『生まれる性別をまちがえた!(角川コミックス)』(小西真冬/KADOKAWA)

日本は性同一性障害(GID)や同性婚についての取り組みが遅れていると思っているとすれば、進んでいるとか遅れているという捉え方は適切ではないだろう。

例えば、イギリスでは20世紀初頭まで同性同士の性交渉が法律違反とされ、ときにリンチや殺人事件に至ることも珍しくなかった。

そこには、男と女を創造した神に対する冒涜と考える宗教的な価値観が背景にあり、いわば人権運動の高まりは苛烈な弾圧をした過去への贖罪のような側面があるのだ。

ハロウィンやクリスマスを楽しみ、年越しに寺の除夜の鐘を聞いて神社に初詣する日本は、良く言えば大らか、悪く言えば宗教や異文化に無頓着。

仲間はずれを意味する村八分というのも、距離を置いて争いを回避する日本的な術なのかもしれない。

とはいえ、日本では性差への理解が乏しいのもまた事実で、性差に大らかなタイでSRS(性別適合手術)を受けて、男性から女性への性転換の体験を描いたエッセイ漫画が『生まれる性別をまちがえた!(角川コミックス)』(小西真冬/KADOKAWA)である。

幼少期の頃から自分の性別に違和感を覚えていた作者は、中学生の頃には男らしくなろうと粗暴にふるまったそうだが、その発想そのものが性の不一致を意味しており、高校に入って文化祭でバンドを組んだときに初めて女装したという。

そのことを作者は、「バンド組んでますから!」という言葉で全て許される「免罪符を手に入れた」気がすると語っている。

その後、バンド活動を通して出逢った女性と結婚したものの、とある恋愛アドベンチャーゲームの性同一性障害のキャラクターに自分を重ね合わせた作者は「やはり女になりたい」と決意、妻の理解を得て性転換することになった。

SRSを「ちょんぎるの?」と誤解しがちだが、肉じゃがをカレーにするような「作り変える技術」なのだそうだ。

一つは「反転法」と呼ばれ「陰茎の皮をひっくり返して造膣」する術式で、これは術後の膣の感度が良く費用が安く済むのがメリットだという。その反面デメリットは、愛液の分泌が少ないことや膣の深さが男性器の大きさに左右されること。

もう一つの術式「S字結腸法」では、「S字結腸の一部を利用して造膣」しているため腸液の分泌により「本物同等に濡れる」一方で、デメリットは膣の感度が鈍いことと腸液の分泌量がコントロール出来ないため「垂れ流し」になってしまう点。

では作者はというと、手術の予約が1年先まで埋まっているスポーンクリニックの名医スポーン先生による独自の技術「スポーンテクニック」を受けたそうで、「見た目」「感度」「深さ」といった「全てが本物同等の出来」だという。

本書では手術前の不安や術後のリハビリの苦しさなどを、軽快なタッチで描いているためサラッと読めてしまう。しかし現実は、手術をして終わりではない。

ピアスを通すために開けた穴を放置していると自然治癒力で穴が塞がってしまうように、作った膣もアクリル製の疑似ペニスを使って毎日拡張をし続けなければならないそうだ。

「どんなに頑張っても女にはなれない」という作者つぶやきは、悲痛で切ない。

そのうえ作者は、帰国してから患部に異常があり婦人科を訪れたものの、受診を拒否されてしまったという。また、一般的には勤務先などでのトイレや更衣室といった設備の利用の問題や、周囲の人々の理解も課題であることに触れている。

それらは、法律を整備すれば解決するという単純なものではない。法律を根拠にして告発や訴訟ともなれば人々の間に、より深刻な対立を深めてしまう可能性がある。

だからまずは、知ることから始めよう。もしそれで受け入れられないというのであれば、そっと距離を置くという選択もまたあるのだろうと思う。

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