少子化が進む昨今の日本。しかし、保育・育児関連の業界が斜陽産業になっているかといえば、決してそんなことはないようです。

今回のメルマガ『イノベーションの理論でみる業界の変化』では、客観的な視点でさまざまな業界のイノベーションについて分析してきた著者の「山ちゃん」さんが、今後特に「保育業界」に起こり得る新市場型破壊的イノベ-ションについて考察しています。

この1年の動き──待機児童の増加

働く女性の増加により待機児童は2年連続で増えており、政府が目標としていた2017年度末の待機児童ゼロは達成が困難な見通しとなっています。

なお、国の定義によれば、待機児童のなかには認定外保育所を利用している子どもは含まれないので、待機児童とは、認定保育園に入ることができない子どものうち、認定外保育所を利用できないあるいは利用しない子どもを指すことになります。

基礎知識──保育原理とビジネスモデル

我々が普段何気なく使う「保育」と「育児」という言葉。でも、改めてその定義を問われると返事に困るかもしれません。『はじめて学ぶ保育原理』によれば、保育・育児は次のように定義されます。

保育とは、通常、保育所や幼稚園などにおいて保育者によって乳幼児を対象として養護し、教育することをさしている。

一方、育児とは、家庭における母親などの保護者による子育てを意味し、家庭で我が子を保護し、世話をしていく一連の営みをさしている。

出典『はじめて学ぶ保育原理』

この保育サービスを提供する認定保育園のビジネスモデルは、大まかに次のようになります。

顧客──多くの場合母親──が片づけようとする用事は、先の定義を踏まえると「我が子が小学校に上がるまで養護し教育してほしい」ということ。

収益モデルは、補助金頼りであることが指摘されています。保育所の設置や運営等にかかる費用の一部は国や自治体からの補助金で賄われています。そして、保育所の利用者は、保育料の一部を所得に応じて負担することになります。

カギとなる経営資源は、ずばり保育士。都市部での待機児童が問題になっている要因の1つとして、この保育士不足があげられています。そうなると、カギとなるプロセスは、保育士の採用と定着率をいかに高めるかということになります。

業界概観──主なプレイヤーと市場動向

・育児関連

[粉ミルク・ベビーフード]

明治…売上高9百60億円。「ほほえみ」「ステップ」ブランドを有する。
森永乳業…売上高4百40億円。「はぐくみ」「チルミル」ブランドを有する。
雪印ビーンスターク…売上高百40億円。「すこやか」「つよいこ」ブランドを有する。

[ほ乳瓶・授乳用品]

ピジョン…売上高9百20億円。老舗企業。

[紙おむつ]

ユニ・チャーム…部門売上6千5百億円。「ムーニー」「マミーポコ」ブランドを有する。
花王…部門売上2千8百億円。「メリーズ」ブランドを有する。
P&G…売上高2千6百億円。「パンパース」ブランドを有する。
大王製紙…売上高1千6百億円。「グーン」ブランドを有する。

[育児用品・子ども服小売り]

日本トイザらス…売上高1千5百億円。玩具とベビー用品を取り扱う。
西松屋チェーン…売上高1千3百億円。
赤ちゃん本舗…売上高1千億円。

[幼児教育]

ベネッセホールディングス…売上高4千4百億円。「こどもちゃれんじ」を展開。

・保育関連

[介護系]

ニチイ学館…売上高2千7百億円。「ニチイキッズ」を展開。
ベネッセスタイルケア…売上高9百40億円。首都圏で保育園を展開。

[教育系]

小学館集英社プロダクション…「小学館アカデミー」を展開。

・市場動向

国内では少子化が進展するなか、子ども1人にかけるお金は減っていません。また、先にみたように、今年中の待機児童ゼロは達成が困難な見通しとなっています。

変化のシグナル──満たされない顧客と無消費者が存在することを示す兆候

この業界の顧客はどのような用事を片づけようとしているのでしょうか。育児であれば「家庭で我が子を保護して世話する手助けをしてほしい」ということであり、保育であれば「我が子が小学校に上がるまで養護し教育してほしい」ということです。

では、そんな顧客は現在の育児・保育に関連する製品やサービスを十分に消費していないのでしょうか、満たされていないのでしょうか、それとも過剰満足なのでしょうか。

育児に関しては、高付加価値商品への需要が高まっています。たとえば、ほ乳瓶や機能性を重視したベビーカー、肌触りがよく漏れにくい紙おむつなどの機能性商品が登場しています。

これらはいずれも、既存顧客に向けて導入される新しい改良製品であり、満たされない顧客をターゲットとした上位市場に向かう持続的イノベーションが根づこうとしているシグナルといえます。

一方、保育に関しては、多くの無消費の状況が存在します。イノベーションの理論に従えば、認可保育サービスを受けたいときに消費できない人は、無消費の状況にいるといいます。

また、無消費と並列する概念もあります。それは、一般の企業が認可保育園のようなサービスを提供できない場合、無提供者と呼びます。また、一般人が保育士と同じことができない場合も、一般人はその特定の状況における無提供者になります。

イノベーションの理論によれば、無消費者の存在は、新市場型破壊的イノベ-ションの機会となります。しかし、そこにはイノベーションの阻害要因が存在します。

動機づけ/能力の枠組みによれば、私立保育所への企業の参入が進まないことは、プレイヤーの動機づけや能力を高められていないことを示唆しています。

競争のバトル──保育における破壊

競争クリステンセン教授は、医療における破壊は治療をより安価に、より便利にするとして、次の2つをあげています。

提供者レベルで起こる破壊:専門医と超専門医→家庭医・一般開業医→正看護師→自己治療

医療現場の破壊:総合病院→外来施設→診療所での治療→自宅での治療

出典 http://www.mag2.com

これに倣えば、保育における破壊はサービスをより安価により便利にしてくれるはずです。

提供者レベルで起こる破壊:保育士→(準保育士)→家族

現場レベルの破壊:保育所→(家庭的保育)→家庭

出典 http://www.mag2.com

ただし、かつてシッターの男が遺棄容疑で逮捕されるという悲しい事件があったように、保育サービスの信頼性を担保する仕組みが必要なのはいうまでもありません。

なお、「準保育士」というのは、保育士でもなく家族でもない第三者という意味で使っています。

戦略的選択の評価──無提供者の活用と家庭的保育

無消費者に到達できる新市場型破壊的イノベ-ションとして、提供者レベルで起こる破壊と現場レベルの破壊の2つが考えられます。

まず、提供者レベルで起こる破壊──無提供者の活用。たとえば、認可外保育施設で子育て経験のある女性を積極的に採用する場合が該当します。

次に、現場レベルの破壊──家庭的保育。これには、保育ママベビーシッター子育て援助活動支援事業などが該当します。

保育ママは家庭福祉員とも呼ばれ、自治体から保育を委託され、自宅の一部で乳幼児を預かる制度です。

ベビーシッターは、保育サービスを提供する民間サービスです。遺棄容疑で逮捕されたベビーシッターの男は、インターネット上のサイトに登録していました。

子育て援助活動支援事業はファミリー・サポート・センター事業とも呼ばれ、子どもを預けたい人と預かりたい人を有償でつなげる活動です。

参考文献

・吉見昌弘[編著]、斎藤裕[編著]『はじめて学ぶ保育原理』(北大路書房)
・『会社四季報 業界地図2017年版』(東洋経済新報社)
・クレイトン・M・クリステンセン/スコット・D・アンソニー/エリック・A・ロス著
玉田俊平太解説 櫻井裕子訳『イノベーションの最終解』(翔泳社)

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