政府は、受動喫煙防止策を強化する健康増進法改正案の提出をいったん断念。秋の臨時国会に先送りする方針としました。

ほかの先進国では、屋内での全面禁煙を進めているところも多いのになぜ日本では問題がここまでこじれているのでしょうか?

【3つのポイント】

1. 慎重派は飲食業界に与える影響を懸念
2. 矛盾する「たばこ事業法」と「たばこ規制枠組条約」
3. ほかの先進国の対策はどうなっているのか?

1. 慎重派は飲食業界に与える影響を懸念

2020年東京五輪・パラリンピックに向けて推進されている、他人のたばこの煙を吸いこむ受動喫煙への対策。推進派と慎重派の間で激しい議論が交わされています。

議論を戦わせているのは、主に厚生労働省と、自民党の一部の議員です。規制推進派の考えに近い“厚労省案”は、学校や病院だけでなく飲食店なども原則禁煙(一部分煙)とし、小規模のバーやスナックなどでのみ喫煙を容認したいと提案。

これに対し慎重派の考えに近い“自民党案”は、主に飲食業界に与える影響を懸念。喫煙室のスペースがなく改修等の費用負担に加え、喫茶店やスナックなどは禁煙にすることで売り上げが下がり、最悪は廃業に追い込まれるケースも心配されるためです。

食堂・居酒屋・バーなど業態による分類はせず「飲食店」とひとくくりにした上で、店側へ「喫煙」「分煙」など表示義務を課すことで、飲食店での喫煙を認めさせたい構えです。

2. 矛盾する「たばこ事業法」と「たばこ規制枠組条約」

一方、1984年に制定された「たばこ事業法」。これは、税金による安定収入やたばこ産業の健全な発展を図るものです。現在たばこには「国たばこ税」「地方たばこ税」「たばこ特別税」「消費税」の4種類の税金が含まれており、合わせると税負担率は6割にもなる、日本で最も税負担率の重い商品のひとつです。

しかし、2004年に日本が批准した「たばこ規制枠組条約(FCTC)」では、たばこの規制を実施すべき義務があり、「たばこ事業法」とは矛盾しているようです。このような背景もあり、日本での「受動喫煙防止」法案がこじれているのかもしれません。

現在、自民党の有力支持基盤であるたばこ業界は、厚労省案に対し、約120万人の反対署名を収集。厚労省側は例外場所を拡大する方針を示している状況です。自民党政務調査会は規制推進派と慎重派の双方を説得し、妥協案をまとめましたが、その溝は深く、最終段階で塩崎恭久厚労相が「厚労省案じゃないとダメだ」と拒否。

今国会での成立は見送りとなり、法整備は停滞しています。この対策の遅れにより、近く閣議決定される「次期がん対策推進基本計画」や、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京五輪・パラリンピックに向けた施策への影響も懸念されています。

3. ほかの先進国の対策はどうなっているのか?

世界保健機関(WHO)によると、世界188カ国中49カ国が、屋内の公共の場所での全面禁煙を義務付け、国単位では禁煙法のないアメリカや中国でも、州や都市単位で禁煙化が進んでいます。

そして、2008年以降の五輪開催都市はすべて、罰則付きの受動喫煙防止策を導入。2012年のロンドン、2014年のソチ、2016年のリオは国レベルで公共施設を屋内禁煙に、2018年に冬季五輪を開催する韓国では喫煙室の設置は認め、バーのような一部の店は対象外としています。

先進国でありながら法律で喫煙を禁じる場はない日本。受動喫煙政策の普及状況を示したWHOの評価基準では、韓国、ルワンダ、ソマリアなどと並び、4段階中で最低ランクに位置付けられています。

喫煙室の設置や周知期間を含めると年内での法律成立がタイムリミット。五輪開催国にふさわしい受動喫煙対策を講じてほしいものです。

(苺いちえ)

【参照】
産経ニュース「自民VS厚労も産経、朝日が同一…「世界最低」で東京五輪突入か 受動喫煙防止法案の提出断念のウラ側」
http://www.sankei.com/life/news/170612/lif1706120005-n1.html

ハフィントンポスト「受動喫煙対策まとまらず 「分煙では不十分」たばこ問題情報センター渡辺文学さんに聞く」
http://www.huffingtonpost.jp/2017/05/17/passive-smoking-watanabe_n_16126300.html

日本たばこ産業「たばこ税の仕組み」
https://www.jti.co.jp/tobacco/knowledge/tax/index.html

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