最近、テレビがつまらない。そう感じるのは、「殿」の毒舌がすっかり画面から消えてしまったからではないか。

70歳になり、映画の世界では「世界のキタノ」と呼ばれ、フランス政府から勲章まで受ける人になった天下のビートたけしが、政治から芸能スキャンダルまで次々にぶった切りにしたのが、『テレビじゃ言えない』(ビートたけし/小学館)だ。

例えば「テレビじゃ言えない、危ないニッポン」の章。安倍内閣の目玉プランだった「一億総活躍社会」のスローガンを、“最悪なキャッチコピー”と一蹴。

「国が国民に頑張れって強いるのは、よくよく考えりゃ『働いて税収を増やせ』『社会保障に頼るな』って言われているのとほとんど同じだろ。(中略)こんな押しつけがましい言葉に拒否反応を示さないニッポン人はやっぱりヤバい」と、警鐘を鳴らす。

もちろん、新たなネーミングとして『一億総活躍・欲しがりません勝つまでは』と、持ち味全開で逆提案することも忘れない。

また、今の日本を「一億総自主規制社会」と称し、不倫騒動のベッキーや、嘘のプロフィールでテレビから“一発退場”になったショーンKへのメディア対応も本書ではぶった切り。

「『右にならえ』の一斉外しという対応は、(中略)クラスでのイジメを見て見ぬフリしてる気弱な中学生と変わらない考え方だ」「世の中が『たった1回の失敗も許されない社会』になっているのが怖い」と、たけし節も猛毒を放つ。

この他にも、アメリカのトランプ大統領が今回の大統領選に勝利した理由を、映画の制作現場の実情と重ねた独自の理論は必見だ。

「話題のニュース毒舌分析」の章では、高齢者の危険運転といった社会派問題から、ASKAや清原など有名人の薬物使用まで、放送コードを完全に無視した「殿」の毒舌ぶりが全開。

その中でも、まだ記憶に新しい2016年。ベッキーと共に不倫で話題になった乙武クンについても、本書では触れている。

体にハンディがあってもなくても、人間の性格や嗜好は別のものだと多くの人はわかっていたつもり…だが、タブーに触れない建前社会は、「あれだけ叩かれたら手も足も出ないだろ」という表現すら自由に言えない空気を、改めて浮き彫りにした。

“ご乱心”ネタの先輩である「殿」は、だからこそ乙武クンは障害者も女好きは変わらないことを世間に認識させ、結果的には障害者のあらゆる面でパイオニアとなった彼の功績を本書で讃えている。

ちなみに巻末には、18禁の妄想AVネーミング大賞や林家三平・国分佐智子さん結婚式での爆笑祝辞も公開されている。

結婚式は2011年だったが、当時はあまりにも内容が過激なため、ワイドショーや新聞が祝辞を全文公開することができなかったという。たけし流のジョークがちりばめられた祝辞は、今読んでも圧巻だ。

「オイラは、死ぬまでくだらない芸人であり続けたいと思っているんだ」――古希を迎えた「殿」が放つ「毒」の数々が、テレビの世界から消えた今。

活字の世界でのびのびと放たれているような「毒」こそが、“たけし流の優しいエール”として、テレビを見ながら苦笑できる日が再びやってくることを願ってやまない。

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