記事提供:messy

Vanity Fair公式instagramより。

ニューヨークは人種も宗教もモノの考え方もさまざまな850万人の集合体。かつ、それぞれが自己を主張しながら生きている。その一例が街中での「乳首とヒジャブの同居」だ。

ニューヨークは女性が公の場でトップレスになる、つまり乳首を見せることが違法ではない。仮に筆者がシャツを脱ぎ捨て、上半身ハダカでブロードウェイを闊歩し、デパートでショッピングし、レストランで食事したとしても逮捕されない。

とは言え日常生活でトップレスになる女性はさすがにそうはいない。しかし年に何度かは堂々と乳首を公開する女性たちに巡り会える日がある。

乳首を解放する人びと

毎年初夏、ニューヨークのコニーアイランドと呼ばれる地区で“マーメイド・パレード”が開催される。老若男女が人魚や海神ポセイドンの仮装でボードウォークを練り歩く楽しいイベントだ。

女性の多くはカラフルな人魚風のボトムにブラ・トップ姿だが、中にはトップレスで乳首に趣向を凝らしたキラキラのシールを貼る人、ボディペイントを施して乳首を公開する人もいる。

数年前のマーメイド・パレードの日、筆者は混んだタイムズスクエアの駅でパレード帰りと思われる人魚姿の女性を見掛けた。

乳首は長い髪の毛によって微妙な塩梅で覆われているだけだったが、その女性は友人たちとおしゃべりしながら、ごく当たり前に地下鉄に乗り込んだ。

2年前の夏にはタイムズスクエアに“デスヌーダス”と呼ばれる女性たちが突如表れ、市行政を巻き込む大騒ぎとなった。

パンティと派手な髪飾りだけを身に着けたヌードの女性たちが全身を星条旗カラーの赤・青・白でペイントし、観光客と記念写真を撮ってチップを稼ぐのだ。女性のほとんどがラティーノだったため、スペイン語でハダカを意味するdesnudasと呼ばれた。

先に書いたようにニューヨークでは女性のトップレスは合法だ。市長や一部の市民が「子どもも訪れる場所なのに!」と眉を潜めながらも規制する方法がなく、しばらくは放置となった。

結果、「びっくりして後ずさる子ども+デレデレで撮影するお父さん」の図などがメディアで報じられた。

最終的には市が「人の多いタイムズスクエアで通行人の流れを遮断している」という理由でデスヌーダスが客引きできるエリアを限定し、結果、以前ほどの客を惹き付けることが出来なくなり,デスヌーダスは自然消滅してしまった。

毎年8月には“ゴー・トップレス”のマーチが開催される。意図は「男性はトップレスになれるのに女性はなれない状況を改善し、権利の平等を目指す」というものだ。

ニューヨークでは合法とは言え、社会通念上、女性が日常生活でトップレスになることははまだ難しい。そこで参加者は「乳首のプライド」「完全平等!」といったプラカードを掲げ、トップレスでマーチする。

一方、乳首を見せることはフェミニズムに反すると解釈する人々もいる。

先日、フェミニストとして知られるイギリスの女優エマ・ワトソンが、乳首が透けて見えるバーバリーのボレロ姿の写真を公開したところ、「フェミニストのはずじゃなかったの?」という批判が起きている

エマ・ワトソンがフェミニストか否かはともかく、昨今、女性セレブたちのドレスの胸元のカットがどんどん深くなっているのは周知のとおりだ。少しかがんだだけで乳房が飛び出し、パパラッチされることもしょっちゅうだ。

ニッキー・ミナージュ公式instagramより。

それを逆手に取ったのがラッパーのニッキー・ミナージュである。先日、ミュグレー、ジヴァンシーというハイファッションをまといながら意図的に片方の乳房を剥き出しにした写真を公開した。

ただし乳首を見せるとメディアに掲載されないためか、乳首にはシールが貼られている。

増えるムスリム人口→ヒジャブの自己主張

単なる楽しみのためであったり、ビジネス目的だったり、フェミニズムであったり、はたまたショッキング効果であったり。

理由はさまざまながら女性の露出度がどんどん上昇している今、逆に「隠す」美を追求し、世界に発信し始めたのがムスリム女性たちだ。

ニューヨークと周辺都市部はムスリム人口が多い。正確な数は不明ながら推定60万人もしくはそれ以上とも言われている。出身国は中東、アフリカ、アジア、東ヨーロッパと様々で、アメリカ生まれの二世も少なくない。

ニューヨーク市内に限ると公立学校の生徒の10%はムスリムと発表されている。そのため教育庁から保護者に向けたお知らせの文書にはアラビア語バージョンがあり、イスラム教の2つの祭日が休校となっている。

アメリカに暮らす若いムスリム女性のファッションは祖国の文化や各家庭の方針によっていろいろで決して画一ではない。ニューヨーク市内で見掛ける女性のヒジャブは色も巻き方もバリエーションがある。

