『四継 2016リオ五輪、彼らの真実』(宝田将志/文藝春秋)

8月4日から世界陸上がスタートした。日本勢で金メダルが期待される種目といえば、昨年開催されたリオデジャネイロ五輪でトラック種目として88年ぶりの銀メダルを獲得した男子400mリレーだろう。

桐生祥秀、山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥、飯塚翔太。あのウサイン・ボルト率いるジャマイカ代表と互角の戦いを見せた昨夏の熱狂は未だ多くの人の記憶に新しい。

今回の世界選手権では、山縣が外れ、サニブラウン・ハキーム、多田修平が日本代表となったが、日本勢は一体どのような走りを見せてくれるのだろうか。

『四継 2016リオ五輪、彼らの真実』(宝田将志/文藝春秋)は、男子400mリレー(=四継)の日本勢の強さの秘密に迫ったノンフィクション。

リオ五輪で偉業を達成した4選手をはじめ、コーチ、スタッフ、他の関係者までを4年間追い続けた著者が「チーム・ジャパン」の真実を描いている。

他の強豪国と比べ、日本にはトップスプリンターの証である「100m9秒台」の選手はいない。しかし、彼らはリレーになると、世界の強豪に勝るとも劣らないパフォーマンスを発揮する。その強さはどこからくるのか。

そこには、日本の伝統であるバトンパスを進化させてきた日々、そして、「10秒の壁」を越えようと、選手同士がプライドを懸けて競ってきた日々がある。

リレーのバトンパスには、大きく分けて2種類ある。バトンの受け手が後方に腕を伸ばし、渡し手が手のひらに上から載せるように渡すオーバーハンドパス。

そして、受け手が手のひらを下に向け、そこに下から押し込むように渡すアンダーハンドパスだ。ジャマイカやアメリカなど一般的にはオーバーを用いるチームが多いが、日本の四継チームは伝統的にアンダーを採用している。

アンダーハンドパスはオーバーハンドパスと比べて走る姿勢に近いため、次走者が加速しやすいのが長所だ。

とはいえ、バトンを受ける手を長時間上げていては、加速が鈍る。時速40kmに近い速さで走りながら、わずか1秒に満たない時間でバトンパスを完了させるにはどうしたら良いのか。次走者が手を上げてバトンパスを完了させるまでの歩数。

前走者が次走者に声をかけるタイミング。バトンを受け取る腕の角度、手のひらの向き。渡す側のバトンの角度。受け取る手のひらの向き。データを検証し続けた日本チームは、まだ誰が代表に選ばれるか分からない段階から密度の濃い練習を行った。

そして、他国とは比べ物にならないほど、バトンパスの技術を磨いてきたのだ。

苅部コーチは言う。「でも、基本的には個人なんですよ、陸上は。リレーはチームで戦うと言っても、団体球技と違って、みんなで一緒に何かを作っていくというよりも、それぞれが自分の仕事をきっちりやってバトンをつないでいくんです」。

バトンパスは大事だが、リレーで勝つためには、もちろん個々の走力も高めなくてはならない。短距離のメンバーはいわゆる「体育会系」っぽくはない。それぞれを尊重し、それでいて仲は悪くない。

特に近年のメンバーはすこぶる関係が良好で、五輪や世界選手権などの長期の遠征になる時はメンバー全員で話し合い、携帯ゲームの同じソフトを買い揃えにいくほどだという。だが、一緒にいる時には、ほとんど陸上の話はしない。

各々に競技への考え方があって、踏み込めない。誰もが「自分が一番」だというプライドを持ち、試合に向けたモチベーションの作りかたも異なる。

それぞれの選手の人となりと、今までの軌跡。そんな舞台裏を覗くと、彼らのこれからの戦いにより一層期待が高まる。

個の力、そして、チームとしての力。世界選手権での勝負を、この本とともにかたずを飲んで見守りたい。

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