「アメリカの空気は、中国よりはるかに新鮮でした」。アメリカの大学を卒業した中国人の女子留学生が卒業式でこうスピーチをしたところ、中国のネットユーザーから批判が殺到。中国の国営メディアもコメントを引用してスピーチを批判的に伝えたことで、大きな注目を集めている。中国といえば、政府による“言論統制”が有名だけど、留学生のスピーチにまで神経を尖らせるのはちょっと理解しがたい…。中国の“言論統制”はどれくらい厳しいのだろうか?

【3つのポイント】
1. 中国の情報統制は共産党が“民主化”を警戒しているから
2. メディアはすべて国有? SNSなど規制の対象に
3. ネットの発達で政府によるコントロールも難しくなっている

1. 中国の情報統制は共産党が “民主化”を警戒しているから

この留学生がアメリカで最も衝撃を受けたのが「ロス暴動に関する演劇を見たとき」だったという。ロス暴動とは1992年、黒人男性に暴行した警官への無罪評決を機に、不満を募らせた黒人たちなどが起こした暴動のこと。原因は差別や貧困で、アメリカでは現在も議論が続く。

なぜ衝撃を受けたのか? 彼女はスピーチでその理由をこう語っている。「演者の学生たちは、人種や政治について議論していました。とても驚きました。公の場でこうした話題が討論できるなんて、想像したこともなかったからです」。どうやら中国では、公の場で差別や政治といったテーマを議論することがいまだできないようなのだ。

「中国は建国以来、共産党の一党支配が約70年続いています。中国共産党が警戒するのは、民主主義の思想が入ってきて、人々が政権を倒そうとすること。そのため、中国では政府による様々な“情報統制”が行われているのです」

そう話すのは、現代中国を専門とする立教大学法学部教授の倉田徹さん。

2. メディアはすべて国有? SNSの多くが規制の対象に

倉田さんによれば、中国ではFacebookやTwitter、YouTubeなど、僕らが当たり前に使っているサービスも使えない。その代わりとなるのが、「微博(ウェイボー)」や「wechat」といった政府の管理下にあるサービスだ。ただし、ここでも政府にとって都合の悪いコメントがあれば削除されるのだそう。

出典 http://weibo.com

※画像はサイトのスクリーンショットです

なかでも、中国政府が最も警戒するのが「天安門事件」に関する投稿。1989年に多数の学生などが民主化を求めて北京の天安門広場に座り込み、それを制圧するために軍が発砲して多数の死者を出した「動乱」のことだ。

「天安門事件は、西洋思想に影響を受けた中国国民が起こした民主化運動の象徴的出来事。共産党政権にとって、同じ事態を招くことは許されません。ネット上では『天安門』で検索するとエラーが出ますし、事件が起きた『6月4日』もNGワードです。民主化に直接関係がないことでも、中国共産党の不利益になりそうな情報は遮断されることがあります

ネットだけではなく、紙メディアでも外国の出版物には検閲が入り、政府にとって都合の悪い情報が書かれたものは空港で没収。新聞社や出版社など、国内のメディアもすべて国有企業らしい。

3. ネットの発達で政府によるコントロールも難しくなっている

もっとも、最近はすべての言論を統制するのが難しくなっているそうだ。一番大きな理由は、ネットの発達とスマホの普及により、中国政府による情報統制や検閲が追いつかなくなっていること。

「今回の留学生の卒業スピーチの炎上も、中国では閲覧できないはずのYouTubeで起きたことでした。炎上させられるぐらいの数の国民が、政府の検閲をかいくぐって(=ネット上の規制を技術的に突破して)YouTubeを見ているのです」

ちなみに、留学生への批判は、エリート女子大生に対するやっかみの気持ちが大きいのだとか。

中国政府としては、民主主義の思想が入ってこないようにしつつ、国民の支持を得なければいけないが、その一方で国民は、アメリカなどの国への好奇心も強い。どこまで規制すべきか、中国政府としてもコントロールに頭を悩ませているのが現状だそう。

SNSやYouTubeをいくら見ても文句を言われない僕らは、もしかすると結構めぐまれているのかも!?

(喜屋武良子/清談社)

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