記事提供:messy

この春に頻発していた“痴漢を疑われて線路に飛び降り逃走”事案。痴漢冤罪と絡めて報じることへの不可解を記事にしたが、このうちのひとりが、東京都の迷惑防止条例違反で逮捕起訴されていた。

今回はそれをリポートしたい。法廷では、冤罪ではなく実際に痴漢行為に及んでいたこと、過去にも同様の行為に及んでいたことが明らかになった。

4月25日に痴漢であるとして女性と口論になり、板橋駅で線路に飛び降り逃走した福島覚被告(41)は、男に取り押さえられそうになった際、コートを脱ぎ捨てているが、その中に預金通帳などが残されていた。

6810時から東京地裁512号法廷(林直弘裁判官)にて開かれた初公判。罪名は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反」、いわゆる迷惑防止条例違反である。鉄道法違反での起訴はなされていない。

福島被告は勾留されており、奥のドアから松葉杖をつきながら法廷に現れた。右足を痛めている。
人定質問で職業を問われ「仕事は探している途中です」と答えた。

起訴状によれば福島被告は今年425日、836分ごろから838分ごろまで、JR十条駅から板橋駅に向かう埼京線の車内において、被害者(当時20)に対し、そのスカートの上から臀部を両手で撫でたという。

飛び降り逃走の記事によれば、痴漢を指摘した被害者との間で福島被告は口論になったという。また「痴漢に疑われそうになったら逃げる」ことは冤罪を予防するために致し方ないという風潮がある。

福島被告も、痴漢をしていないのに疑われたので逃走していたのではないか?ゆえに罪状認否で否認するのではないか、と思われたが「起訴状に違うところはないですか」と裁判官に問われ、被告は「いや、正しいです」とあっさり痴漢を認めた。

冒頭陳述や証拠による事件の詳細は以下のとおり。

福島被告は高校卒業後、職を転々としており、犯行当時は生活保護を受給し、川口市のアパートに単身居住していた。婚姻歴はない。電車で女性に着衣の上から体を触る同種の罰金前科2件を含み、前科は4件ある。

平成
18年から、電車に乗車中の女性への痴漢行為に興味を持つようになった。

犯行当日、競艇に行くために電車に乗り、混雑していた車内で被害者の背後に密着し、少なくとも
20秒間、スカートの上から両手で撫でたところ、被害者に振り向かれて右手を掴まれ、板橋駅で降車させられた。

口論の途中、居合わせた別の男性が福島被告のコートをつかんだが、福島被告はコートを脱ぎ捨て線路に飛び降り逃走した。これにより埼京線に遅延や運休などが発生している。


「十条を過ぎた頃、両手でお尻を包み込むように触られて、ゆっくりこするようになった。犯人の手を右手でしっかりつかんだまま『触ったでしょ』というと、犯人は縦に首を振った。(中略)そのままホームに降りると犯人は『離せ、やってねえよ』とシラを切り始めた。別の人が来て犯人をつかんでくれたので私は安心してその後は意識が朦朧として動けなくなった」(被害者の調書)

「女の人は過呼吸のようなハアハアとした呼吸をしていて、しゃがみこんで苦しそうにしていた」(犯人逃走前後の被害者の様子を語る目撃者の調書)

「平成18年ごろから痴漢に興味を持つようになり、平成18年、20年に電車で女性のお尻を触り逮捕されたことがある。事件の日は江戸川競艇場に行こうと、7時過ぎに自宅を出て、8時過ぎに京浜東北線に乗った。(中略)

十条で人がたくさん乗ってきた時、女性がいることに気づいた。近づきたい、密着して揺れに乗じて触りたい。右手と左手の手の甲で触った。すると『触ったでしょ』と言われたので『違うよ、当たっただけだよ』と答えたが聞き入れてくれず降ろされた。

少しぐらいなら大丈夫、気づかないかも、怒らないかもと思った。
20秒くらい触ったと思う。

以前、痴漢で
捕まりそうになった人が線路に降りて逃げたニュースを見たので、コートを脱いで線路に逃げた」(福島被告の調書抜粋)

情状証人として出廷した被告の父親(70代)は「この前も間違い起こして、その時に弁護士さんに言われてアパートを引き払うか揉めた。でも本人が気に入ってて、どうしてもここに、ということで、それなら、ちゃんとやれれば、と」と縷々述べる。

要約すると、前回の裁判でも証人出廷し、監督を誓っていたというが、当時福島被告が住んでいたアパートを引き払い実家に呼び戻そうとしたところ、福島被告から拒否されたので、十分な監督ができていなかったようだ。


