“熱中体験”とは、虫とりや魚つり、読書、スポーツなどの趣味に没頭した体験のこと。

東大生・東大卒業生50名に子どもの頃の生活習慣のアンケート調査をしたところ、「幼い頃に打ち込んでいたもの、熱中していたものはありますか?」という項目で、92%もの人が「はい」と回答した。

内容はスポーツ、読書、楽器、ゲーム、アイドル、自然体験など、人によってジャンルはさまざまだ。東大生は子どもの頃からコツコツと勉強をしてきたのかと思いきや、全く勉強に関係ないことがたくさん出てきたのも注目すべき点だ。

■医学部卒Sくんの原点は「虫取り」

たとえば医学部卒のSくんの場合、小学生のときに昆虫採集に熱中していた。祖父に昆虫採集に連れて行ってもらい、虫をとってきては足の数の違いなどを図鑑で調べるということを繰り返していた。

Sくんの両親も、休日には積極的に屋外に連れ出し、子どもが何かに熱中しているときは、時間制限をせずに見守っていたという。こうした熱中体験を通して、Sくんが身についたのは“考える力”。

「わからないことを自分から調べる理科系の考えがしみついたのは、子ども時代のこうした興味を追究する経験によるところが大きい」と話す。

■人文社会研究科Yさんは「少女小説集め」

小学校高学年の頃に少女小説集めにはまったと言うのは、人文社会研究科に在籍中のYさん。

ただ集めるだけでなく、シリーズごとに目録を作り、発行年数から目星をつけて古本屋を巡ったというから、ただならぬ熱中ぶりがうかがえる。古本屋巡りに親がつき合ってくれたこともあるという。現在は大学院で文学研究をしているYさん。

「いまちょうど文献の目録作りをしていますが、まさにこの体験が土台になっています。集める楽しさは宝探しのようなもの。好きなことから何かを発見して教訓を得ると、さらに視野が広がっていくと思います」

■脳科学的にも説明がつく「ハマり体験」の子が伸びるわけ

このように自分の好きなことを突き詰める熱中体験は「まさに東大生の共通点」と語るのは東北大学 加齢医学研究所の瀧靖之教授。東大生のような勉強好きな子ほど、知的好奇心が強く、子ども時代に熱中体験をもっているという。

好奇心を原動力に物事を突き詰めていくことで、やる気を生み出すドーパミンと呼ばれる神経物質が放出され、脳を大いに刺激し、それによって脳の神経細胞間のネットワークが育ち、脳のいろいろな部分の体積が大きくなるのだ。

また、何かに熱中してやり切ると、そのストラテジー(=戦略)が身につくのも、大きな特徴。虫取りでもアイドルでもなんでもいい。

熱中体験で身につけたストラテジーは、SくんやYさんの体験談からもわかるように、必ず勉強や仕事など他のことに活きていく。

国語や算数であっても、知らないことを知るためにはどうすればいいか、どういう人に聞けばいいかということがわかるようになる。そうしていくうちに、よりスムーズに知識を吸収し、勉強を楽しめるようになっていくのだ。

■親が心がけることはたった2つ

こうした子どもの知的好奇心を伸ばし、熱中体験を生み出すために、親が心がけておきたいのは2つだけ、と瀧教授はいう。

■本物を見せ、バーチャルとリアルをつなげる

1つめは、子どもが図鑑や本で何かに興味を持ったら、親はすぐに本物を見せること。たとえば電車図鑑を夢中で読んでいたら、駅や車両基地に連れて行き、本物の電車を見せる。

蝶に興味を持ったら、野山に連れて行き、本物の蝶を見せる。子どもはこういうリアルとバーチャルをつなげる体験を繰り返すうちに、知的好奇心の土台ができあがり、脳がぐんぐんと伸びて成績も上がっていくという。

■親自身も楽しむことが子どもに刺激になる

脳には“ミラーニューロン”と呼ばれる、まねすることに特化する領域があるため、親が楽しんでやっていれば、子どももいっしょにやりたがる傾向があるという。

ただ生物図鑑を買い与えるだけでなく、休日には親もいっしょに野山で網を持って蝶を追いかけることで、子どもの知的好奇心もよりいっそう伸びるのだ。これが子どもに教育費をかけることより、よほど大事なことだと瀧教授は断言する。

これらは『東大脳の育て方』(主婦の友社)にある調査結果だ。本書は、勉強ができる子の代名詞である東京大学の現役学生、卒業生、その親たちに、子ども時代の生活習慣や親との関わりについてインタビューを重ね、その共通点を解き明かした一冊。

実際のエピソードをもとに、16万人の脳画像を分析し、賢い子の脳を知り尽くした東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授が解説を加えている。

冒頭の“熱中体験”に関する調査結果は、東大生の最も大きな共通点のひとつとして挙げられている。

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