『痴漢に間違われたらこうなります!』(Satoki:著、坂根真也:法律監修/自由国民社)

痴漢の被害といえば、かつては異性から何らかの性的被害を受けるイメージのみが語られていた。

しかし、昨今ではもうひとつの視点から、身に覚えのない痴漢の嫌疑をかけられる“痴漢冤罪”の話もよく見聞きする。真相は定かではないものの、先日、都内にあるJRの駅で起こった騒動も記憶に新しい。

主に男性の被害として語られることの多い痴漢冤罪。その問題に真っ向から斬り込んだのが『痴漢に間違われたらこうなります!』(Satoki:著、坂根真也:法律監修/自由国民社)である。

ある一人の男性を主人公としたシミュレーションと、法的な手続きをふまえた具体的な対策を二部構成で示す本書。その中から実際に、明日にでも痴漢に間違われた場合に心得ておくべき項目を紹介していきたい。

万が一の“痴漢冤罪”に備えて知っておきたい日弁連の当番弁護士

自分がもし、身に覚えのない痴漢の嫌疑をかけられたら。そんなとき、著者は真っ先に「一刻も早く弁護士に依頼する」のがポイントになると語る。

万が一、自分自身が逮捕されたとき、警察に逮捕されて一件落着したかのようにみえる刑事ドラマとは異なる現実が待ちかまえている。

最悪の場合、警察で勾留されて取り調べを受けたのち、送検されて検察で勾留。そして、幾度かの裁判を経てありもしない罪を着せられるおそれもある。

それをふまえた上で、被疑者の味方になってくれる法律家は「弁護士の先生しかいません」と著者はいう。

そして、弁護士を呼べるタイミングは逮捕されたその瞬間から、もし電車内で痴漢を疑われたときは「駅員に連れ込まれそうになった瞬間から、弁護士を呼ぶ権利が生まれる」と解説する。

しかし、弁護士の知り合いなど周りにはいない。そう思う人のために、日本弁護士連合会(日弁連)による「当番弁護士」という制度も存在する。

この制度は、日弁連の公式サイトによれば“弁護士が1回無料で逮捕された人に面会に行く”ためのものであり、本人ではなく家族が依頼することも可能である。

万が一、痴漢を疑われた場合には「弁護士と話すまでは黙秘します」と宣言しようと著者は助言する。

また、自分の生活範囲内で担当してくれる当番弁護士をあらかじめ日弁連での公式サイトで検索、電話番号を登録しておくのも痴漢冤罪に備えるための有効な手段だ。

痴漢にまつわる都市伝説を検証。その場から逃げればよいって本当?

痴漢冤罪の対策として、さまざまな都市伝説もささやかれている。本書ではこの問題にも斬り込んでいるが、例えば、疑われた場合に“とにかくその場から逃亡すればよい”というのはよく見聞きする情報のひとつだ。

しかし、著者はこの説に対して「相当微妙」という前置きをした上で、否定的な見解を示している。実際は逃亡が成功した場合であっても、被害届が提出されれば警察が捜査をはじめる可能性もある。

「痴漢は現行犯逮捕でなければ逮捕できない」というこれに付随した都市伝説も存在するが、後日、逮捕状をもって警察が「通常逮捕」にふみきる場合もあるのだ。

そのため、むしろ痴漢の嫌疑をかけられた直後であれば「掌についた繊維片や指紋など、無罪を証明できる物的証拠を提出できる絶好の機会」であることから、本書では自身の潔白を証明するためにいさぎよく出頭することを勧めている。

また、現行犯として疑いをかけられたときに“身分を証明して立ち去ればよい”という話もあるが、これについて著者は「大嘘だ」と断言している。

本来、現行犯逮捕が必ずしも成立しないのは以下の要件を満たす、刑事訴訟法第217条にあたる行為である。

「三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する」

出典『痴漢に間違われたらこうなります!』(Satoki:著、坂根真也:法律監修/自由国民社)

痴漢の多くは刑法にある「強制わいせつ罪」か各都道府県による「迷惑防止条例」の違反に該当するケースが目立つが、じつは、この条文の適用外となっている。したがって、著者は「法的な根拠はなし」と主張する。

痴漢の被害者とは誰か。実際に性的な被害を受けた人はもちろんだが、冤罪により人生を狂わされる人たちも十分な被害者である。

社会問題として取り上げられる機会も多々あるが、満員電車に揺られる人たちにとって、本書はきっとリスクを回避するための指南書となりうる。

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