気に「やはり戦わなければいけない」という当初の気概を取り戻していった。

ちなみにその「油まみれの水鳥報道」が流されたのはまさに日本政府がアメリカとその同盟軍に90億ドルを拠出するべきか否かの議論が始まった時。この報道は日本でも大きく取り扱われた。

当時、メディアはサダム・フセインがわざと油田の油を海に「放出」していると報道していた。サダム・フセインは原油を流失させ環境を破壊し、海洋生物が犠牲になっている。これは「環境テロ」だという報道だった。

油にまみれた水鳥の映像は、世界中をかけめぐり、繰り返し放映され、世界中の人間がサダム・フセインを「極悪人」と決めつけた。

世論調査の結果は、ほどなく、決定的に変わることとなる。これが戦争の実態だ!アメリカ国内にいたら知ることの出来ない戦争の真実なのだ!

調査の結果、湾岸戦争の支持率は開戦当初を上回り、再び70%に達する。ブッシュ政権はそのまま戦争を続け、1991年2月27日、戦争終了宣言。世界の平和をアメリカが救ったのだった。さすが世界の警察、アメリカ。ゴッドブレース、アメーリカー。

帰国する兵士たちは英雄として凱旋し、讃えられ、多くの減税措置をはじめとする優遇を受けられた。なんてったって世界を救ったのだし。

これらのニュースは30代以上の日本人の多くは知っているはずだ。水鳥の映像は特に印象的だったので覚えてらっしゃる方も多いだろう。そう。あの衝撃的な映像とともに、イラクでは戦争が続けられた。別にそのことを攻める気はない。人様の国だし。

が、その後のアメリカではブッシュ大統領率いる共和党政権からクリントン氏率いる民主党政権に代わり、様々な検証が行われることとなる。ここからは実は日本のテレビではそこまで大きくニュースとしては報じられなかった事実がある。

報じられた順番に解説する。まず、水鳥の映像だ。あの映像だが…フセインがわざと油を嫌がらせのために流出させた…などは真っ赤な嘘であり、単純に

アメリカ側が重油を乗せたタンカーを誤爆し、その油が流出した

だけだったのだ!この事実は湾岸戦争が終了して1年もしないうちに世界のメディアに明るみとなり始める。言い換えれば、罪のない何人ものイラクの民間人が死んだ後のことだ。

そして、もう一つの驚きの事実が発覚する。アメリカ議会で証言をしたあの女の子。涙ながらに証言をした女の子だが…

「在アメリカクエート大使館の職員の娘」であったことが判明している。しかもご丁寧に…

役者志望の女の子だった。

「在アメリカ大使館」?そう。そもそも、この女の子は家族なんて殺されていない。そもそも、湾岸戦争開始時、アメリカにいた女の子だ。

当時、湾岸戦争の支持率が50%を割り込んだことに危機感を感じた当時のブッシュ政権は、広告代理店と協力して、イメージ戦略を打ち立てたのだ。世論はそれにまんまと乗っかっただけに過ぎなかったのだ。

よく、これが大問題にならなかったのか?という話を聞かれるのだが、かなりの問題にはなったし、アメリカ国民は怒っていたようだが…日本と違って、アメリカにおいて、ネガティブキャンペーンやメディアの流す情報を…

「まんま信じたのであればそれは自分が悪い」

と言う価値観は常識だ。アメリカでは特に選挙前、信じられないほどのネガティブキャンペーンが流れるのだが、そんなものに流されてる段階で、アメリカでは人として負け。そんなお国柄だ。なので、日本で思っているほどの問題にはなっていないって言うのが実情だ(もちろんかなり報道されたし責められてるが)。

「日本では考えられないこと?」

今、朝日新聞の誤報問題を機に、この文章を読んだ人全員に、これらのことを日本に置き換えていってほしい。日本のメディアは果たしてどうなのか?やらせなんてなかったのか?メディアは公正な報道だけをしているのか?日本だけ特別?そうとでも思っているのか。

そもそも、メディアという組織は誰が作っているのか?人間だ。聖人君子が作っているとでも思っているのだろうか?そんな訳ない。

メディアリテラシー

その価値観と考え方は、今の日本にこそ必要な知識と考え方だと思っている。まさに今こそ、メディアリテラシーの視点から、メディアに接するチャンスだ。これからが日本人みんなが成長するべき時だ。そう思ったから、僕はその話を講演会でも話し、このブログでも書いている。

もちろん、メディアにだまされたままの方が幸せな人もいる。

「素直ないい人たち」だ。

僕は自分がひねくれ者だからか分からないが、そう言う人たちが好きだ。素直なままでいて欲しいと、そう考えている。

でも、すでに日本の多くの皆さんは多分、少しは気付き始めている。今のテレビの正体に。マスコミの流すウソに。

そういった人たちは思春期に差し掛かった子供たちが大人の真実を知りたがっているように、「本当の」情報を欲しがっているはずだ。自分が騙されていたことを、そう、例えば、サンタクロースはいない、という事実を知りたがっていると思うのだ。

だから僕はこれからもその人たちに伝えたいと思っている。遠慮せずに。

メディアの紐解き方を。どのようにして、特にテレビメディアに向き合えばいいのかを。

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