『往復書簡 初恋と不倫』(坂元裕二/リトル・モア)

会えない時間が愛を育てる…昔、そんな歌詞の歌があったような気がする。恋しい人に会えないとき、自分の頭の中にあるその人の記憶を手繰り寄せて、その人が放った言葉、しぐさ、伝わってきた体温や匂いを思い出し反芻(はんすう)する。

目の前に生身の相手がいないからこそ、その記憶はいくぶん美化され増長されて、くすぶっていた導火線には再び火がついて、思いは激しく燃え盛っていく…。

『往復書簡 初恋と不倫』(坂元裕二/リトル・モア)は、『東京ラブストーリー』『最高の離婚』『カルテット』の脚本家である坂元裕二が、全編手紙やメールのやりとりの形式のみで書き上げた2篇の恋愛小説だ。

このふたつの話は設定も内容もまるで異なるが、どこかに繋がりが感じられる。それは各々の話の登場人物たちに共通するふたつのテーゼの存在によるものだ。

■「不帰の初恋、海老名SA」

学生時代、手紙の交換をしていた三崎と玉埜(たまの)。その後しばらく途絶えていたふたりのやりとりは、あることをきっかけに再開する。

三崎の婚約者の桂木が運転していた深夜バスの事故だ。同乗していた三崎や乗客たちを残し、運転手の桂木は逃走。三崎と玉埜は別々に桂木を探しに行く。桂木の故郷で、玉埜は桂木を見つけ、行動を共にし、そして…。

手紙の交換を通して明らかにされる真実と、互いの心の内。そのやりとりにみなぎる緊張感…目の前でリアルに展開される会話のような熱っぽい温度が伝わってくる。

■「カラシニコフ不倫海峡」

地雷除去のボランティアのためにアフリカに赴き、武装集団に銃で撃たれて亡くなった妻。その面影を忘れられない夫の待田は妻の後を追おうとする。そんな矢先、田中と名乗る女性から不審なメールが彼に届き、こう告げる。

「あなたの妻は生きていて、アフリカで私の夫と暮らしている」

出典『往復書簡 初恋と不倫』(坂元裕二/リトル・モア)

“日本に取り残されて、捨てられたふたり”は、互いの妻や夫に関する話をするうちに距離が縮まっていくが、「お互い配偶者がいるから」ということを理由に、不思議な形でのデートを敢行する。

ふたりは、かつて互いの配偶者同士が密会していた、渋谷のラブホテル「カテドラル」の301号室で待ち合わせをするが…。

■2篇を貫くテーゼ

“誰かの身の上に起こったことは誰の身の上にも起こる”

“大切な人がいて、その人を助けようと思う時、その人の手を引けば済むことではない。その人を取り巻くすべてを変えなければならない”

出典『往復書簡 初恋と不倫』(坂元裕二/リトル・モア)

時が経ち、何かが始まりそして続いていた何かが終わる。生々しく繰り返されるテーゼは、運命と呼ぶべきか、それともただの偶然なのか。

美しく切なく、そして残酷に締めくくられる2篇の物語。読み終えた後も、熱く、冷たく、しばらく心に刺さったままだ。

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