『帰宅恐怖症』(小林美智子/文藝春秋)

妻が怖くて家に帰れない――。

“帰宅恐怖症”という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。

「常に妻の顔色をうかがい、妻とのやりとりに疲れ、帰宅が億劫になり、仕事が終わっても会社に居残り、まっすぐ家に帰らず、わが家を目の前にしても近くの公園のブランコで家の灯りが消えるのを待つ…」本書『帰宅恐怖症』(小林美智子/文藝春秋)によれば、世の中はそんな帰宅恐怖症の夫であふれているという。

“離婚・夫婦問題”のカウンセラーとして2000件を超える相談を受けてきたという著者は、夫婦関係の悪化について、帰宅恐怖症を疑い、それを自覚したり、予兆を認識したりすることが重要として、「帰宅恐怖症になるメカニズム」や「帰宅恐怖症になりやすい夫婦それぞれのタイプ」、「帰宅恐怖症チェックポイント」、「男女別の予防法・対処法」を実際の相談例やバツイチであるという著者自身の体験談を交えて解説していく。

■「気弱で優しい夫タイプ」「しっかりした良い妻タイプ」は要注意!?

本書によれば、次のようなメカニズムで夫は帰宅恐怖症になるという。

繰り返される夫婦ゲンカの中で夫は「妻が怒っている原因がわからない」ことが多い。一方で妻は「夫が『わからない』と感じていることがわからない」ために、なぜわかってくれないのか、なぜ同じことを繰り返すのかと責め口調になっていく。

責められていると感じた夫は妻との会話を避けようとして、悪循環が進む。こうして逃げる夫と追い込む妻の終わらないデッドヒートのゴールが帰宅恐怖症というわけだ。

さらに本書では、一般的な男性と女性の違い、言動の傾向から帰宅恐怖症に陥る原因を分析し、帰宅恐怖症を引き起こしやすい夫と妻の性格をそれぞれ10のタイプに分類している。

あくまで便宜的なもので複数のタイプが重なっているケースがほとんどとのことだが、基本的に夫は「気弱で優しいタイプ」、妻は「しっかりした良い妻タイプ」が帰宅恐怖症を引き起こすことが多いという。

世の夫と妻のほとんどはこの10タイプのいずれかに該当するように思えるが、結局のところあらゆる夫婦が帰宅恐怖症に陥る可能性があるということだろう。

さらに、本書では一般論として男女の違いや性格の傾向から帰宅恐怖症の原因を考察しているのだが、その違いや性格の傾向の多くは男女を入れ替えても成立してしまう。

例えば、「夫を帰宅恐怖症にしてしまう妻30のチェックポイント」に挙げられている「自分の価値観が絶対だと思っている」「夫を褒めることができない」「夫に素直になれず、謝ることができない」といった項目は、「妻」だけでなく、当然「夫」にも当てはまる。

そして、夫の「帰宅恐怖症」だけでなく、妻の「夫に帰ってきてほしくない症候群」だって同様にあるだろう。

そうやって読んでみると、本書で紹介されている帰宅恐怖症の実例は、あらゆる夫と妻にとって他人事ではなくなってくる。夫のケースであれ、妻のケースであれ、「自分にもこういうところがあるかも…」と思い当たることはきっとある。

だからこそ、夫に向けられた「帰宅恐怖症脱出作戦」も妻に向けられた「帰宅恐怖症解決法」のどちらも“自分事”として読むことで得られる示唆は大きい。

“「あなたと夫の意見が一致すること」と「夫婦間の愛情の深さ」には、何の関係もありません。”、“自分勝手な理想を追いかけていても、幸せにはなれません。”といった言葉が胸に響く読者は多いはずだ。

そんな大変で面倒な思いまでして、なぜ結婚生活を維持しなくてはならないのか。そんな根源的な問いもふと浮かんでこなくもないが、幸福な結婚生活が人生に豊かな果実をもたらしてくれることもまた真実のひとつ。

その果実を得るためには多大な努力が必要となるだろうが、本書はきっとその手助けとなるはずだ。

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