『前回の裁判』とは、別の窃盗罪の裁判であり、福島被告は平成18年と平成20年に痴漢での罰金前科があるほか、平成26年に窃盗罪で執行猶予判決を受けている。今年の3月にその執行猶予が開けたばかりであった。

つまり痴漢で逮捕されるのは
9年ぶりなのだという。

被告人質問が始まると、被告人席から証言台の前まで、片足を上げながらジャンプして近寄り、立ったまま答え始めた。動機としては『プレッシャー』があったと述べた。

弁護人「今回、電車には痴漢しようと思って乗ったんですか?」

福島被告「電車混んできて気持ちでそういう、自分の軽い気持ちで、そういう行動を取ってしまった」

弁護人「9年我慢できたのになぜ?執行猶予が解けたすぐ後にこういうことをしてしまったのは?」

福島被告「自分の人生、うまくいかなくなってきて、今年こそ、元の社会生活に戻れるように、意気込んで、絶対変えてやると思って、プレッシャー、なっちゃったんですね」

弁護人「実際に就職活動はしていたんですか?」

福島被告「行く会社を絞って、これからやるぞという意気込みでやっていました。一つの仕事しかできないんで、ずっと、同じ仕事しかできなかった、自動車会社で、20歳から30歳くらいまで仕事できたんですが、30歳過ぎて3回失敗して、今年もう一度、自動車会社で仕事しようと思いました」

『自動車会社の仕事』と『30代の3回の失敗』について詳細は明かされなかったが、とにかく人生につまずき今年こそはと奮起していたことが『プレッシャー』になっていたという。

だが人間、プレッシャーを感じたからといって痴漢に走る
正当性は担保できない。検察官がそこに突っ込んだ。

検察官「でも人間、プレッシャーやストレスを感じたからといって犯罪には走らないですよね。なぜあなたは痴漢に?」

福島被告「自分の心が弱いからだと思います」

刑事裁判の法廷で嫌という程聞いてきた台詞である。被告人の多くは心の弱さを犯行の理由にする。

執行猶予が明けたばかりの痴漢行為であり、すでに同種の罰金前科が2件あることから今回は実刑の可能性も高い。それが分かっていて、なぜ痴漢行為に及んだのかと検察官に尋ねられ、福島被告はこう答えた。

自分、痴漢やれば、こういう状況、なること分かってて、それでもそういう行動とってしまいました」

「私からも少しだけ聞きますね」と裁判官からの質問が始まる。だが「少しだけ」では終わらないのはこれもよくあることだ。

裁判官「前科が2つあって、今回の裁判。これまであなたが痴漢をしたのは3回で全部なんですか?」

福島被告「そうです」

裁判官「3回やって、全部見つかって捕まったんですか?」

福島被告「

裁判官「そういうことですよね?やって、見つからなかったこと、1回もなかったんですか?痴漢をした時は毎回、必ず見つかって捕まった、と」

福島被告「はい」

裁判官「発覚しなかったことはなかった?」

福島被告「はい」

発覚した以外にも痴漢を働いたことがあるのではないかという質問が繰り返されたが、福島被告はそれを認めることはなかった。

また、調書では「手の甲で触った」というが、起訴状や被害者の調書では「手のひらで包み込むように触り撫でた」とあり、言い分が食い違っている。これについても裁判官が問いただしたところ、


福島被告「電車が着くか着かないくらいに手のひらになったと思います」

裁判官「両手とも?」

福島被告「あまりよく覚えていないんですが、もしかしたら駅に着く手前で両手になったかもしれません」

裁判官「被害者は手のひらだと言っている、そういうならそうかも、と?」

福島被告「はい」

記憶としては手のひらになったこともある、という認識のようだ。

裁判官「朝の電車で競艇に行くつもりだったんですよね」

福島被告「はい」

裁判官「この時間の電車は危ないなと当時考えなかった?」

福島被告「混んでる電車に乗ったの間違いと思います」

裁判官「乗る前からわかりますよね。仕事でもないのに無理して行かず、別の時間に、とは考えなかった?」

福島被告「そういうこと、あまり考えなかった

裁判官「そういうのも場合によってはお医者さんに見てもらう必要があるとは分かりますか?」

福島被告「自分で治せると思っています」

425日の江戸川競艇場では『ゴールデンカップ』が開かれていた。1R目の場外締切予定時刻は1112分。8時すぎにアパート最寄りの駅から電車に乗るとして、江戸川競艇場までは(Googleマップによると)1時間20分ほど。

遅くとも
9時半には到着する。本場開門時刻は10時だった。早めに行って門の前で待つつもりだったのだろうか。

福島被告には懲役6月が求刑され、弁護人は「同種前科は9年も前」であることなどを理由に寛大な判決を求め、結審した。判決は翌週、言い渡される。

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