記事提供:サイゾーウーマン

サスペンスドラマで見ることの多い筆跡鑑定。騙す目的で他人が似せようと書いた筆跡をプロは何をもってして、どう見破っているのか?筆跡鑑定人で『自分のイヤなところは直る!』(東邦出版)著者の牧野秀美氏に筆跡鑑定の現場について話を聞いた。

『自分のイヤなところは直る!』(東邦出版)

婚姻届を勝手に偽造され、知らぬ間に結婚させられているケースも

――筆跡鑑定というと遺言書のイメージが強いですが、そのほかの筆跡鑑定もあるのでしょうか。

牧野秀美氏(以下、牧野) はい、「貸借契約書の鑑定」や、「誹謗中傷文書の鑑定」もあります。子どものいじめ被害、従業員や店舗に対する悪質な誹謗中傷文書、職場の同僚に対する誹謗中傷や暴露文書などの書き手を明らかにします。

――誹謗中傷の場合、「筆跡」のないオンラインのものが多そうな印象です。

牧野 そうですね。ただ、メモや手紙、アンケート用紙の誹謗中傷がまったくないわけではないんです。

自分の素性を知られたくない場合、匿名であっても履歴が残るITツールの使用は控える一方で、アナログな手書き文書ならば筆跡さえバレなければ足はつかないと考えるのでしょう。ほか、「遺言書以外の公文書の鑑定」ですね。

「婚姻届」や「養子縁組届」などに偽造がないか鑑定します。

――筆跡鑑定は、刑事事件が絡むケースもありますよね。

牧野 はい。依頼者の要望として、「1. 裁判所に証拠として提出するため鑑定書を作成してほしい」「2. 結果がわかればいいので鑑定書の作成は必要ない」の2パターンがあります。

1のうち、殺人に絡むもの、詐欺、横領、贈収賄、有価証券偽造、公文書偽造などは刑事事件となります。その場合、書き手の特定のほかに状況を特定するための証拠として、科捜研の最新のハイテク装置による解析が適宜必要になります。

それにより劣化した文字の復元や、書き足した文字の浮き出し、紙やインクの成分分析、数値化された筆圧の強弱などが明らかになります。それ以外の私的紛争の範疇に属するもの、書き手特定が目的の民事事件は、私たち民間の鑑定人で対応できます。

どうやって「人がまねして似せた筆跡」だと見破る?

――筆跡鑑定ではどうやって、他人が欺くつもりで書いた文字を見破るのでしょうか。

牧野 一口に偽造といっても、シンプルなもの(単純に似せて書いたもの)から手の込んだもの(本人の直筆をコピー拡大したものを透写するなど)まであります。単純にまねしたものであれば、見た瞬間にわかることがほとんどです。

それは職人の感覚としての直感的なものです。もちろん、直感が間違っていることもあります。だからこそ鑑定を行いきちんとした裏付けを取ります。ぱっと見ではわからない巧妙なものでも、鑑定のプロセスを踏まえていけば明らかになっていきます。

まず拡大することで違いがはっきりしますし、文字の書き始めや書き終わりの画線、文字と文字の間隔がぴったり同じなど、あまりに似すぎていても不自然な感じを受け、「おや?」と思います。それが見破る第一段階です。

書き手がどんなに意識して筆跡を似せて書いたつもりであっても、書き癖は必ず露呈します。その箇所が偽造の根拠であると論理的に説明できた時点が見破る第二段階といえます。

例として、以下のA~Cのうち2つは同一人物が書いたもので、残りの1つは別人がまねして書いたものですが、まねして書いたのはどの筆跡だと思いますか?

――ぱっと見は、明らかにBだけ書体が違うように見えますが…?

牧野 答えはAです(B、Cを書いたのが同一人物)。図2の、赤丸で囲んだ部分を見てください。BとCは第3画の最後と第4画の始めが離れています。しかしAは接しています。しかもAの書き手は、下からひっかけるような書き方をしています。

この微細な特徴の違いこそ、書き手の持つ筆跡個性の違いになります。

文字は半ば無意識に書いており、文字に安定して表れる書き手特有の形が、今述べた「筆跡個性」です。筆跡個性は無意識に出てしまうものなので、隠そうと思っても隠しきれません。

病気や高齢で文字が変化しても、鑑定はできる

――しかし、Bにはつくりの「子」の部分に大きなハネがあり、AとCにはハネがないのが気になります。

牧野 ここで「個人内変動」が登場します。いくらその人特有の筆跡があっても人は機械ではありませんから、必ず変動の幅があります。これを「個人内変動」と言います。

これらを総合的に考えると、この場合はAを書いた人物がCを模写した可能性が大きいわけです。筆跡鑑定はこの「個人内変動」をどう捉えるにかかってきます。マニュアルは存在しない職人の腕の見せどころです。

個人内変動は、人によって変化の幅が異なりますので、できるだけ同じ文字を取りだしその人の幅を確かめます。

また、縦書きか横書きか、書くスペースが広いか狭いか、筆記具は何か、そして、その時の書き手の心情によっても個人内変動は変わってきます。

――遺言書を書く時点で高齢だったり、体調の悪い人が多くなりますよね。それにより字にも変化が出るはずですが、筆跡鑑定ではそれをどう加味していくのでしょうか。

牧野 そうですね。もはや文字を書けるような状態ではないにもかかわらず、家族が半ば強制的に本人にペンを持たせる事も珍しくありません。

年齢を重ねるにつれ文字も省エネになり、小さく縦長傾向になることが多いですが書き癖は変わりません。

ですから病気や高齢であっても書き癖が安定的に出ている状態であれば、「力が入らないため筆圧が弱くなる」「筋肉が硬くなってくるので滑らかに筆が進まず文字の線がぎこちなくなる」などの加齢による要素を加味することで鑑定は行うことができます。

(後編へつづく)

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