記事提供:日刊サイゾー

先日、イギリスBBCが放送し注目されている、日本の児童ポルノの実態を追ったとされるドキュメンタリー。

『STACEY DOOLEY INVESTIGATES:YOUNG SEX FOR SALE IN JAPAN』

というタイトルと予告編。取材班が秋葉原で警察に拘束されるシーンは、日本でも見ることができます。

しかしながら、この番組はイギリス国内限定配信のため、視聴は容易ではありません。

ただ『ラブライブ!』『ゆゆ式』などが、児童ポルノや児童虐待と関連づけて登場したという話だけが伝わっています。

この番組、単なるニューストピックではなく55分間の中編ドキュメンタリーです。そこでは、さまざまな作品や人物が登場しています。

そこで、この記事では日本では視聴することのできない番組の中身を紹介し、簡単に論評したいと思います。

■冒頭22秒で最大の事実誤認が発覚

55分のドキュメンタリーは、レポーターのStacey Dooleyが路上を歩いているシーンからスタート。この番組、タイトルに『STACEY DOOLEY INVESTIGATES』と記されているように、彼女が見て聞いたものを、彼女の主観で描くというスタイルのようです。

そして、冒頭22秒で事情を知っている人ならば、ひっくり返るであろう字幕が。

UNTIL 2014 IT WAS LEGAL TO OWN

CHILD PRNOGRAPHY IN JAPAN

「2014年まで日本では児童ポルノが合法だった」

この時点で心が折れるか、55分間我慢して観賞する覚悟を決めるか、どちらかになるでしょう。

タイトルに続いて、秋葉原の風景、総武線の電車とオノデンの看板に続いて、さまざまなアイコンがカットインされていきます。

確認できた範囲だと『ラブライブ!』の映像のほか、オナホールのパッケージ。野上武志さんの『大和撫子〇〇七』の表紙などが確認できます。

そして、ロケ車の中で再び「2014年まで日本では児童ポルノが合法だった」「JK、すなわちハイスクールガールは、ビックビジネスになっている」と語るStacey。降り立ったのは、JKお散歩店の女性たちがビラを手に並ぶ通称・ビラビラ通り。

カメラを回しながら、ビラ配りの女性に「ビラが欲しい」と声をかけていますが、用心棒の男性に「ノームービー」と止められます。「女の子が嫌がっているんで」と日本語で説明されていますが、カメラは依然として回り続けます。

対して英語で「何か法に触れていることをやっているのか」とやりかえすStacey。

らちが明かないとみたのか、警察に通報されてしまいます。用心棒側も増援がやってきて、体を押したとか押さないとか一悶着。

果敢な取材精神ですが、そこはBBC。ちゃんと退路は確保していました。ロケ車に逃げ込むStacey。

そこへ、ようやくやってきた警官は、なぜか音声のみの出演で「映像はね、一度消してもらって、ちゃんと撮り直したらどうです?」と。どうも、説得されているようです。

■合法JKカフェでは際どい質問も

2時間にわたり悶着が続いたことを説明して、取材は歌舞伎町へ。

潜入取材かと思いきや、カメラを回しながら堂々と店内へ。どうも、許可を取った上での取材の様子。従業員の女性はもちろん、客も顔出しで取材に答えています。

客の男性に「Does she give you an erection sometimes?」とか聞いちゃうStacey。

なぜかわかりませんが、和気あいあいと進む取材。従業員の女性とハイタッチまでしています。そして「このJKカフェは合法だったね」と看板のアップが…宣伝?

