人のセックスを見てみたい。作られたものではない、極めて自然な、普段の情事を見てみたい。そんな強い思いを抱いて、モーテルを経営し、客のセックスを30年近くも覗き続けた“覗き魔”がアメリカコロラド州に実在したらしい。

ジャーナリストであるゲイ・タリーズ氏の『覗くモーテル 観察日誌』(白石 朗:訳/文藝春秋)は、客の寝室を覗き続けたある覗き魔にまつわる衝撃のノンフィクション作品。

2016年4月、雑誌『ニューヨーカー』に本書の抜粋原稿が掲載されるや否や全米で大きな話題を呼び、その内容の真偽、賛否が問われた問題作だ。

1980年のはじめ、著者のもとにある奇妙な手紙が届いた。差出人は、ジェラルド・フース。彼は自身の経営するモーテルの部屋の天井に自ら通風孔と見せかけた穴を開け、秘かに寝室を観察して日記にまとめているという。

客たちのセックスを観察するその理由を「ひとえに人間への飽くことなきわが好奇心ゆえであり、決して変態の覗き魔としてやったことではありません」と語るその手紙に興味を持った著者は、直接フースに会うためにモーテルを訪れる。

そして、フースの案内で著者が屋根裏の光の洩れる穴から目撃したのは、全裸のカップルがベッドでオーラルセックスにはげむ姿だった。

「情事時に照明を落とすカップルも少なくはないだろうから、覗き穴からセックスを覗くのは難しいのでは?」と、「セックス時の照明の有無」についてふと疑問に思ったが、フースによれば、性的な行為の際に室内の照明を落とす客の人格には共通点があるという。

フース曰く、性的な行為の際に室内の照明を消すのは低学歴タイプやマイノリティ、中高年層、あるいは、田園地帯出身者。性行為にあたって照明を消した対象者の90%がこのカテゴリーに当てはまっていたという。

と同時に、我々は他人の情事について、照明が付いているか付いていないのかさえも知らないのだという事実に気づく。

フースはありとあらゆる客の様子を克明に記している。連れ込み客、夫婦を交換してセックスに励む人たち、同性愛者、不倫カップル、グループセックス愛好者、ヴェトナム戦争で五体満足でなくなった兵士とその妻…。

女に「バーボン」と称して小便を飲ませる男がいれば、羊のコスプレをした少年に性的衝動を感じる男もいる。そんな記録の数々はあまりにも生々しく、そして、リアルだ。

たとえば、1973年の1年間だけでフースが性的行動を観察して記録したモーテル利用者は269人。一般に正常位での交接が好まれ、1973年の年間総計では男性がオーガズムに達した回数が184回、女性が33回。

その女性の数のなかにはパートナーから早く解放されたい一心でオーガズムのふりをした人もいたに違いないということもフースは認めている。

覗き穴から見られるのは、幸せなセックスばかりではない。モーテルを訪れる男女の多くは口喧嘩ばかりしているし、ベッドに入っても、快楽に満ち溢れているというわけでもない。

ある年では、モーテルで観察したカップルのうち性的にかなり活発だったものは12%、性的にまずまず活発だったのは62%、どちらかといえば活発でなかったのは22%、性的活動が全く見られなかったのは3%だったという。

前戯もなく、無理矢理挿入されている女も少なくはないし、マスタベーションはできるが、妻の前では不能という男だっている。性欲のレベルが必ずしもカップルで一致しているとは限らず、その差がカップルに不幸を招くこともあるのだ。

ベッドの上の常識と思っていたことが、実は非常識ということもきっと少なくはないのだろう。寝室には、人の秘密が詰まっている。その秘密をこの本でフースとともに覗き見てはどうだろうか。

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