四半世紀にわたって日韓間の政治的課題であり続けた「従軍慰安婦問題」。2015年12月に日韓両政府が「最終的かつ不可逆的に解決させること(つまり、ひっくり返らないということ)」で合意し、歴史的解決へと近づいていた…はずだった。

しかし5月17日、岸田文雄外相と韓国の文 喜相(ムン・ヒサン)大統領特使による会談が行われ、特使がこの日韓合意について「韓国国民の大多数が情緒的に受け入れられない」と表明した。国際社会が見守るなかで合意に至ったはずだが、情緒的にって…。一体なぜそうなるのか?

【3つのポイント】

1. 安倍首相がお詫びを表明して10億円を送金! が、少女像は撤去されず…

2. 新・文大統領は以前から「日韓合意」に納得していなかった?
3. 韓国国民が受け入れていないのは、朴前大統領の説明不足が原因?

1. 安倍首相がお詫びを表明して10億円を送金! が、少女像は撤去されず…

そもそも、2015年の日韓合意とはどのような内容だったのか。日本側は、安倍首相が元慰安婦に対して「心からお詫びと反省の気持ち」を表明、また彼女らを支援する財団に対して10億円の拠出をするという内容が盛り込まれた。2016年8月にはこの合意にもとづき送金を完了。

韓国側はというと、ソウルの日本大使館前に設置された“慰安婦を象徴する少女像”の撤去に関して、具体的な対応を取ることを約束したはずだった。しかし、撤去はまったく進んでいないどころか、2016年12月には釜山の日本総領事館前にも少女像が設置される結果に…。

2. 新・文大統領は以前から「日韓合意」に納得してなかった?

そして2017年5月10日、文 在寅(ムン・ジェイン)新大統領が誕生。革新系の最大野党に所属する文大統領は、選挙中から、この日韓合意について「日本政府に再交渉を求める!」と繰り返し表明していた。

また1月には、釜山に設置された慰安婦像を訪れて、自身のツイッターアカウントで「釜山市民の少女像設置は真の独立宣言です」と書き込み、設置を賞賛。大統領就任後もこの姿勢を崩さない様子だ。

この事実だけ見ると、文大統領が非常に反日的な存在に見えてしまうが、韓国の政治に詳しい、立教大学の孫斉庸(ソン・ジェヨン)准教授は“そうではない”と語る。

「文大統領だけが強硬な姿勢をとっているわけではなく、日韓合意の見直しを公約に掲げた候補者が非常に多かった。仮にほかの人が大統領になっていたとしても、今のような流れになる可能性はありました」

3. 韓国国民が受け入れていないのは、朴前大統領の説明不足が原因?

韓国の国民のなかで、合意を受け入れたくないという感情がそこまで強いのはなぜか。その背景には、2015年に合意を結んだ朴槿恵(パク・クネ)前大統領の指導力不足もあった。

「今年3月に逮捕された朴前大統領は、日韓合意が結ばれた2015年末時点で、すでに国民から様々な疑問を持たれていて支持率も低かった。そのうえ、国民に対してこの日韓合意に関する説明をほとんどしていませんでした。国民が納得した状態で結ばれた合意ではないため、『受け入れられない』という意見が多数派なのだと考えられます」

国民の多数派意見をバックに「合意を受け入れられない」表明をした文大統領。このまま合意がなかったことになってしまうのだろうか?

「北朝鮮情勢が緊迫するなか、日本との関係は友好に保ちたいのが本音のはず。すでにコストをかけた合意を、ゼロからやり直しにしたら何年経っても終わらない。(今回の意見表明は)今の合意をベースに、世論を納得させる方向に持っていけないか…という狙いがあるのかもしれません

日本人にとっては感覚がつかみづらいかもしれないが、政権交代によって政策の方向が変わるのは、世界的にはそう珍しいことではないよう。アメリカのトランプ新大統領がTPPを白紙に戻したのも記憶に新しい。

北朝鮮のミサイルに対する警戒が強まっているなか、韓国との関係は良好に保ちたいが、「情緒的に」と言われてしまっては難しい気も。落とし所はあるのだろうか…。

(森 祐介)

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