でも、まったくの合法だとしながらも「決してきれいな仕事ではない。彼女たちはセックスのオブジェクトなのだ」と、ナレーションでつぶやきます。

そして、このJKカフェを背景に唐突にナレーションで語られるのは「日本では30代以下の半数あまりが正規雇用ではなく、親の金に頼っている」ということ。

何かと思ったら「これらのJKも現金を稼ぐための、一つの方法」だというのです。なるほどStaceyの目には、これは若者の貧困の結果と見えたようです。

■リアルJK売春婦に遭遇

さて、舞台は変わって女子高生のためのシェルター施設へ。そこから、Staceyはいよいよ売春で稼ぐ女子高生に出会うのです。

取材に応じたのは、JKお散歩店で働くという17歳の女子高生。「建前はお散歩店だけど、どこに行くのも自由」つまり表向きは、売春については店はノータッチという暗黙のシステムを説明します。

そんな女子高生にStaceyは、どれくらい客を取っているのかを聞きます。学校もあるので週2回の出勤だという女子高生は「そうですね、私は人気のほうなので、一日に5人、多いときに6人。1回に3万円から多くて6万円」だと語ります。

続いてStaceyが質問したのは、どうして働いているのかというもの。これに対する答えも正直なもの。

「この仕事をしているのは、家庭に問題があったり、寂しかったり、私は自傷行為に近いですね。一時期、自殺願望が止まらなくて、病院に入院していました」

ここで、再びStaceyの語りが挿入されます。

「2016年に公表された国連のレポートでは、日本政府の児童売春・児童ポルノへの取り組みに対して厳しい内容が記された。国連は被害者に対しての適切な保護と取り組みを要求している」

■着エロ制作者がぶっちゃけトーク

さて「2014年以降、児童ポルノは非合法になった」という語りと共にやってきたのは、神保町の芳賀書店本店。

階段を上りながら、制服もののAVのポスターを見つけたStaceyは、ひどく嫌悪のこもった表情を。そして制服ものやロリ風味なAVの画像と共に「彼女らは18歳を過ぎているのだ」という説明が。

さらに、これも芳賀書店の店内でしょうか。疑似ロリのDVDを漁るStaceyは、さらに嫌悪に満ちた表情で「彼女は何歳に見える?私には、小学生未満(ready for school)に見える」というのです。

続けて「It's so surreal!」と。疑似ロリ自体が非現実的だということでしょうか?

「小学生をイメージするアイコンなどを利用しても、それらは成人女性であり、日本ではまったくの合法」だと説明するStacey。

ひとまずは警察庁を訪れて、日本政府の取り組みを取材するのですが、なぜか勝鬨橋を渡って、築地市場に入るカットが挿入。観光してから出かけたのでしょうか?

警察庁への取材を挟んでやってきたのは、朝の住宅地。ベンツの停まっている一軒家。そこで行われていたのは、着エロの取材です。

19歳のモデルの撮影シーンやインタビューを挟んで、制作陣へもインタビュー。取材された男性は「法律が厳しくなって、若い子とエッチができなくなった代替」「単純に日本人はロリコンが多いじゃないか。最低年齢は6歳を撮影している」「単にビジネス」と、隠すことなく語るのです。

『ゆゆ式』だけではない──BBCで放送された日本の児童ポルノ番組 55分間のあらすじと登場した作品の画像4

■着エロの原因は経済的貧困という主張

ここまで約37分。ようやく後半戦に入って登場したのは、着エロやAV出演強要問題で知られる伊藤和子弁護士です。

このシーンは、まず伊藤弁護士の語りから。

Staceyが取材やインターネット、店頭などで得た情報について触れ「日本のどこでも、児童ポルノのように見えるものが存在する」と語った後、プレゼン用のパワーポイント資料を印刷したものを用いて説明に入ります。

画面上では画像処理がなされていますが、着エロDVDのパッケージ画像を用いた資料の様子。伊藤弁護士は、彼女は15歳であるが、制作会社は胸や性器を隠しているので児童ポルノではないと主張していると説明します。

これを見て、次のような会話が続きます。

StaceySo is this Chaku Ero?

(これは着エロですか?)

ItoYes,This is Chaku Ero.

(これは着エロです)

Stacey:that's awful.

(それはひどい)

Ito:Chaku Ero is child pornography.

That's reality in Japan.

(着エロは児童ポルノ。それは日本の現実です)

Stacey:That's so shit.

(くそったれ)

Ito:Yes.

