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『吉本せい お笑い帝国を築いた女』(青山誠/KADOKAWA)

2017年10月より放送予定のNHK連続テレビ小説『わろてんか』のモデルとなった女性をご存じだろうか?彼女の名前は吉本せい。日本のお笑い界を牽引する吉本興業の創業者として、戦前、戦中、戦後を、たくましく生きた女性である。

8月10日(木)に電子書籍が配信された『吉本せい お笑い帝国を築いた女』(青山誠/KADOKAWA)は、吉本せいの一生を、当時の大阪の風情やお笑い業界の歴史と共に、活写している一冊だ。

吉本せいは、明治22年(1889年)に大阪の米穀商の娘として生まれた。

大阪という「商都」で育った彼女は、才気あふれる商魂たくましい少女であったが、当時の女性は「結婚して、子どもを産み、家庭を守る」ことが役割であり、せいもまた、18歳で商人の息子と結婚することになる。

しかし、結婚相手の吉本泰三は、商売そっちのけで芝居や落語に熱中する、絵に描いたいようなボンボン。温厚で憎めない人物ではあったそうだが、吉本家の営んできた荒物問屋は潰れてしまい、せいと泰三は路頭に迷ってしまう。

「なんとかせんと…」と途方に暮れたせいをよそに、泰三は「寄席を経営しよう!」と資金もないのに、せいに提案する。泰三の落語好きを知っていたせいは、「自分の好きなことなら、仕事にも熱を入れてくれるだろう」と承諾。

夢を描き、クリエイター気質の泰三のため、せいはプロデューサーとなり、資金や経営スタッフの確保に奔走するのである。

そして開館したのが、大阪天満宮近くの繁華街にあった「第二文藝館」。三流の落語家を集め、木戸銭(入場料)も安めに設定し「価格勝負」で経営を始めた。利益は順調に伸び、2店舗、3店舗と事業は拡大していく。

しかし、せいの人生は順風満帆には進まない。泰三の死、贈賄疑惑での収監など、幾多の困難に見舞われる。さらに、太平洋戦争の暗い影が、日本には迫っていた。

戦時中、「笑い」は不謹慎とされ、寄席や演芸場は休業に追いやられる。戦後の大阪の市街地は空襲によって焼け野原であり、寄席を行う場所も、人々が「お笑い」を楽しむ余裕もなくなってしまう。

けれど、せいは諦めなかった。「笑えない辛い時代や、笑えない人々がぎょうさんおる。だから、うちらが笑わしてやらなあかんのや」と、「笑い」を売る興行師として、せいは、意地を貫き通す。

「お笑い」というと、「男の世界」という印象があったが、吉本興業を発展させたのが女性だったことに、まず驚いた。そして、その女性の生き様の、実にエネルギッシュなこと…!

せいは、興行師として経営を維持・発展させながら、実に2男6女をもうけ、子育ても並行して行っている(長男と次女、四女は早世)。夫亡き後も時代の流れを読みながら事業を続けた、先見性に優れ経営手腕も抜群の「働くママ」だったのだ。

本書は「小説風」というより、吉本せいという人物を知るための「情報」に重きを置かれた内容になっている。なので、当時の大阪の様子や日本の「お笑い」の変遷など、せいの一生に加え、「時代背景」を学ぶことができた。

当時の写真なども掲載されているので、より一層「せいの生きた時代」の理解を深めることができるだろう。

また、伝説的な落語家・桂春團治(かつら・はるだんじ)や、漫才スタイルの元祖「エンタツ・アチャコ」など、一世を風靡した芸人も登場するので、「お笑いの歴史好き」にも興味を持ってもらえるはずだ。

「不幸」や「困難」に屈さない吉本せいの生き様は、きっと多くの人を「笑わせてくれる」はず。朝ドラ『わろてんか』の予習に、いかがだろうか?

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