6月18日、北方領土の元島民とその家族たちが、ロシアのチャーター機で先祖の墓参りを行う計画が、悪天候のため中止となった。この飛行機による墓参りは、安倍首相とロシアのプーチン大統領の首脳会談により実現したものだ。

北方領土問題」解決のための一歩にも見えた墓参りだが…結局、現在の北方領土問題は、どうなっているのだろうか?

【3つのポイント】

1. 「日ソ共同宣言」が節目。歯舞、色丹の返還はいつ?
2. 平和条約を結びたい日本、条約にこだわらないロシア
3. 高齢化する元島民。北方領土問題は先行きが暗いまま

1. 「日ソ共同宣言」が節目、歯舞、色丹の返還はいつ?

北方領土とは、終戦直後にソ連軍が占領した歯舞(はぼまい)群島色丹(しこたん)島国後(くなしり)島択捉(えとろふ)島の4つの島のこと。北海道の北東洋上に連なり、面積は千葉県とほぼ同程度。

日本は「我が国固有の領土」と主張しているが、現在もロシアが占拠し、日本人が住めない島々になっている。この4島をめぐる領有権の対立が「北方領土問題」だ。

「北方領土問題の始まりについては様々な見方がありますが、節目となったのは1956年の『日ソ共同宣言』です」と話すのは国際政治学者の六辻彰二さん。

「日ソ共同宣言とは、日本とソ連の戦争状態を終わらせた宣言です。国交回復や賠償問題などでは合意しましたが、北方領土に関しては日ソ両国の主張が食い違い、『平和条約締結後に歯舞群島、色丹島の2島を引き渡す』として結論は先延ばしになりました。

しかし、日ロ間の平和条約は60年以上が過ぎた現在も結ばれず、1956年以降、状態は変わっていません」

2. 平和条約を結びたい日本、条約にこだわらないロシア

では、なぜ日本とロシアは平和条約を結ばないのか。北方領土問題の解決は平和条約とセットになっている。それなら早く平和条約を結べばいいのに…と考えてしまうが、事はそれほど単純ではないようだ。

日本は平和条約を北方領土問題の大前提と捉えていますが、ロシアはこだわっていません。先日、プーチン大統領が『島を日本に引き渡したら現地に米軍が展開する可能性がある』と発言しましたが、自分たちのマイナスになるなら受け入れられない、というのが島を実質的に支配しているロシアの言い分です」

日本は現在、北方領土での共同経済協力など、ロシアとの関係改善を活発化させている。今回の元島民の墓参りもその一環で、日本としては経済協力をステップに平和条約を結び、北方領土問題の解決につなげたい思惑だが…。

「北方領土の共同経済開発では、建物ひとつ作るにしてもどちらの国の法律を適用するかという話になります。しかし、ロシアは自国の法律でやるといって譲らない。それは主権がロシアにあるという意思表示です。一方、日本は島がロシアの主権下にあると認めたくないので、特別な制度でやろうと主張する。その結果、共同経済開発そのものも行き詰まってしまっているのです」

3. 高齢化する元島民たち、先行きが暗い北方領土問題

北方領土問題は今後、いったいどうなるのだろうか。対応が進まないうちに元島民の高齢化が進み、いまや多くは80歳を超える高齢者ばかり。

島に戻れないなら「せめてお墓参りだけでも」との思いが強く、今回飛行機を使おうとしたのも、船での渡航は負担が高齢のために大きいからなのだとか。

「正直、北方領土問題解決の道筋は暗いと言わざるをえません。日本は平和条約を結んで2島を引き渡すという日ソ共同宣言を拠り所にしていますが、ロシアは平和条約を結ばなくても何も困らず、日本が4島を返してくれといえば言うほど足元を見られる状況にある。折り合える場所が見えず、だからこそ先に進まない…。それが北方領土問題の現状といえるでしょう」

元島民の家族にも子どもや孫世代が多くなり、北方領土に対する思い入れも年々弱まりつつあるという。六辻さんによれば、将来的には日本政府も「何が何でも返還」と言わなくなる可能性もあるのだとか。

元島民がロシアのチャーター機で墓参りすることで進展するかに見えたこの問題だが、こと領土に関する国と国とのいざこざというのは、本当に解決するのがむずかしいようだ。とにかく今は、夏から秋にかけて延期となった北方領土の墓参り実現を願いたい。
(藤野ゆり/清談社)

【取材先】
六辻彰二 http://mutsuji.jp
博士(国際関係)。2001年日本大学大学院国際関係研究科博士後期過程単位取得満期退学。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者−現代最凶の20人』(幻冬舎)、『対立からわかる!最新世界情勢』(成美堂)など。

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