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~ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第4回日本酒編その1~

ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。

しかし、生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。

酒をビジネスマンのたしなみとして正しく楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します。

◆日本酒は辛口がいちばん?

日本酒は辛口に限るという人、多いですよね。

「大将、日本酒は何がある?」

「どんな酒がお好みですか?」

「やっぱり酒は辛口だね」

「それなら当店ではこちらがオススメです」

「じゃ、それにして」

こんな会話が日本全国、夜な夜な酒場で繰り広げられています。多くの人が辛口にこだわる理由はなんなのでしょうか。もちろん酒の好みは人それぞれですから、辛口にこだわることにことさら異を唱えるわけではありません。

でも、「とりあえずビール」みたいに、「とりあえず辛口」と言っているとしたら、それはもったいないと思うのです。

地酒は、産地によって味の傾向が異なります。

新鮮な刺身をつまみに飲むような海沿いの酒はスッキリとした辛口、保存食や漬け物などで酒を飲んできた山間部の酒はコクのある甘口が多いと言われています。

ただし、海でも穏やかな瀬戸内海に面した地域は別です。瀬戸内のママカリや小鯵などには、甘口の酒の方が合うからです。

また辛口好きの人ならご存じだと思いますが、辛口の酒を多く産出しているといわれる県がいくつかあります。まず「淡麗辛口」という言葉を世に広めた新潟。そして繊細な新潟の辛口に比べ、男らしく骨太な印象の高知。

この2県が辛口県の代表格とだしたら、スッキリとしてスイスイ飲める富山、味のある辛口の鳥取が続きます。また、淡麗でアッサリとした北海道、洗練された味わいの宮城も辛口県です。

こうしてみると、一言で辛口といっても、味わいにかなり違いがあることにお気づきでしょう。県単位の傾向だけでもこれだけ違うのですから、蔵ごとになるともっと個性が出てきます。

また、辛口県以外の県がすべて甘口としてひとくくりにしていいかというと、そうでもありません。

たとえば今流行の甘酸っぱい酒はどうでしょう。若い蔵元たちがつくっている、日本酒女子に大人気の酒です。また、鑑評会で金賞をとった大吟醸のように、スッキリしていながら甘みや旨味を強く感じる酒もあります。

ほかにもコクがあってこってりした酒や、ワインのような酸味の強い酒もあります。それぞれが個性を主張していて、もはや甘口と辛口の2択ではおさまりきれません。

辛口主義の人は、辛口という狭いカテゴリーの中だけで日本酒を飲んでいて、味わいの違いを楽しむという酒本来の面白さに気づいていないのではないでしょうか。私はこれがもったいないと言っているのです。

◆淡麗辛口の日本酒を簡単につくるテクニックがある

意外と知られていないのは、日本酒のつくりには、淡麗辛口にするテクニックが存在するということです。炭濾過(または炭素濾過)という言葉をご存じでしょうか?

ほとんどの日本酒は、最後に活性炭を入れて味を調えています。これが炭濾過です。

「整える」というと聞こえは良いのですが、雑味はもちろんのこと、旨味まですべて活性炭が吸い取ってしまうので、これを行うとどんな酒も色は透明になり、味は限りなく淡麗辛口になります。

炭濾過を行わない蔵として有名なのは、田酒や南部美人、菊姫などです。これらの酒は、淡い黄色で米の旨味が残っています。

田酒の蔵元西田社長はこう言っています。

「よく“炭で化粧する”というけれど、炭濾過は化粧ではない。雑味が多過ぎたり、ヒネた酒は、もう病気だと思います。だから炭は“化粧”ではなく“薬”。うちの酒は火入れや貯蔵にこだわって、絶対ヒネないようにしています。色がついていてもきれいな酒というのは存在するのです」

ただ薄辛い酒なら、たくさん活性炭を入れれば簡単につくれます。難しいのは、米の旨味がありながら、きれいでスッキリとした酒です。そういう酒に出会ったら、その蔵の技術力は高いと思って間違いないでしょう。

辛口主義の皆さん、これからは炭濾過にだまされないでくださいね。

もうひとつ、辛口主義の日本酒通がこだわる「日本酒度」について、衝撃の真実をお話ししましょう。

◆日本酒度に関する思い込み

日本酒度は通常裏ラベルに書いてあり、一応、プラスにいくほど辛口、マイナスにいくほど甘口ということになっています。「一応」と言ったのは、この日本酒度がくせものだからです。

じつは日本酒づくりの現場では、日本酒度が甘辛を表す指標とは考えられていません。

日本酒度はあくまでも比重で、水より重ければマイナス、軽ければプラスとなります。糖分は重いのでマイナス、アルコールは軽いのでプラスです。

問題は糖分の組成にあります。日本酒は純粋なアルコールではないので、どんなに日本酒度がプラスでもエキス分が残っており、その中には糖分も含まれます。

その残糖の構成が、ブドウ糖を多く含んでいれば甘く、デキストリンなどの糖であればあまり甘みは感じません。

また、アミノ酸の中にも甘みを感じる成分がありますし、酸度が低くても甘く感じます。つまり日本酒度じたいが甘辛を正確に表していない上に、アミノ酸度や酸度とのバランスでも甘辛の感じ方が違ってくるというわけです。

ですから「日本酒度プラス8の超辛口!」などという酒でも、甘く感じる酒はあります。それでも辛いとありがたがるのは、ラベルや日本酒度の数字を頭で変換して飲んでいるからです。

そもそも醸造酒でワインほどの酸味がない日本酒は、甘い酒なのです。

どうしても辛い酒が飲みたければ、どうぞ焼酎などの蒸留酒を飲んでくださいね。

【江口まゆみ】

神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学卒業。酒紀行家。1995年より「酔っぱライター」として世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本国内でも日本酒・焼酎・ビール・ワイン・ウイスキーの現場を100軒以上訪ねる。酒に関する著書多数。

SSI認定利き酒師、JCBA認定ビアテイスター。

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