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「これを機に、行いを改めます」と複雑な表情でお腹を触る高橋さん。

6歳未満の子供を戸籍上の我が子として迎える「特別養子縁組」。これをあっせんするウェブサイト「インターネット赤ちゃんポスト」が波紋を広げている。取材を進めると、これまでの養子縁組制度の問題点が見えてきた。

◆課題山積の「養子縁組」。当事者たちの本音に迫る!

「産んでくれたら最大200万円援助します」

大阪市のNPO法人「全国おやこ福祉支援センター」が「インターネット赤ちゃんポスト」と称する自身のサイトに掲げた一文が波紋を広げている。

赤ちゃんを育てられない親と、養親希望者とのマッチングをネット上で呼びかけるこの行為に対し、「命を商品化している」「営利目的では?」などの批判が殺到しているのだ。

また、昨年9月には千葉県の民間事業者が「100万円払えば優先的に養子をあっせんする」などとして、現金200万円以上を受け取り、実母が養子縁組の同意を撤回したにもかかわらず、子供を返そうとしなかったとして、社会福祉法に基づき、業務停止命令が出された。

養子縁組をめぐって、トラブルが相次ぐのはなぜか。

そもそも多くの児童相談所や民間業者を利用する場合、養親希望者は「子供が欲しい理由」などの書面を提出、さらに講習を受け、面談といったプロセスを経る必要がある。そのうえで、どの子が選ばれるかは法人側が決めることになっている。

だが、「インターネット赤ちゃんポスト」では、養親希望者は年齢、職業、年収、貯蓄などの基本情報をメールや電話で事業者に伝え、3000円の登録料を支払うだけで登録が完了する。

生みの親はそれらの情報をもとに、子供を託す相手を選ぶだけの簡易的なシステムだ。

一連の批判について当事者はどう思っているのか。「全国おやこ福祉支援センター」代表理事の阪口源太氏に話を聞いた。

「200万円援助という表現は問題提起のためにあえて使いました。営利目的?ありえません。私たちは役員報酬ゼロで働いています。今の養子縁組はスピード感に欠けています。ビジネスのように合理性を導入すべきだと思いますね」

◆“手軽さ”に惹かれて…。ネット養子縁組にすがる親

そもそも「ネット養子縁組」の利用者たちはなぜこのサイトを選んだのか。記者の待つ喫茶店に姿を現したのは「今年4月に出産予定」と言う高橋さおりさん(仮名・30歳)。

髪を明るく染め、ピンクのバッグを肩にかけた彼女のお腹は、現在妊娠8か月だという。

「友達から紹介されて働き始めたキャバクラで複数のお客さんと関係を持っちゃって。妊娠に気づいたときには全員と連絡が取れなくなって…。当然、仕事も辞めざるをえず、一度は中絶することも考えました。ただ、前に一度、結婚したときに子宝に恵まれなくて。『せっかく授かった命なのだから…』と、両親とも相談した結果、養子に出すことを決めました」

彼女なりの切実な思いを語る高橋さんだが、当初は心療内科に通うほど精神的に参っていたという。

「一時期は誰も頼れず、部屋で一日中、泣いていました。そんなときテレビで『インターネット赤ちゃんポスト』を見て電話しました。1か月15万円の生活支援だけでなく、精神的な支えを得られたのも大きかったです。今も毎日、LINEで相談を聞いてもらってます」

一方、養親の側にも話を聞いてみた。都心から電車とバスを乗り継ぎ1時間ほどの郊外に住む藤本英樹さんと妻、美紗子さん(ともに仮名・46歳、42歳)は5年前に結婚、昨年7月に生後1か月の男児を養子として迎えた。

「不妊治療を何年もしたうえで養子縁組をする年齢的、金銭的余裕はなかったので、すぐに養子をもらう決断をしました」(英樹さん)

だが、そんな決断をした2人の前に思わぬ壁が立ちはだかる。

「多くの団体が養親候補者に“45歳以下”や“結婚3年以上”などの条件を設けていたんです。それで10件近くの民間団体に養親登録を断られたときには、晩婚化のこの時代になぜ…と、とてもショックでした」(美紗子さん)

厚生労働省のガイドラインでは養親の年齢を「子供が成人したときに概ね65歳以下となるような年齢が望ましい」とされている。そのため、多くの団体ではいまだに年齢制限を設けているのだ。

その後、「インターネット赤ちゃんポスト」と出合った英樹さん、夫婦の情報をメールしただけですぐ養子を受け取ることができたという。

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◆養子縁組後進国・日本、法整備が進まない背景

スピード重視で手軽に利用できる「インターネット赤ちゃんポスト」。しかし、その姿勢に対し、他の養親から疑問の声が上がっているのも事実。9年前、民間事業者から生後2週間の女児を迎えた藤田真弓さん(47歳)は養親たちの覚悟を疑問視する。

「私の場合、1年の不妊治療を経て、養子縁組を利用しました。すぐに代表者との面談がありましたが、登録には赤ちゃんの名前候補といった書類を何枚も提出するなど、多くのプロセスを踏みました。養子は母子の一生に関わることです。実際、私も面談などされましたし」

なぜ日本で養子縁組文化は普及しなかったのか。NPO法人「フローレンス」代表の駒崎弘樹氏は「日本では施設養護文化が過度に根づいている」と解説する。

「戦争で親を失った多くの孤児たちを飢えさせないために建てられたのが養護施設です。政府は児童福祉問題の対応を施設に任せきりで、特別養子縁組などの政策を採ってこなかったのです」

こうした事態を受け、昨年12月には民間事業者を取り締まる「養子縁組あっせん法案」が成立。法案に携わった民進党の牧山ひろえ議員に内容を聞いた。

「法案には2つの柱があります。まず悪質業者の排除に向け、届け出制から都道府県の許可制になったこと。営利目的でないこと、情報の適切な管理などが条件に含まれます。もうひとつは許可を受けた団体に国や自治体から財政支援できるようにしたことです」

しかし、今回の法案は「骨組みにすぎない」と、駒崎氏は言う。

「具体的な補助金の金額や施行の時期など詳細は今後の政省令で定めます。なので、まだまだ心配は尽きませんが、今回の法案成立を機に養子縁組が社会インフラとして保育所や病院のように事業として営めることを期待しています」

【駒崎弘樹氏】

養子縁組支援事業に取り組んでいるNPO法人「フローレンス」代表。著書に『「社会を変える」を仕事にする:社会起業家という生き方』(ちくま文庫)がある。

【牧山ひろえ氏】

'64年生まれ。民進党議員。日米の法律事務所や企業で法務に携わったのち、'07年に初当選。米国弁護士の経験もあり、国際会議でも活動中。著書に『国民総政治家』がある。

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