記事提供:Conobie

産後、夫婦で話がしたいと思っていてもなかなか話せない。話すとケンカになってしまう。そんな悩みについてお聞きしました。

前回、ご自身の産後の経験から母になっても「自分の人生を生きる」ということについてお話いただいたNPO法人マドレボニータ代表の吉岡マコさん。

今回は、産後に夫婦で話がしたいと思っていてもなかなか話せない。話すとケンカになってしまう。

そんな悩みについて、お聞きしました。

―改めてよろしくお願いします。そのソファー素敵ですね。

いいでしょう!

20年前から使っているリサイクル品なの。

ずいぶん古いけどお気に入りです。

――じゃあそのまま座っていただいて。

はい。じゃあそちらへどうぞ。

産後に増える「夫婦関係」の悩み

――後半は「夫婦関係」についてお聞きしたいと思ってます。

産後に悩みが増えるテーマですね。

産後は心も体も変化が大きい時期だからこそ、意見が食い違ってもいいからパートナーと率直に話をしてほしいと思ってます。

――「産後クライシス」という言葉が有名になって、夫婦のコミュニケーションが大切とわかっていても、実際にはけっこう難しいと思っていて…。

わかっていても、どうしたらいいかわからないのが正直なところですよね。

教室でも「パ―トナ―に言えない」「言おうとしたのに聞いてくれない」と悩んでいる人は多いんです。

赤ちゃんと24時間一緒の生活には、不安や不満がいっぱいあって、特に1人目の場合は初めての経験ばかりで戸惑うことも多くなります。

そんな大きな変化の中では、「なんとなくモヤモヤしてる」という状況になりがちです。

モヤモヤしていることをパートナーに共有できたら、絆はより強まると思うんですが、実際には『気持ちはモヤモヤしているんだけど、何にモヤモヤしているのか、何がひっかかっているのか、自分でも捉えにくくなっている』という感じだと思います。

そういう状況だから、モヤモヤしていることをパートナーにうまく伝えたり、わかってもらうことのハードルがとても高くなってしまっているんです。

――自分でもわからないものを伝えるのは、たしかにハードルが高いかもしれません…。

自分ではなかなか気付けないけど、産後の女性は「自分の言葉」が失われてしまっている状態なんです。

産後って赤ちゃんと2人きりの時間が増えて大人と話す機会が少なくなるし、ママ友と話をしても、誰かがお祝いに遊びに来てくれても、話のテーマは赤ちゃんばかりになりがち。

産後の女性は「私はどう思う」「私にはコレが嬉しかった」って自分を主語にした会話が圧倒的に少なくなってしまうんです。

自分が思っていることや考えていることを言葉にする機会が減ってしまう。

それによって、自分の言葉が失われてしまうんです。

産後に失われた「自分の言葉」を取り戻す

産後のモヤモヤは言葉にできないことで、余計にモヤモヤして、黒々とした感情として自分のなかに蓄積していく。

モヤモヤがパートナーや子どもへのイライラに変わってしまうということも起こり得ます。

だから「自分の言葉」を取り戻すことは最優先にするべきなんです。

それでマドレボニータの産後ケア教室では、有酸素運動をした後に「語る時間」をつくっています。

自分の中にあるモヤモヤしたものを、そのままにせず、言葉にしてクリアにしていくための時間です。

――どんな風に言葉にしていくのでしょう?

最初はなんでもいいので、自分が思っていることを言葉にする機会をつくるのが大事です。

教室ではまずテーマを決めて、時間を区切ってそのテーマについて話すんです。

話したことはペアになった相手が聴きながらメモしてくれて、話し終わったらペアになった相手が自分の話を要約してくれる。

そういうワークをします。

口に出してみると自分の声を自分でも聴けるので、話してみて初めて自分の思っていたことに気付いてスッキリしたということもあります。

あるいは要約してもらった内容を聴いて、伝わって嬉しかったり、「あぁこの表現だとそういうふうに伝わっちゃうんだ」と自分の伝え方を振り返ることができたりするんです。

――まずは口に出してみることが大切なんですね。

そうなんです。

最初からうまく言葉にできなくても、「自分の気持ちや考えを言葉にする」ということを繰り返すことで、少しずつ自分でもしっくりくる言葉が見つかっていきます。

「このモヤモヤはなんだろう」ということを、自分の言葉で真摯に語るチカラと語る機会があれば、「自分の言葉」は取り戻すことができます。

教室では回を重ねるごとに、みんな自分の言葉で自分の思いを語れるようになっていくんです。

「自分の言葉」を取り戻すことで夫婦関係が変わる

モヤモヤしていた自分の思いや考えを「自分の言葉」で語れるようになることで、パ―トナ―とも話ができるようになっていきます。

「赤ちゃんと1日中2人きりで過ごすことにモヤモヤしてる」という伝え方だと、何にモヤモヤしているのか伝わりにくいかもしれない。

でも、「自分のモヤモヤはこれだ」「私はこうしたい」ということが分かると、パートナーにも共有したくなるし、伝わりやすくなるんだと思います。

例えば「赤ちゃんと2人で過ごしていると孤独感があって、あなたにそのつらさをわかってもらえていない気がして悲しい」とモヤモヤの中身を自分の言葉にすることができたら、そのモヤモヤした気持ちは伝わるんです。

言葉にできると、具体的に問題を解決する方法を考える一歩を一緒に踏み出せます。

実際に教室に参加した方の「パートナーシップがよくなる」ということも、調査結果からわかりました。(※)

出典NPO法人マドレボニータ 社会的インパクトレポート

「パートナーを本当に愛していると実感している」という質問では、受講者の58.8%が「実感するようになった」と回答しています。

同じ質問を非受講者に行ったところ「実感するようになった」と答えたのは19.2%と受講者と39.6ポイントの差がありました。

また、「パートナーに自分の言葉で気持ちや意志を伝えられるようになりましたか?」という質問では受講者の63.8%が「伝えられるようになった」「やや伝えられるようになった」と答えています。

出典NPO法人マドレボニータ 社会的インパクトレポート

体を回復させ、「自分の言葉」を取り戻すことが、夫婦のパートナーシップにもよい変化を生んでいると思います。

「まあしょうがない」「言っても仕方ない」と流してしまうのをやめて、モヤッとした時にこそ、話をする。

ただ、そのためには、日頃からそういう関係性を築いていないと難しいと思います。

そういうときに話ができる関係性をつくれている人は引き続きそれを維持して、そうじゃない場合はその関係性を構築するところから。

逆にいうと産後のモヤモヤは夫婦で話ができる関係性を作るチャンスでもあると思います。

産後を逃したらもう次のチャンスはそうそうないんじゃないかっていうくらいに。

吉岡マコ

NPO法人マドレボニータ代表理事/産後セルフケアインストラクター

1996年 東京大学文学部卒業後、同大学院で運動生理学を学ぶ。

1998年 自らの出産を機に、産前・産後に特化したヘルスケアプログラム「産後ケア教室」を開発。

2008年 NPO 法人マドレボニータを設立。

指導者の養成・認定制度を整備し、16都道県60カ所に教室を展開。全国に現場をもつNPOとして『産後白書』の出版など調査・研究にも尽力。

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