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『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』(池田純/文藝春秋)

赤字24億円だった「横浜DeNAベイスターズ」を5年で5億円超の黒字へ転換。最下位続きだったチームをクライマックスシリーズに進出させ、弱小球団から脱却、躍進させた、就任当時35歳の元球団社長・池田純氏。

その組織再生の全容が、マーケティングの視点で書いた『空気のつくり方』と、仕事への向き合い方の視点で書いた『しがみつかない理由』に続く新刊『常識の超え方』(文藝春秋)ですべて明らかになった。

3部作最後となる本書は“経営”と“スポーツビジネス”を体系的にまとめたもの。プロスポーツというと、チームの勝ち負けばかり話題になりがちだが、球団が会社組織である以上、目指すべき第一義は優勝ではなく「強い経営」である。

目標は優勝でも、目的は黒字化でなければならないのだ。

その目的を5年で達成するため、しがらみの多いプロ野球界で旧態依然とした球団の改革に向けて池田氏が実践した成功法則は、ほかのビジネスでも応用できる再現性の高い内容となっている。そのポイントをいくつか紹介しよう。

チームと一体化し、地域と一体化し、ファンと一体化する経営

経営がチームに口出しすることをタブー視する風潮があるなか、池田さんは球団の経営状況と目指すべき方向性をチームと共有。試合で負けたあとの反省と改善を習慣づける仕組みもつくった。それにより経営サイドとチームの一体感を強化。

横浜スタジアムの“城下町”構想では、野球チームの本拠地としての街づくりに積極的に参画して地域と一体化した。

ファンに対しては、スポーツのエンターテインメント性を意識したモノやコトで楽しみや感動を与え、球団固有のブランドイメージを共有することで一体感を高めていった。

さらにそのすべてを集約し、球団とチームとファンのコミュニケーションを育む場として理想のスタジアムをつくるため横浜スタジアムを買収。

前代未聞、問題山積でも夢をカタチにすることをあきらめない池田氏の、買収に向けた地道な根回しやいい意味での執念深さはさすが企業再生のプロ、逆境であるほど情熱的になるようにも見える。

ビジネスとは顧客とのコミュニケーション。一方通行のビジネスはもう成り立たない

こうして球団とチーム、地域、ファンがつながる一体経営により、わずか5年で観客動員数は110万人から194万人に、ファンクラブ会員数は11.8倍に、売り上げは52億円から100億円以上に増えたのである。

もちろんそれが達成できたのは「5カ年の改革(黒字化)プラン」に基づいた池田氏のブレないロジックと、強烈なリーダーシップで組織改革を進めながら地域や行政、社内外の関係者と良好な関係を結んだ人間力あってのこと。

しかし現場と顧客と地域が一体となることで経営を強化する手法は、他のビジネスでも学ぶべき点が多い。ただプレーして試合を楽しんでもらえばいい、ただ商品をつくって売ればいいという一方通行のビジネスでは、もう通用しない時代なのだ。

顧客心理を読み、心をわしづかみにするマーケティングとブランディング

球団経営の売り上げは、「チケット」「グッズ」「スポンサー」「放映権」「シーズンシート」の5つで主に構成されているという。すべて球団のファンをいかに増やすかにかかっている要素だ。

そのためには顧客心理を的確に読み、購買意欲を上手く引き出す知恵や工夫を凝らす努力が必要だ。

あの球団を応援したい、シリーズやイベントに行きたい、プレミアシートのチケットを買いたい、あのグッズが欲しい…、ファンにそう思ってもらうために池田氏が実践してきたマーケティング、ブランディング、サービスや企画・演出等の体験談を、本書では18のメソッドとして紹介。

さまざまなアイデアや課題解決の具体例は、ほかの業種のビジネスで活用できるものも多いだろう。

目先の利益より、顧客の共感と満足度を高める投資を優先

「顧客が楽しいかどうか」「顧客の共感を得られるかどうか」を重んじる言葉が、本書には繰り返し出てくる。

たとえ目先の利益につながらなくても、多少コストを投じてでも、その2つを満たすサービスなら将来を見据えた投資も必要というのが池田氏の考え方だ。

2億円をかけて72万人の子どもたちにベースボールキャップをプレゼントしたサービスもそのひとつ。

関連グッズも配布し、グッズを全部揃えたいファンのリピート来場を促すほか、野球好きの子どもが増えて野球人口の裾野が広がってほしいという希望を込めた企画だ。

ファンだけでなく選手のモチベーションアップも重視し、誰もが認める結果を出した選手や、将来を担ってほしい選手の年俸は期待を超える額を提示。それができるのは黒字化が前提であることが、選手たちのやる気につながった。

儲けるための投資ではなく、育てるための投資。人の心を重んじる池田氏の経営姿勢が、こういった面からもよくわかる。

常識にとらわれず、まずはやってみることで道は拓ける

たとえ倒産寸前であっても、顧客第一主義の経営を貫き通す。前例や常識にとらわれず、それが顧客にとってよりよいものになるならチャレンジして、トライアンドエラーを繰り返しながら改善を重ねていけばいい。

最初から「できない」「無理」「ありえない」と決めつけると、企業の前途も成長もないと断言する池田氏。本書には、スポーツビジネスだけでなくすべての業種に通じるビジネスのエッセンスが詰まっている。

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