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国立感染症研究所の集計から、昨年1年間の梅毒患者の報告数が4518人にのぼったことがわかった。

4000人を超えるのは1974年以来、42年ぶり。そのためか多数のメディアでこの“梅毒増加”の報道が見られる。中でも目立つのは『20代女性に急増』の見出しだ。

■20代女性「梅毒」急増に医師が懸念 そのリスクとは?〈週刊朝日〉

■梅毒感染、42年ぶり4千人超 20代女性で急増(朝日新聞)

■20代女性に梅毒急増中のナゼ 年間4000人超…風俗で働く人の低年齢化など背景に諸般の事情(夕刊フジ)

なぜ「20代女性」に増加しているのだろうか?2つめの記事(朝日新聞)でそのナゼが分かるかと思いきや、医師のコメントで「風俗産業で働くセックスワーカーの低年齢化が、若い女性患者増加の理由の1つだろう」と分析するのみ。

これではよくわからない。

「昔は、若い女性は同世代と性交渉をしていたが、最近はインターネットなどを介して年齢の離れた男性と関係を持つ人もいる。年上男性が実は梅毒に感染していて、女性にうつしてしまうケースがある」とのコメントもあるが、インターネットなどない時代も、年上男性と若い女性の性交渉はあったはずではないか。

テレクラだって援助交際だって、いまでいう「出会い系」のような社会問題的扱われ方をされていた。

そもそも「梅毒」とはどのような病気か?まず、デリケートゾーンのセルフケアに詳しい産婦人科医、上田弥生医師に話を伺った。

そもそも梅毒とはどんな病気か

上田医師「梅毒は『昔の性病』のイメージですが、2010年から増加に転じています。東京、神奈川、愛知、埼玉、大阪での増加率が高いですね。国立感染症研究所の集計では2015年1~53週(2014.12.29-2016.1.3)で2698例でしたが、2016年は11月27日の時点で既に4,077人となっており、勢いよく梅毒と診断される方の数が増えていることがわかります。感染経路は異性間性的接触が多く、増加率も高いです。男性では同性間性的接触の例も少なくありません」

梅毒の原因は、トレポネーマという菌に感染すること。感染経路はほとんど性行為や類似行為(アナルセックス、オーラルセックス等)による粘膜の接触であるが、まれに傷からの感染もある。

感染後3~6週間程度の潜伏期を経て、様々な臨床症状が逐次出現する。問題は『第I期』と呼ばれる感染初期だ。

感染後約3週間後に菌が進入した局所に、初期硬結や潰瘍が形成されるなどの症状がみられるが、無治療でも数週間で軽快してしまうのである。

また第I期梅毒の症状が一旦消失したのち4~10週間の潜伏期を経て『第II期』へと移行すれば、様々な症状が出現する。

しかし、この時期が終わるとまた一旦症状が落ち着くことがある。梅毒の怖さはこのように症状の出現に波があることだろう。感染は、菌を排出している第I期、第II期の患者と接触することで起こる。

上田医師「感染しているけれども、症状が出現しない『不顕性感染』もあるので症状がないからと言って安心できません。

また、1期から2期の間、2期のあとなど、症状がない時期があるので、症状が落ち着いたから大丈夫と思って安心してしまいなのですが、これもまた注意が必要です。さらにこの時期、痛みがないのがまたポイントなんです。

太もも付根部分のリンパ節が腫れたり皮膚や粘膜に謎のしこりが出来たけれども痛くないから放置してたら症状がなくなったので安心して病院にも行かなかった…というパターンが起こりやすい」

国立感染症研究所のHPにあるように「手掌・足底を含む全身に多彩な皮疹、粘膜疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛等が出現する。発熱、倦怠感等の全身症状に加え、泌尿器系、中枢神経系、筋骨格系の異常多彩」と、第II期では実に様々な症状が出現する。

だが第II期もまた、無治療でも、数週間~数カ月で症状は軽快してしまう。治っているわけではないので、治療が必要な状態であることに変わりはない。

上田医師「診断は、皮膚の病変からとった菌を顕微鏡で確認する方法と血液検査とがあります。治療では、アモキシシリンなどのペニシリン系抗生剤を長期的に服用します。不特定多数と性交渉する仕事の方は定期的に検査を受けておくこと、そうでない方でも、新しい相手との性交渉があった年は検査を受けることが大事です」

だが、確かに2013年から梅毒の患者数は急増しているが、数だけに着目すれば4500人。今年1月1日時点(概算値)での日本の総人口は1億2686万人。患者数は人口の約0.0035パーセントである。

さらに都道府県別のデータについて先の朝日新聞は<昨年の患者を都道府県別でみると、東京1661人、大阪583人、神奈川284人、愛知255人、埼玉190人、兵庫181人、千葉139人、北海道117人、福岡107人>と報じているが、こうなると、その感染者と自分が接触する可能性について「まさか、ないだろう」と他人事のように思ってしまうのではないだろうか。

「どうせ風俗嬢と風俗行く男の間でちょっと流行しちゃってるくらいじゃん?」と思われる方もいるだろう。実際のところ、ごく普通の、「付き合う相手としか性行為をしない」というカップルの間でも梅毒感染が起こっているのだろうか?

また上記報道ではいずれも「20代女性の患者が増加」と特別に20代女性に対して危機感を煽られているが、感染者全体のうち7割は男性である。

もちろん、3割の女性の中の、20代の患者数が増加したことについて注目するのは、これからの梅毒患者数増加を食い止めるためのヒントのひとつとなるだろう。

「20代女性は特に危機感が薄そうだ」と見積もっているのかもしれない。しかし「20代女性に増加」で本当に考えなければならないのは、『誰が20代女性に梅毒をうつしているのか』、ということではないだろうか。

もともと女性の患者数は少なかったにもかかわらず、ここ数年で激増しているのであるから、最も感染源として有力な男性の性の現状についていまいちど、調査する必要が生じているように思われる。後編では、さらにその患者のデータを読み込んでみたい。

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