全国民の注目を浴び「希望の党」を立ち上げるも自らは衆院選不出馬を表明、新党に結集した候補者たちを落胆させた小池都知事。なぜ小池氏はその決断に至ったのでしょうか。

元全国紙の社会部記者の新 恭さんはメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で彼女が不出馬を決めたふたつの理由を分析するとともに、小池氏が衆院選公示直前になり「安倍一強政治にノーを」というスローガンの下、森友・加計疑惑追求の姿勢を取るに至った経緯についても記しています。

森友・加計疑惑への対応こそが衆院選の最大の争点

愚直」すなわちバカ正直、が自民党の選挙用キーワードらしい。安倍首相が「愚直に政策を訴えていきたい」と、一つ覚えのように繰り返すと、全国の自民党候補者の口からも「愚直」「愚直」と「安直」にこぼれ出る。

安保法制共謀罪森友・加計疑惑…と矛盾点を突っ込まれてはウソをついてきた安倍政権が選んだ言葉がこれでは、まるでブラックジョークのようである。

衆議院選挙がスタートした。改めて思い出したい。臨時国会を召集しながら、一切の審議を許さず、衆議院を解散した安倍首相の意図。それはただ1つ。自らの関与が疑われる森友・加計問題の追及から逃れるためである。

北朝鮮のミサイルや、消費税の使い道などがこじつけなのは、誰でも知っている。

ならば、真の解散理由である森友・加計にからむ政府の隠蔽体質情報公開のあり方権力者に求められる清廉性こそが、この選挙の最大の争点であるべきだ。

筆者が当初、懸念したのは、この疑惑を追及してきた民進党の主要メンバーが希望の党に加入したことだった。

玉木雄一郎氏、宮崎岳志氏、今井雅人氏、福島伸享氏、大西健介氏らである。希望の党のなかでも、彼らは変わらず疑惑追及の声を上げ続けられるのだろうか。

なぜそう思ったかというと、希望の党を率いる小池百合子代表が、安倍首相への対決姿勢を鮮明にしていなかったからである。

それどころか、民進党からの合流希望者を選別排除したことが小池氏にとっての真の敵の所在をわかりにくくした

ターゲットを絞って切れ味鋭く攻撃していくのが小池劇場の真髄だ。なのに、そのシーンの幕が開く前に、楽屋裏のゴタゴタをさらしてしまった。

ようやくステージに上がる気構えが固まったように見えたのは選挙直前になってからだ。

安倍一強政治にノーを」というスローガンを打ち出し、小池氏は9日夜のTBS「NEWS23」党首討論で、森友・加計問題に関する情報公開の必要性を唱えた。公示後初の街頭演説でも、この疑惑を取り上げた。

目算が狂った民進党出身者の胸中

それまで、希望の党の内部には不満のマグマがたまりにたまっていた。

なにより民進党出身の候補者を落胆させたのは、小池氏が出馬しないことだ。小池氏を総理大臣候補に担いで戦えば有利に運ぶと確信し、あえて小池氏の軍門に下る決断をした。その目算が狂う。

小池氏は安保法制や憲法改正について、いわゆる「踏み絵」を迫り、民進党が違憲だとして反対した集団的自衛権の行使容認への解釈変更さえも、公認の条件としてむりやり認めさせようとした。しかも、なんと日本維新の会と手を結んでしまった

民進党が足立康史氏ら維新の会の面々からどれだけ罵倒されてきたかを思い起こせばいい。森友・加計疑惑にしても、維新の会は安倍首相を擁護してきたし、とりわけ森友問題には維新そのものがからんでいる

さぞかし、希望の党から立候補した民進党出身者の胸中は複雑だろう。先にあげた5人の民進党出身者のうち、玉木雄一郎氏の思いをそのブログから拾ってみたい。

自らの主張を曲げてまで別の党に移るつもりはありません。…例えば、いわゆる安保法案と総称して呼ばれた10本の法律のうち、ぎりぎり9つの法案については理解できます。

しかし、「武力攻撃事態法」の中には、やはり違憲の疑義がぬぐいきれない部分があります。…今回の合流に向けた判断は、ひとえに、政権交代を実現するためのものです。

その意味で、小池百合子さんは、どんな批判を受けても衆議院選挙に出馬すべきです。

総理大臣になるべき者を明確にして、総選挙を闘うべきなのです。今回の決断に伴い、私たちは、極めて大きな犠牲を払いました。小池百合子代表にも、相応の決断を求めたいと思います。

