『サッカーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)

日本の学校教育でよく聞く言葉が「文武両道」である。勉強もスポーツも両立させ、生徒の豊かな将来につなげようとするものだが、現実的に徹底している学校は少ない。

学業が優秀な生徒は勉強だけに集中し、スポーツで結果を残している生徒は部活動だけに力を注いでいるのが現状だ。また、そうした傾向を学校側が煽っているケースも少なくない。

しかし、部活動で全国レベルの成績を収めつつ、一般入試による難関大学の合格者も多数輩出している高校がある。

『サッカーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)は東京都にある國學院久我山高校が掲げる独自の教育理論を取材しながら、「文武両道」の本質を見直していく一冊だ。

久我山高校サッカー部は2015年度第94回全国高校サッカー選手権大会で準優勝に輝き、注目されるようになった。同校はラグビー部やバスケットボール部でもスポーツ推薦の生徒を受け入れており、いずれも強豪として名高い。

しかし、メディアの取材を通じて明らかになったのは、久我山高校が他のスポーツ強豪と比べると格段に練習時間が短かったことだ。下校時間は18時10分と決められており、夜間練習を行うことはできない。

授業開始前のいわゆる朝練も禁止で、週に1日は必ず部活の休日を設けなければいけない。つまり、久我山高校の全ての部活動は、1日2時間程度の練習時間しか与えられていなかったのだ。

その理由は、久我山高校が真の意味での「文武両道」を徹底させようとしているからである。久我山高校では授業も部活動も「教育プログラム」の一環にすぎない。

「どんな社会でも生き抜く力」を養うことが教育の目的であり、スポーツ推薦で入学してきた生徒にさえ、勉強を疎かにしないよう言い聞かせている。また、どんなに好成績を出している部活も特別扱いしない。

今もなお、サッカー部は複数の部活と一つのグラウンドを共有しながら最低限の設備で練習を続けている。

一方で、久我山高校の部活には「引退」という概念が存在しない。多くの高校で3年生は夏の大会で敗退したときに部活動を引退して、受験勉強などそれぞれの進路に集中し始める。

しかし、久我山高校では3年生の3学期まで部活動を継続させる。部活の目的が大会ではなく、生徒の教育にある以上は卒業まで部活にも真剣に取り組ませるのである。

部活や受験の常識と照らし合わせれば、それで志望校に合格するだけの勉強ができるのかと不安になってしまう。しかし、事実として久我山高校からは毎年のように部活動経験者から難関大学の合格者が輩出されている。

サッカー部の全国準優勝メンバー、山本研さんもその一人だ。山本さんが主力として出場した選手権の決勝は2016年1月11日だったが、その1ヵ月後には慶應義塾大学一般入試を受験、見事現役合格を果たす。

しかも山本さんは予備校に通うことなく、日々の授業と自主勉強だけで学力を高めていたのだ。また、現在では日本代表にも選出されるまでになったFC東京の丸山祐一選手も久我山高校出身である。

高校時代はケガで思うようにプレーできなかった丸山選手だが、学業も怠らなかったおかげで明治大学に進学し、サッカー部で成長することができた。

サッカー部の好成績と山本さんや丸山選手の難関大合格は無関係ではない。練習時間や勉強時間が限られているからこそ、スケジュールの切り替えが早くなり、無駄な時間がなくなる。

自分への甘えが消え、手にした時間を有効活用するための工夫を考える。イチローや中田英寿といった一流スポーツ選手も学業は優秀だったというが、そこには目標から逆算して必要な努力を続けられるだけの意志と頭脳が垣間見える。

そして、久我山高校はそんな生徒を育む環境を整えているのである。

本書に登場する教育者やOBの言葉に共通しているのは、決して言い訳をしないことだ。足りないものを嘆く前に、現状でできることを最大限にやってみる。そうすれば自ずと結果はついてくる。

久我山高校は「文武両道」の教育方針を通して、目標を何一つ諦めないことの大切さを日本人に示している。

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