『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)

9月16日から公開されている映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』。監督は『モテキ』『バクマン』の大根仁。

ダブル主演に妻夫木聡と水原希子を起用して、超絶美女にハマった男のほろ苦い大人の恋愛模様を描いた異色のラブストーリーである。

原作はマンガ家でコラムニストの渋谷直角が、2015年に発表したコミック『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)。今回の映画化にともない、50ページ以上の大量加筆でリファインした完全版が今年6月に発売された。

主人公の雑誌編集者・コーロキは、奥田民生の「力まなくてカッコいい」に憧れている35歳。彼はおしゃれライフスタイル誌“マレ”に配属されると、仕事先でファッションプレスの天海あかりと出会う。モデル並の美貌に抜群のプロポーション。

しかも話すときは上目遣いで、辛い時には涙をチラリ…。そんな彼女に庇護欲をくすぐられたコーロキは一瞬でひと目惚れ。

思い切って告白してみると、意外にもあっさり付き合うことに。彼女とのバラ色な人生が待っている!喜びの絶頂にいたコーロキの脳内は、まさに奥田民生の『ハネムーン』が鳴り響いていた。

でも、あかりと交際を始めてみたコーロキは、彼女のライフスタイルについて行けず右往左往。おまけに仕事でのトラブルがきっかけであかりを怒らせてしまう。もはや振られる寸前と悶絶するコーロキだったが、次第に衝撃的な事実が明らかになって…。

“奥田民生になりたいボーイ”のコーロキと、“出会う男すべて狂わせるガール”の天海あかりによる泥沼の恋愛模様は、予想外なカタチで幕を閉じることになる。

ところで、渋谷直角がマンガ家として注目を集めたのは、『カフェでよくかかっているJ‐POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社)だろう。

サブカルの夢にしがみつく男女が足下の梯子を外されて落ちていく悲劇を描いた作品で、あまりのシニカルさから笑うに笑えず賛否両論を生んだ。

ただ一方で、同作は転落した登場人物たちのその後もきちんと示唆していた。「音楽で有名になりたい」「俺の笑いに周囲が爆笑する」。

若いころに抱いた夢なんて自分には程遠かったが、別の道を模索してたくましく生きることができる。人生ってそういうもんだろ?と逆説的な流れで救いの手を差し伸べるところが作品の醍醐味だった。

実は『奥田民生になりたいボーイ~』の終盤でも、前作にいた「アイツ」が意外なカタチで登場して、読者をアッと驚かせることになる。コーロキには奥田民生のような生き方はできなかったが、教訓をバネにして一皮むけた自分へと成長していくのだ。

実際のところ、奥田民生だって「力まなくてカッコいい」のではなく、周りが勝手にそう思っているだけなのではないか。人生はセルフプロデュースが肝心なのである。

美女におぼれた男の転落劇を描いた本作も、ちょっとだけポジティブな視点で読むと、ひと味違った読みごたえを感じられるかもしれない。

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