出典 http://www.mag2.com

上記の5人について、それぞれのSNS等をチェックした限りでは、小池氏の衆院出馬について言及しているのは玉木氏だけだった。とはいえ各人、似たような思いではないだろうか。

民進党の党議にしたがって安保法制に反対したが、希望の党から出る限り、賛成する立場に転じなければならない。これについて有権者に説明するのは至難の業である。

それでも彼らは、小池百合子という抜群の人気を誇る政治家が首相候補として先頭に立って戦ってくれると信じ、希望の党になだれ込んだ。小池人気の勢いが、安保法制に関する変節のマイナスを十分補ってくれると算段していたはずだ。

しかし小池氏は出馬を否定し続けた。

希望の党の公認を受けながら無所属で出馬することを決意した原口一博氏の下記のツイートに共鳴する他の民進党出身者もいるにちがいない。

とんでもない詐欺に引っかかって身ぐるみ剥がれたような思いを抱える仲間が少なくありません。(10月6日)

出典 http://www.mag2.com

小池氏が不出馬を決めた理由とは

小池都知事はなぜ前原誠司氏の期待に応えて総選挙に打って出る決断をしなかったのか。一つは、「負け戦さを恐れたということだろう。

言葉尻を捉えるのがマスコミのサガだが、例の「排除する」「さらさらない」という、上から目線の姿勢がメディアで拡幅され、小池氏の人気に急速に陰りが見え始めた。

そんななかでは、どのような言葉を尽くそうとも、言い訳に聞こえ、裏目に出る。しかも、たった1年で都知事の仕事を放りだせばごうごうたる批判が巻き起こる。そのときに、なぜ国政に転じるのかについて、国民を納得させる説明は難しい。

もし出馬して不首尾に終われば、東京都知事のままのほうがよかったと後悔するだろう。

もうひとつ、見落とせない点がある。かりに野党陣営への政権交代が実現したとしても、ポスト安倍はな役回りであることだ。

自民党は参議院で過半数を占めている。いくら衆議院で多数派を形成しても、「ねじれ国会」が政策遂行の厚い壁になることは民主党政権や、その前の第一次安倍政権、麻生政権で実証済みである。

しかも、安倍政権は株価上昇を狙って年金積立金を注ぎ込み、日銀に紙幣を刷らせて国債を大量に買わせ、マーケットのバブルをつくりだしている。好景気らしく見せかけるためだ。

当然、ポスト安倍の政権が金融政策を正常化しようとすれば、そのバブルはあっけなく崩壊するかもしれないのだ。アベノミクスの尻拭いを引き受ける覚悟がなければ、総理になるのはやめたほうがいい。

小池氏は、チャンスはまだ先にあると、自分を買いかぶっていたのではないか。

だから、前原氏から合流話を持ち込まれ、一時は政権奪取の野望を刺激されて欣喜雀躍したものの、はからずも若狭勝氏が口を滑らせたように形勢不利とみて「次の次狙いに戦線を縮小した。

だが、党としての総理候補を示さない曖昧な姿勢は、選挙後の勢力図しだいで、自民党と連立したり、石破茂氏か野田聖子氏を首相候補として担ぐこともあるのでは…などと憶測を呼んだ。民進党出身者の気持は鬱々と燻るばかりだっただろう。

ようやく定まった「攻撃対象」

小池氏のいわゆる「排除の論理」で誕生したのは立憲民主党だ。枝野幸男氏が苦悩の中から一人で結党会見して立ち上げた立憲民主党には立候補者が続々と集まり、支援の輪が広がっている。

希望の党から「排除」されたり、同党の公認を蹴った人々のほうが、政治信条を貫いたとみられ選挙を有利に戦える可能性が出てきているのは皮肉なことだ。

発足と同時に、共産党、社民党と共闘し、安保法制や共謀罪などに反対する市民連合の後押しが得られた。民進党の財産ともいえる人的ネットワークをそっくり引き継いだことになる。

小池氏や前原氏がリベラル派の一掃をはかったおかげで、この国の右傾化を憂い、平和と自由を求める人々の票を受けとめる政党が誕生したのである。

立憲民主党、共産党、社民党が選挙戦を通じて森友・加計疑惑を争点とすることに疑う余地はない。安倍首相がいちばん嫌がることだ。

自民党にどっぷりつかってきた小池百合子氏は、リベラル勢力や共産党と同調したくはなかっただろう。だが、希望の党がボロ負けすれば、小池氏の求心力は失せ都知事としての立場もまた危うくなる

党の結束を高めるには、森友・加計問題で闇から浮かび上がったブラックボックスをターゲットにするしかない。明確な攻撃対象へ、ようやく焦点が合ってきたということだろうか。

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