これまでの常識として「少量の飲酒であれば身体に良い」とされてきたことは周知の事実ですが、最新の研究で「お酒は少量でも脳に悪影響が出る」という驚きの結果が出ました。

今回のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、この英オックスフォード大学で研究・発表された、飲酒による脳への悪影響について現役医師(総合診療医)の徳田先生が詳しく解説しています。

J型曲線のピットフォール(落とし穴)

お酒は脳を不健康にする。そんな研究結果が最近英国のオックスフォード大学から出ました。適量でも長期間継続的に飲酒していた人は、全く飲まない人やほぼ飲まない人に比べて、脳に異常が出てくることがわかったのです。

記憶を司る海馬という脳の大切な部位が、お酒を飲むとその飲酒量に相関して萎縮していたのです。すなわち、お酒を飲めば飲むほど記憶力が低下するリスクが高くなるのです。

飲酒と健康についての昔の疫学研究はJ型曲線を示していました。アルコールの消費量を横軸にし、健康アウトカムを縦軸にしたグラフでの結果です。

健康アウトカムとして心筋梗塞と脳梗塞をとると、全く飲まない人に比べて、適量の飲酒者は、それらの病気になりにくいという結果を示していました。そのグラフの形がJ型だったのです。

しかしながらこれらの疫学研究にはピットフォールがありました。原因と結果が逆転していたのです。

体力が弱って病気になった人はお酒も飲めなくなりますね。そのような人々も含めてグラフにするともともと病気の人が非飲酒者群に含まれてしまうことになります。

このような原因と結果が逆転してしまうような現象を取り除いて分析してみるとJ型の形は消失し、正の相関を示す直線となったのです。

すなわち少量の飲酒でも心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなるということが判明しました。お酒はまた、クモ膜下出血や脳出血のリスクでもあります。

アルコールは発がん物質

心臓血管系の病気だけではありません。世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、アルコールをグループ1(確実な)発がん物質とみなしています。

このグループには、タバコやアスベスト、ヒ素、マスタードガスなども含まれています。明らかな発がん作用があるこれらの物質とアルコールは、発がん作用のリスクについて同じグループとみなされているのです。

飲酒とがんとの関係も正の相関があります。全く飲まない人と比べて少量でもがんのリスクが高まります。特に体質的にがんになりやすい人は要注意です。

乳がん、咽頭がん、口腔がん、食道がん、肝がん、膵がん、などです。乳がんの家系のある女性は飲酒を控えた方が良いと思います。

飲酒による脳の構造と機能の変化

飲酒と脳の健康に関しても以前はJ型が示唆されていました。少量の酒は脳には良いとされていたのです。認知症についてもそのようにいわれていました。そこで出てきたのが今回の研究結果です。

イギリスで行われたこの研究対象はお役所の労働者550人でした。真面目な人たちなので、30年間もきちんとデータを残し検査も受けていました。

そしてその30年経った結果が公表されたのです。全く飲まない人または1週間に6ユニットまでの飲酒者に比べて、1週間に7から21ユニットの飲酒者では、海馬が萎縮するリスクが3倍まで増えていました。

また、適量の飲酒でも、脳の白質の構造が破綻していました。そして実際にも、1週間14ユニット以上の飲酒者では、語彙力や高次脳機能が低下していました。

1ユニットはアルコール10グラムに相当します。アルコール5%で350mlの缶ビールなら1缶あたり1.75ユニットとなり、4缶で7ユニットです。750ml入りのワイン(13.5%)は約10ユニット、175mlのグラスワインでは約3杯分で7ユニットです。

ウィスキー(40%)で25ml、焼酎(25%)で40ml、日本酒(15%)で67mlが1ユニットです。

脳を萎縮させない飲み方

脳を萎縮させたくない場合、1週間に飲酒を1日1ユニット未満または1週間に6ユニットまでに制限した方が良いことになります。

1週間に、350mlのビールなら3缶まで、グラスワインなら2杯まで、ウイスキーなら150mlまで、焼酎なら240mlまで、日本酒なら400mlまで、となります。

臨床的にも、アルコール依存症は認知症の強い危険因子です。若年性認知症の10%はアルコール関連脳障害が原因と言われています。また、施設に入所中の認知症患者さんの20%もアルコール関連脳障害を持っているものと推定されています。

認知症で多い原因はアルツハイマー病と脳血管障害ですが、多くのケースでアルコールはこれら病態に追加的に寄与しているものと考えられています。そしてかなりの大量長期飲酒者は、それ単独でも認知症のリスクが高いということになります。

文献:Topiwala A et al, Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline:longitudinal cohort study. BMJ 2017;357(Published 06 June 2017)

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