百貨店独自の強みと高級感に「個性」をプラスしたことで、息を吹き返しつつある都市部の百貨店。しかし、地方の厳しい状況は未だ変わらず、次々と老舗百貨店が姿を消しています。

今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では、著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、業績不振の「三越伊勢丹HD」の生き残り策などを中心に、苦境に置かれている一部百貨店の現状を分析しています。

消えゆく地方の百貨店と三越伊勢丹の現状

佐藤昌司です。かたや老朽化した古めかしい百貨店、かたや新規開業した真新しい商業施設やテーマパークのような開放的な空間で、高級ブランドや人気ブランドが低価格で買える商業施設。勝負の行方は明白でした。

2月26日、仙台駅前にある「さくら野百貨店仙台店」(仙台市)は営業を停止し、翌27日に同店を運営するエマルシェが仙台地裁に自己破産を申請、破産手続き開始決定を受けました。同店は昨年6月に創業70周年を迎えた老舗です。

同店は駅前の好立地にありましたが、競争の激化により苦戦が続いていました。2011年3月に発生した東日本大震災により仙台駅周辺は再開発され、大型商業施設が新規開業したことで競争がさらに激化し、有力テナントが撤退していったことで業績は急激に悪化しました。

地方ではショッピングセンターが台頭しています。デフレ不況やリーマンショックに端を発した経済の低迷で消費者は低価格志向を強め、主に高額品を扱う百貨店は敬遠されるようになりました。

高価格帯のブランドであっても、少し足を運べばアウトレットモールで割安価格で購入することができる時代です。イオンモールなどのショッピングセンターも台頭し、百貨店の地位は相対的に低下していきました。

「さくら野百貨店仙台店」が立地していた仙台市には「三井アウトレットパーク仙台港」と「仙台泉プレミアム・アウトレット」の2つのアウトレットモールがあります。

三井アウトレットパーク仙台港には仙台駅から電車と徒歩で30分以内で行くことができます。テーマパークのような開放的な空間が広がり、高級ブランドや人気ブランドがおしゃれな佇まいで軒を並べています。

三井アウトレットパーク仙台港はもちろん一例です。様々なショッピングセンターが各地で台頭しています。さらに百貨店同士の競争も激化しています。

さくら野百貨店仙台店は改装しているとは言え老朽化が激しく、今の時代に合った建物の構造でもなかったため、有力テナントや消費者が敬遠するようになりました。

同店の閉店は必然
だったといえるでしょう。それとともに、今の時代の百貨店の現状を映し出す鏡のようにも思えます。

次々と閉店に追い込まれる「地方の百貨店」の現状

地方の百貨店の苦境が鮮明です。2月28日に西武筑波店が閉店しました。茨城県つくば市で唯一の百貨店で、32年の歴史に幕を下ろしました。2月28日には西武八尾店(大阪府八尾市)が36年にわたる営業に終止符を打ちました。

地方の百貨店は都市部の商業施設とも競合しています。共働き夫婦や単身世帯の増加、地下の下落などを理由とした人々の都心回帰の動きに合わせて、都市部では商業施設の新規開業や既存商業施設の改築・改装が相次いでいます。

地方の人でも都市部に足を運べば魅力的な商業施設を利用できます。

西武筑波店が閉店した理由の一つとして、都心部の商業施設との競争で敗れたことが挙げられます。2005年に鉄道「つくばエクスプレス」が開業しました。

茨城県・つくば駅と東京都・秋葉原駅を結ぶ路線で、最速45分で両駅を結びます。多くの人々が同鉄道を利用して都心に買い物に出て行くようになりました。

また、2013年にイオンモールつくば(つくば市)が沿線で開業するなど、沿線にある競合との競争も発生しました。そのため西武筑波店から客足が次第に遠のいていったのです。