(ええ)

さらに別の資料では次のような会話が。

Stacey:Ten years old,max.Lying with her legs wide open.This is so shocking.

(最低年齢で10歳の少女が足を大きく開いて横たわっています。これはショッキングです)

Ito:Under elementary school,maybe.

(多分、小学生以下でしょう)

さて、話も佳境に入り話題は、なぜ幼い少女たちが、着エロに出演しているのか。伊藤弁護士は、貧困の結果だといいます。

Ito:Some of the family are so poor and no way other than using children for this kind of industry.

(とても貧しい家族の中には、これらの産業に子どもを雇用させる以外に道がない人もいるのです)

そして、それを「So this is human exploitation.(人間の搾取)」と表現するのです。

■エロマンガで子どもをレイプするヤツもいる説

さて、取材を続けるStacey。40分あたりから、舞台は再び秋葉原へと移ります。そこで、数々のアニメやマンガの画像と共に語りが入ります。

その語りでは、次のような言葉が並びます。

Stacey:Domestic sales of these Japanese comics topped over£2 billion in 2015.

(これらの日本のマンガの国内販売は2015年に20億ポンドを超えました)

Stacey:Manga,covers every subject you can imagine,including X‐rated erotica.

(成人向けのエロを含めて、マンガはあなたが想像できるすべての主題を網羅しています)

Stacey:Some include scenes of child abuse,child rape and incest and are so graphic,They've been banned in the UK.

(それらは児童虐待や子どものレイプ、近親相姦などのシーンも含まれており、イギリスでは禁止されています)

Stacey:The Japanese government have tried to ban it,but Manga artists and publishers have defended it on the grounds of free speech.

(日本政府は、それを禁止しようとしていますが、マンガ家や出版社はフリースピーチを理由にそれを守ってきました)

※free speechが言論の自由の概念なのか言論/表現の自由の概念なのか判断つかないので、そのままにしておきます。

さて、多くの読者が気になるのは、このシーンおよび前後のシーンで映し出されるアニメ、マンガ、ゲーム同人誌などがどのようなものだったのかということでしょう。

タイトルだけ列挙しますと『スイセイギンカ』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』『ゆゆ式』『セーラー服と重戦車』『いちごショコラふれーばー』『とつきとおか』『ヤンキーJKボコボコりんっ!』『一日奴隷さん』『ウラオモテ彼女』『監禁嬢』『島風コスの鹿島はなぜ異世界でオークに犯されたのか』などの表紙が確認できます。

さて、ここで取材に答えるのは、表現の自由をめぐる問題でたびたび登場する、翻訳家の兼光ダニエル真氏。

基本、ダニエル氏の説明は、現実と創作表現とは別個だという、日本ではほぼ常識となっている理屈に沿ったものです。それに対して、Staceyは、グサグサと切り込んできます。

最初の質問は、これから。

Stacey:For example,this image would be totally illegal in the UK.

(例えば、このイメージはイギリスでは違法です)

※手に取っているのは数冊の同人誌だが、表紙は見えず。

Daniel:Possibly,Yes.

(おそらく、そうです)

ここから現実と創作表現は別のものであることについて、やりとりが続きます。

しかし、Staceyは納得できない様子で「このようなコンテンツを見ることによってファンタジーとは対照的に、実際の子どもに手を出すように誘惑されるのではないか」と、いうのです。

それを言葉を尽くして否定するダニエル氏ですが、Staceyは納得しません。「But this does happen」と、あくまで、創作によって現実の児童虐待を喚起させると考えているようです。

説明を続けるダニエル氏ですが、画面の中の雰囲気はとても悪いです。なにしろ、Staceyからは次のような感想が。

Stacey:My concern would be that this does encourage and normalise real‐life child abuse.

(私の懸念は、これが実際の児童虐待をけしかけて正当なものにさせることです)

険悪な雰囲気で続いた取材ですが、最後は二人は仲良く握手を。

そして、取材を終えたStaceyは、次のように感想を述べます。

Stacey:For me,there can never be any good to come out of sexualising kids.