ヒジャブに合わせる着衣も出身国の民族衣装もあれば、現代アメリカの一般的な服装もある。先日、筆者は地下鉄で黒いヒジャブ+黒いアディダスのトラックジャケット+ジーンズというヒップホップ・ファッションの若い女性を見掛けた。

小学生の女の子がピンクや花柄のヒジャブを被っていることもある。制服にヒジャブの中高生もいる。

ヒジャブに比べると少ないが目だけを出したニカブ姿の女性、ヒジャブを被らず髪は見せるが、タンクトップやミニスカートなど露出度の高い服装を避ける女性もいる。

こうした若い女性たちはイスラムの教義とアメリカ文化を折り合わせていく。

昨年の11月、ミネソタ州のミス・ミネソタ・コンテストにソマリア生まれ、アメリカ育ちの大学生、ハリマ・アデンが出場した。

アデンはヒジャブ姿でステージに立ち、水着コンテストの部では、ムスリム女性が水浴の際に身に付ける、全身と髪を覆う水着のブルキニを着た。

アデンは優勝こそ逃したものの、ケイト・モスやカーリー・クロスが所属する一流モデル・エージェンシー、IMGモデルズにスカウトされ、先月イタリアで開催されたミラノ・ファッションウィークのランウェイに登場した。

昨年のリオ・オリンピックでは、ニューヨークをベースに活動するフェンシング選手、イブティハジ・ムハマッドがヒジャブ姿で出場し、USAチームは銅メダルを獲得した。

種目を問わずオリンピックUSAチーム初のヒジャブ着用選手となったムハマッドはアフリカン・アメリカンだ。父親がイスラム教に改宗し、ムハマッドもイスラム教徒として育った。

毎年11月にフロリダ州で開催されるアマチュア・ボクシング大会に、昨年は弱冠16歳の少女、アマイヤ・ザファーも出場するはずだった。

ところが当日になって大会側はヘッドギアの下のヒジャブ、長袖のシャツ、足首までのレギンスは規則違反であるとしてザファーを失格とした。

自動的に対戦相手の15歳の選手アリーヤ・チャーボニアの勝利となったが、成り行きに納得できなかったチャーボニアは「こんなの不公平。勝者はあなたよ」と、勝利のベルトをザファーに渡した。

ムスリムと非ムスリムがスポーツを介してお互いへの敬意と友情を芽生えさせたのだ。

大会側は、ユニフォーム規定は安全性に基づいており、イスラムの服装を認めると他の宗教の選手も同様のことを望むだろうとコメントした。

アメリカのムスリム人口は増え続けている。アメリカで女性の自立や可能性を学んだ少女や女性たちは今後、あらゆるフィールドに挑戦していくものと思われる。

その際、スポーツも含めてヒジャブや長袖が馴染まないものもあるのかもしれないが、まずは「危ないに違いない」という思い込みを排し、実地的、科学的に検証していく必要があるだろう。

Nike Pro Hijab公式instagramより。

それを実践したのがナイキだ。ナイキはムスリム女性アスリート向けのヒジャブ“Nike Pro Hijab”を開発した。通気性を重視した素材を用い、激しい動きでずれる巻くタイプではなく、被るスタイルとなっている。

地下鉄で座り合わせるタンクトップとヒジャブ

アメリカは何事も極端に振れる国だ。トップレス擁護者や、カメラの前で乳房を露にするセレブがいる一方で、信仰を理由に髪や肌を隠すムスリム女性の存在と権利も徐々に認められ始めている。

トランプの大統領当選直後、ヒジャブを被った女性へのヘイト・クライムがあり、一時的に娘にヒジャブを被らせなかった母親たちもいた。同時にムスリムへのいわれなき迫害があるからこそ、ムスリムとしての自覚を強めた女性も多い。

もっとも、ムスリム女性には同胞からのプレッシャーもある。もう何年も前のことではあるが、当時、大学生だったムスリムの友人はヒジャブを被っていなかった。

被りなさいという母親を説得し、母親も祖国ではなくニューヨークで生活する若い女性である娘の心情を理解して許可してくれたとのこと。ある日、この友人と食料品店に入るとムスリムの店主が友人に「君はなぜ何も被らない?」と詰問した。

店主の背後にはニカブを着た妻とおぼしき女性が控えていた。筆者はこの時、アメリカの都市部に暮らすムスリム女性の非常に微妙な生活背景を垣間見たのだった。

それでも多彩な人々の集合体であるニューヨークのような都市部では、基本的には互いの信仰・思想・指向・嗜好に異議を唱えることなく共存が為されている。良い意味での個人主義だ。

ニューヨークでは、今夏もタンクトップにショートパンツの女性とヒジャブの女性が道や地下鉄でごく当たり前に鉢合わせ、ごく当たり前にすれ違う、そんな光景がきっと見られるのである。

堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア
ブログ:ハーレム・ジャーナル

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