深刻なのが三越伊勢丹ホールディングス(HD)です。3月20日に三越千葉店と三越多摩センター店が閉店しました。

さらに、広島三越(広島市)、松山三越(松山市)、伊勢丹松戸店(松戸市)、伊勢丹府中店(府中市)の4店舗のリストラが発表されています。

2016年3月期の広島三越の最終損益は1億円の赤字、松山三越は3億円の赤字です。伊勢丹松戸店と伊勢丹府中店の売上高は減少傾向を示しています。

また、2017年1月9日付読売新聞は、「百貨店首位の三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、札幌、新潟、静岡にある5店舗について、売り場面積の縮小や業態転換を含めた構造改革を行う方向で調整に入った」と報じています。

前出の4店舗のリストラは社長の辞任の引き金にもなりました。リストラを発表した大西洋社長(当時)は社長辞任に追い込まれました。社内で機関決定されたリストラ策でなかったため反発を招いたことが一つの理由とみられています。

また、改革策や待遇について伊勢丹出身者と三越出身者の意見対立が表面化したことも辞任に影響したと言われています。

経営統合が裏目に出た伊勢丹と三越

同社は、伊勢丹と三越とが経営統合し、2008年4月に持ち株会社として発足しました。2011年4月には合併新会社として三越伊勢丹が発足しました。経営統合は、増収増益を続けていた伊勢丹が減収減益を続けていた三越を救う形で行われました。

経営統合時の両社の売上高は同程度でしたが、経常利益は伊勢丹が三越の2倍以上も稼ぎ出している状況でした。

当時の業績は伊勢丹が優位にありました。流行やファッション性を追求し、若者を中心に支持を得て勢いがありました。一方、三越は老舗のプライドがありました。1673年に三井高利が前身の越後屋を創業しました。

創業者の名前と屋号のそれぞれ一部を取って「三越呉服店」となり、現在の「三越」になりました。社名で三越を先にしているのは、三越のプライドを保つためだったと言われています。

水と油のように見える両社でしたが、相乗効果と規模の経済を期待し、経営統合の道を選びました。しかし、2008年に行われた経営統合以降の業績は低迷しています。

三越伊勢丹HDの2009年3月期の売上高は1兆4,266億円ありましたが、その後右肩下がりで低下し、2016年3月期には1兆2,872億円にまで減少しています。

同社はリストラが不可避の状況です。売上高は業界首位にあるものの、減収傾向の上に収益性が低く高コスト体質から脱却できていません。同社百貨店事業の本業のもうけの割合を示す営業利益率は近年1.6~1.9%で推移しています。

業界3位の高島屋の1.5~1.9%と同程度ですが、大丸松坂屋百貨店を運営する業界2位のJ.フロント リテイリングの2.0~3.8%に水をあけられています

ちなみに、西武やそごうを運営するセブン&アイ・ホールディングスの百貨店事業は深刻で、0.4~1.1%です。

営業利益の額を見ても、厳しい現状がうかがえます。2015年度の三越伊勢丹HDの百貨店事業の営業利益は215億円で、J.フロント リテイリングの287億円と比べて見劣りします。

三越伊勢丹HDの同年度の会社としての営業利益は331億円で、商業施設「パルコ」を加えたJ.フロント リテイリングの営業利益480億円、イオンモールの日本セグメントの493億円と比べても見劣りしています。

それでも「三越伊勢丹」は過去の栄光にすがり続けるのか

三越伊勢丹HDは、老舗のプライドと過去の栄光にすがり、消費者不在の論理をかざしている場合ではないでしょう。業界のリーディングカンパニーとして未来の百貨店のあり方を描く立場にあります。

それができなければ、さくら野百貨店仙台店と同じ道を歩むことになるのではないでしょうか。

百貨店は不採算店舗の閉鎖が不可欠です。従業員の意識改革も必要です。都市部にある旗艦店は適宜改修やリニューアルを行い、魅力的で個性的なテナントの誘致とコト消費に対応した売り場の構築が求められます。

オムニチャネルの推進や小型店舗の開発・出店も求められます。時代に適合した百貨店のあり方を示せるかが問われるでしょう。

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