■騒がない子は本当に「いい子」なの?

「あら、いい子にしてるわね」と幼児がほめられるのは、たいていおとなしく座っているときだ。「静かにできる子」イコール「いい子」ということだ。

とくに昨今は、「子どもの声は騒音」「おとなしくさせるのは親の責任」とばかりに、厳しい目が向けられる。しかも、スマホやタブレットなどがあれば、映像やゲームで簡単に子どもをおとなしくさせられる時代だ。

そんな「いい子」の量産は、はたして本当に望ましいことなのだろうか。その危険性を説くのは、小児科医であり発達脳科学者でもある成田奈緒子さんだ。

「本来、子どもは落ち着きがなく、ちょろちょろ動き、大声をあげ、はしゃぎ回るものなのです。なぜだと思いますか?それが人間の脳の重要な部分を発達させるからです」

■激しい興奮があるから「抑制」が育つ

成田さんが着目しているのは、大脳皮質の前方にある前頭前野だ。思考や創造性といった「人間らしさ」を担う部分だが、なかでも重要なはたらきの一つが「抑制機能」だ。

腹が立ってもこらえる、45分間すわって授業を受ける、遊びたくても宿題をする…、それが抑制機能だ。

前頭前野はだいたい10才ごろから完成に向かうと言われるが、そのくらいになっても抑制機能が育たたない子が増えているという。キレやすい子、学級崩壊を招く子などがその代表だ。

成田さんは「脳育ての順番をまちがえている」と指摘する。

「抑制機能がしっかり育つためには、それ以前に脳が十分な興奮を体験している必要があります。幼いうちに強い興奮を味わっていない子は、小学生くらいになっても抑制機能が弱いままです。強くアクセルを踏んだ経験がなければ、ブレーキを強く踏む必要がないのと同じです」

■じゃれつき遊びのあとには高い集中が訪れる

抑制と興奮の関係を調べた成田さんの実験がある。

児童及び成人ボラインティアに協力してもらい、一斉におしくらまんじゅうやレスリング、くすぐりっこなどの「じゃれつき遊び」をしてもらい、その前後にストループテストという課題を行った。

これは、色文字で書かれた言葉を見せ、文字の色を答えるテストだ。一見簡単そうだが、赤い文字で「みどり」と書かれていると、つい「緑色」と答えたくなってしまう。

正しく「赤」と答えるためには、前頭前野の抑制機能のはたらきが重要だというわけだ。

結果、じゃれつき遊びを行った直後には、抑制機能のはたらきが5~20%程度上昇したのだ。これは子どもでも大人でも同じだった。

「じゃれつき遊びをしたとき、脳は非常に興奮しています。だからこそ『これをおさえなくちゃ』と強い抑制機能が働くのです。強い興奮のあとには、強い抑制が働きます」(成田さん)

■幼児期の自制心は、見せかけの抑制機能

抑制機能は、成長にともなってどんどん重要になる脳の機能だ。勉強、運動、そして円滑な人間関係。でもそれを幼児期に求めてしまうと、見せかけの抑制だけが育ち、本来その時期に育つべき興奮する力をぺしゃんこにしてしまう。

「幼児期に力を入れて育てるべきは、動物的な脳のはたらき。知的能力、対人関係能力などは、もっとゆっくり育てるべきです」(成田さん)

正しい脳育てとは何か。成田さん監修の『はじめてママ&パパのしつけと育脳』(主婦の友社)を読んでみた。

最新の脳科学によってわかった脳育ての基本が書かれた充実の一冊だが、読めば読むほど「子どもは子どもらしく」という昔ながらの言葉の意味の深さを思い知らされる。

子どもの子どもらしさを寛大に受け止められない大人こそ、抑制機能が育たなかった子どものなれのはてかもしれない。自省したいものだ。

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