出典TOYOTA GAZOO Racing

フォーミュラ1や世界耐久選手権と並ぶ自動車レースの花形、世界ラリー選手権(WRC)

時には未舗装の公道を、市販車ベースのマシンが高速で駆け抜けるこのレース。日本ではさほど知名度が高くない印象がありますが、欧米では絶大な人気を誇っており、そこでの戦績によって、クルマの売れ行きにも影響してくるほどです。

そして開催期間ですが、数日で終わるものではありません。今年1月19日のモンテカルロ開幕戦にはじまり、11月19日のオーストラリア最終戦まで10ヶ月あまりもの間、世界各国で3~4日間に渡りタイムを競い合います。

今年はトヨタが18年ぶりにWRC復帰…そして優勝!

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WRCには、かつてスバル、三菱自動車などの日本車メーカーが数多く参戦していましたが現在はいずれも手を引いています。そんな中、トヨタが今年18年ぶりに復帰

それだけでもトピックスなのですが、2月9日に行われた第2戦のスウェーデンでは見事優勝!早々に結果を出したことに、豊田章男社長も「こんなにも早くその瞬間が訪れることは、私の想像を超えておりました」と語っています。

2017年のWRCに、トヨタは『Yaris(ヤリス)』という車種で参戦していますが、日本では『Vitz(ヴィッツ)』の名前で販売されているコンパクトカーをベースにしたもの。あの小さなボディで、世界との戦いを制すという結果に、改めてトヨタの技術力の高さを伺わせます。

今回は、この快挙に至るまでの背景をトヨタ自動車・市川さんに語っていただきました

優勝できた要因は…

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――18年ぶりの復帰にもかかわらず、第2戦で優勝。要因は何だと思いますか?

市川:
チーム全員が共通の目的に向かって、チームワークを重視して、一丸となって突き進んできた結果かと思います。

もちろん、競争ですから勝つことは目標の一つになりますが、我々はまだまだチームとしては若い。特に今年は一つ一つの経験が将来の我々を、そして『Yaris』を強くすることだと思い、無欲で余計なプレッシャーをかけることなく目の前のことに当たってきました。

なので我々にとって、この優勝という結果は本当に“サプライズのご褒美”のようなものでした。その結果に至る過程として良かったなと思うことは、第1戦のモンテカルロで起こったトラブルに制限時間内に対処できたこと。このトラブルは昨年中に積み重ねたテストでは発生せず、改めて実戦の厳しさを教えてくれた出来事でした。

そしてスウェーデンまでには、根本対策を練って対応し、同じトラブルを起こすことなく完走。ハンニネン選手が残念ながら2戦続けてクラッシュしてしまった後も、やはりメカニックが制限時間内で修理を施し再びラリーに送り出せました。また復帰したハンニネン選手も、次戦以降を見据えてのテスト的な走りに切り替え、各人がそれぞれの立場で力を発揮して、チームに貢献する意識をしっかり持ってくれたのが大きいと思います。

これはチームの立ち上げ当初から、代表のマキネンがこだわってきたチーム作りのキーポイントでもあります。それぞれプロ意識が高く、目標に向かって最大限の努力をし、お互いに支えあっていく家族的な雰囲気を感じられるチーム。彼が目指したものに、まさになっていると思います。マキネン代表がそんなチーム作りを表す言葉として「Responsibility(責任感)」「Trust(信頼)」「Transparent(透明性)」の3つを挙げています。個人が責任感をもって、お互いに信頼しあいながら、組織内として包み隠さずなんでもオープンに議論できるチーム。これが大事だと改めて勉強になりましたし、これはラリーチームに限らず、職場など普段皆さんが所属する組織にも生かせる考え方じゃないでしょうか。

結果が決まるドキドキの最終日。代表と交わした言葉は…

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市川:ちなみに、スウェーデン最終日、私はかなり緊張していました。それを見たマキネン代表は「お前、緊張しているな」とひと言。彼とは2年弱の付き合いになりますが、今までと違う顔をしていたんでしょうね。

