欧州やアフリカのナイロビから、中国までを結ぶという巨大経済圏構想「一帯一路」。日本政府は中国の経済覇権につながるとして警戒してきたが、6月上旬には安倍首相が条件付きながら協力を表明した。

そもそも、この構想はどういったものなのか。日本へのメリット・デメリットも含め、中国経済に詳しい東京大学社会科学研究所の丸川知雄教授に話を聞いた。

【3つのポイント】
1. 沿線国への対外投資・融資を行い、経済発展をめざすのが目的
2. 賛成しているのはパキスタンや中央アジア諸国など経済力が弱い国々
3. 「対抗」ではなく「利用」をすれば、日本にとってもメリットが

1. 沿線国への対外投資・融資を行い、経済発展をめざすもの

「一帯一路とは、東西を結ぶ2つのルートで港や鉄道を整備し、周辺地域の経済発展を図ろうとする構想です。ひとつは中国から陸路で中央アジア諸国とロシアを経て欧州へと至る『陸のシルクロード経済ベルト(一帯)』。もうひとつは、海路で中国沿岸部から東南アジアのマラッカ海峡、インド洋、そしてスエズ運河を経て欧州へと至る『21世紀海上シルクロード(一路)』です」(丸川教授、以下同)

目的は、「一帯一路」沿線にある国々のインフラを中国が整備することで、彼らの経済発展を促進することにあると丸川教授は言う。

たとえば、中国の投資によって、石炭火力発電所や原子力発電所を建設し、電力不足に悩むパキスタンの経済発展を図る「中国・パキスタン経済回廊」や、老朽化が進んだ鉄道(19世紀末にイギリスが建設)に代わって新たにつくられたケニアの「モンバサ・ナイロビ鉄道」がその典型例だ。

2. パキスタンや中央アジア諸国など経済力が弱い国々は賛成

一方で、中国側には「インフラ輸出」のメリットがあるという。

「詳細は不明ですが、先述の『モンバサ・ナイロビ鉄道』も中国の設計によって作られており、鉄道車両やレール、建設資材などを中国から輸出したと考えられます。運転士の訓練も中国で行ったそうです。

現在、中国の鉄鋼業やセメント産業などは生産能力が過剰なので、海外でインフラ建設が盛んになれば、中国からの輸出を拡大できるというわけです。また、沿線国への対外援助や投資によって、外交関係を強化しようというのも、当然念頭にあるでしょう」

自国のインフラを他国の投資によって整備できるというのは確かに魅力的。とはいえ、どの国も賛成というわけではない。

パキスタンスリランカケニア中央アジア諸国など、沿線国のなかでも特に経済力が弱い国にとっては、一帯一路は大歓迎でしょう。また、結ばれる先のヨーロッパも、中国が金を出し、汗を流してインフラをつくってくれることは歓迎しています。

一方で、一番反感を持っているのがインドです。先述の『中国・パキスタン経済回廊』により、隣国のパキスタンに発電所が増えて電力不足が解決し、強国になることを警戒しているのです。

また、警戒心を持ちつつも、投資・融資を受け入れている“慎重派”がロシア。現状、ロシアやカザフスタンなど旧ソ連諸国は、鉄道のレール幅がヨーロッパや中国と異なります。旧ソ連圏も統一すれば、同じ列車で一気にヨーロッパまで行けることになりますが、それは一方で、鉄道に乗ってロシアに人民解放軍が来てしまうリスクを高めると見なされているようです」

3. 「対抗」ではなく「利用」をすれば、日本にとってもメリットが

さて、こうした「一帯一路」プロジェクトに対し、日本はどう向き合っていくべきなのだろうか。丸川教授は「中国が一帯一路を推進することは、日本にとってメリットしかないように思う」と言う。そのメリットとは、以下の通り。

1. 利用できる港湾や鉄道などのインフラが増える
2. 日本企業の物流、あるいは日本人の旅行が便利になる効果が予想される
3. 日本と欧州の物流ルートが整備される
4. ゼネコンによる建設工事受注、鉄道車両の輸出、その他資材や機械の輸出など、日本企業のビジネスチャンスが広がる

「日本の場合、一帯一路によって隣国が脅威になるというインドのような心配はありませんし、日本を通っていた物流が他を迂回するといったことも考えにくいです。中国政府が受注できる企業を中国企業に限定にした場合、日本企業のチャンスは狭まりますが、それでも資材や機械を単発で売れる可能性もあります」

これらのメリットを享受するためにも、「一帯一路プロジェクトへの融資を担うであろう、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本政府も早く参画すべき」と丸川氏。

現状、一帯一路ともAIIBとも距離を保っている日本だが、「中国とは組めない」と背を向けて反発ばかりするのではなく、日本にとってのメリットとなるよう大いに利用する姿勢が必要なのかもしれない。

取材・文/明日陽樹

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