(性的な快感を得る子どもが出てくることは、決してありません)

Stacey:This is clearly a divisive emotive issue,so controversial.

(これは明らかにあつれきを生む感情的な問題で、議論の余地があります)

Stacey:I believe it could potentially encourage urges.

(私は、それが潜在的な衝動を促すと信じています)

Stacey:I would prefer these explicit images that use kids to be banned.

(私は、明白に子どもを使用している画像が禁止されることを求めます)

Stacey:I worry that them cartoons will never be enough and you will have those urges and you will want to move on to the real thing perhaps.

That's what scares me.

(私は心配しています。彼らはマンガが決して十分でないと考え、衝動を持って、本物に移りたいと思うでしょう。私は、それが不安です)

ここまで約40分。番組は、ラブドールを持った、おっさんの取材など、まだまだ続いていきます。

■取材手法は正当。では問題は?

長文を用いて番組の全体像を語りました。その上で、この番組の抱える問題について記していきましょう。

まずStaceyの取材手法ですが、これはまったく問題ありません。55分の番組の中で、Staceyはさまざまな場所で、多くの人に出会っています。

そこでは、硬軟使い分けてさまざまな取材手法を用いているのがわかります。

冒頭のJKお散歩店との悶着は、こうした取材をやれば、用心棒が出てくるのは想定の範囲内と考えたはず。出てくるも何も、いつも明らかに用心棒な雰囲気の男たちが、ケンタッキーの前あたりに立っているわけですし。

続く、合法JKカフェでの取材では、自分も取材者ではあるものの客のように振るまい、胸襟を開きつつ、づけづけと聞いています。

着エロ制作現場の取材も同様で、先に撮影しているところを、ある程度取材し、モデルとも距離を縮めることで、制作サイドの警戒心を解いています。

伊藤弁護士へは、至極真面目に児童の性的搾取の問題を取材に来た海外メディアという立ち位置。

そして、ダニエル氏への取材では、感情むき出しにケンカを売る姿勢で、コメントを引き出しています。

それらの取材手法の中に通底しているのは、獲物に食らいついたら離さない意志です。言論・表現の自由をめぐる問題に至るまで、御用やらエア御用が当たり前の我が国にあって、これは猛省すべきところでしょう。

何しろ、大手新聞社やテレビ局でもないというのに、レポーターのごとく「行った・見た・聞いた」で取材をした気になっている。その裏に潜む事実や感情を描こうとする姿勢が見られない書き手ばかりなのですから。

しかし、取材手法には見習うところが多いとはいえ、Staceyには重大な欠点があります。

それは、自身が<予断>に振り回されていること。

通例、取材を行う前に予断、すなわち想定される結論を考えるのは必要な作業です。ですが、それは取材のテーマをブレないものにするためのもの。結果、取材によって得た情報でAだと思っていたらBだった。

あるいは、AでもBでもなく、Cだった。そんな右往左往するさまを文章や映像で記録していくのが、取材というものです。とりわけ知らなかったことの発見は、取材が形をなったとき、味を濃いものにします。

ところが、この番組は冒頭22秒から、下調べが不足していることを露呈しています。おまけに取材者自身が予断にすがり続けているので、豊富な取材が単なる、予断の事実確認の記録へと堕ちています。

ヨーロッパでも良質のドキュメンタリーは数多く制作されているはずですが、見たことはないのかというほどにひどい。

なんの本質にも迫ることができていない、物見遊山の記録になっているのです。

言い方を変えれば、取材対象として個人を追わずに、状況の表面だけを舐めているということ。このStaceyという人は、個々人がなぜそうしているか、なぜそこに至ったかに、まったく興味を抱かないのでしょう。

この個人の人となりに興味を持てない脆弱性が、Staceyを日本では数年前まで児童ポルノが合法で、女子高生が貧困で売春していて、エロマンガによって児童レイプの犯罪者が生まれている…などの予断から、一歩も動けなくしているのでしょう。

なんにせよ、このようなデキのドキュメンタリーにも予算を出してくれるBBC。そこだけは魅力的だと思いました。

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