なので、マキネン代表に「心臓がドキドキしてしょうがない」と正直に話しました。そしたら「血圧を下げる良い薬があるから来い」とキッチンに私を連れて行き「これを飲め」と、“ぶどうジュース”を飲ませてくれました(笑)。

彼も一緒に飲んだんですが、もしかすると、マキネン代表もドキドキしてたのかもしれないですね。表彰式直後にマキネン代表が、“現役時代の優勝と比べて、今回の優勝はどうですか?”とインタビューで聞かれていたのですが「まったく別物。格別だよ」と言っていました。彼も相当なプレッシャーを感じてたんだと思います。ですがそれをチームメンバーには見せないところが、彼の凄さですね。

ラリー初心者がWRCで見るべきポイント

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――WRC、およびラリー初心者に向けた「ここに注目して欲しい」などあればお聞きしたいです。

市川:まず、純粋に「クルマがこんなところを、こんなスピードで走っている!」ということに驚いていただけると思います。WRCは市販車ベースのクルマで、普通の道を使って競技をしています。『Yaris WRC』という名前で参戦していますが、ご存知の通り、日本では『Vitz』という車名です。街で『Vitz』を見かけた時に「へー、このクルマが元になっているんだ」と、想像していただくとより面白いかもしれません。

それとWRCでは、サービスパークと呼ばれる各チームのテントで、多い日で朝、昼、夜と3回、クルマを整備します。それぞれ制限時間が決まっていて、その中で通常のメンテナンスはもちろん、トラブルが発生していた場合は、原因を究明して、対策を立てて、クルマに実際に施すという作業をします。

それぞれクルマに触る人、触らずに解析をしたり指示をする人、外した部品を片付けてメカニックが作業しやすいようにする人などなど、チームワークよく、てきぱきと作業しています。このような作業は、サーキットのレースだと、ガレージの中で行われますし、レース中はタイヤ交換と給油作業が遠くから見られるくらいなのですが、WRCでは、近くで見ることができます。私もプライベートで世界中の様々なモータースポーツを観に行きましたが、世界選手権レベルのモータースポーツで、ここまで観客が近づけることは中々ないと思います

さらに我々のテントでは、ファン専用のブースを設けて、実際に作業をしているクルマのすぐ真横までファンの方々に入っていただけるようにしています。チームのメンバーの息遣い、緊張感を一緒に味わっていただけると思います。

出典 YouTube

WRC第2戦 TOYOTA GAZOO Racingハイライト

――4月6日の第4戦、フランス以降への意気込みを教えていただけますでしょうか?

市川:第3戦のメキシコは厳しい戦いとなりましたが、その中でも様々なことを学べた良いラリーとなりました。なので、チームメンバーは悲観することなく、すごくポジティブな雰囲気でラリーを締めくくっています。

フランスでは、今シーズン最初のターマック(舗装路)ラリーです。今までの3戦とはまた違った難しさがあります。そこで何が起こるのか、我々はそれにしっかり対処できるのか、そして走りきれるのかという不安半分、期待半分が今の心情です。繰り返しになりますが、今年は「学びの年」。一戦一戦、起こったことに個々人が臨機応変に対応し、しっかりとラリーを走り切って、今年の最終戦が終わった後に、『Yaris WRC』が一番よくなっている、チームメンバーが成長しているという状況になっていることを目指します。

もちろん、勝負事ですから、勝ち負けも重要です。が、それは一旦横において、一戦ごとの結果に一喜一憂することなく、着実にシーズンを過ごしたいですね。スウェーデンのようなサプライズは、もちろん今後もあるのではと思っています。その時は、ファンの方々と一緒に祝いたいですね。

TOYOTA GAZOO Racing公式サイトでは、ラリー初心者、WRCを知らない方に向けた基礎知識の解説や、詳しい方向けの『Yaris WRC』の詳細な情報など幅広く掲載。

市川さん自身「『こんな言葉を解説して欲しい』とか『こういうことをもっと知りたい』などご意見をどんどんいただきたい」と語っているので、どなたもぜひご覧になってみてください。

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