『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万能薬』(池谷裕二/朝日新聞出版)

我々人間を語る上で、ひとつ欠かせないものがある。それは脳だ。人間の脳は他の動物と比べてもずば抜けて発達しており、だからこそ人間はここまで発展できたと言える。

人間の発展は発達した脳があったからこそであり、人間自身も脳ありきということだ。

そんな脳を読み解く脳科学は、今や我々人間の様々な心理や無意識の行動を説明してくれるものになりつつある。『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万能薬』(池谷裕二/朝日新聞出版)も、脳科学から人間の行動や心理を読み解いた一冊だ。

人類の永遠の命題のひとつとも言うべき問題が、男と女である。いつの世もこれらは喜劇や悲劇などの様々なドラマを生み出してきた。そのうえ、今は従来言われてきた男と女の概念さえ崩れつつある時代である。

そんな時代の中で「なぜ男と女はいるんだろう」と考えてみたことはあるだろうか。自然界を見てみると、雌雄同体の生物も無性(性別がない)生物もたくさん居る。そのうえ、無性生物の方が生殖のスピードは速く、種の繁栄自体には有利ですらある。

つまり、男女に分かれることは生存や種の保存には必ずしも必要ではないということだ。それなのになぜ生物学的男女が生まれたかというと、これについては遺伝子の多様性を確保するためだと言われている。

異なる2種類の遺伝子を掛け合わせることによって、より迅速に遺伝子を多様化させ、環境の変化により適応できるようになるといった仕組みだ。

たとえば、あなたの周りにこんな人は居ないだろうか。本人は自信満々で自分は「できる」と思っているけれど、端から見ればそうとは思えない――一言で言えば“実力はないが自信だけは売るほどある人”だ。

どこにでも一人は居るものだが、こういった人の思考はどういう形で理解すれば良いのだろうか。たとえば、こんな調査結果がある。

自身が持つ運転技術について、平均的かそれ以下・以上のどれかで自己評価をしてもらったところ、約70%が「自分は平均以上である」と答えたのだという。

また、こんな調査結果もある。65名の学生に30個のジョークを読んでもらい、それらがどれほどおもしろかったか採点してもらうという調査だ。ちなみに、ジョークを理解するためにはそれなりの知識と機知が要るということは念頭においてもらいたい。

さて、この調査の結果はというと…なんと、能力の低い者ほど自己評価が高いことが明らかになってしまったのだ。

下から見て25%以下という成績の悪い者は「自分は上位40%くらいである」と認識し、逆に上位25%以内の者は「(自分は)上位30%くらいだろう」とやや過小評価をするという結果になった。

この場合、能力が低いから自分を客観視できないのか、自分を客観視できないから能力が低いのかは判断が難しいところだが、ともかく能力が低い人は、それ故に(自身は能力が低いという事実の)自覚が難しく、そのために自分を過大評価する傾向にあるのだと推測されている。

ちなみに、この現象は心理学の分野でも広く認知されており、その分野ではダニング=クルーガー効果と呼ばれるそうだ。

さて、このダニング=クルーガー効果だが、これは実は多かれ少なかれほとんどの人に見られる現象なのだ。

たとえば、何か新しい分野にあなたが挑戦した時、誰かの指導や注意が入るまで「これはうまくいっている!」と大した根拠もないのに確信に近いものを抱いた覚えはないだろうか。

だが、これはある意味当然のことで、今まで経験したことのない分野なのだから、うまくいっているかどうかの客観的評価などできるわけがないのである。

そう、ダニング=クルーガー効果とは、その分野における初心者に多く見られる極めて自然な現象なのだ。

その分野における自分の能力を開花させる未来がその先にあるかもしれない以上、ダニング=クルーガー効果は新天地における駆動力ともなりうるわけで、一概に否定できるものでもないのである。

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