楽しいお食事の席でも、すぐ近くにアレがいるととたんに不愉快にならないだろうか?

アレとはクチャクチャ&ズルズルと音を立ててモノを食べる、いわゆる「クチャラー」のこと。居合わせてしまうと一気に気分が悪くなり、挙句の果てには「もう帰って…」とすら思ってしまう、万人にとって耳障りな存在だ。

どんなにイケメンでも、どんなに仕事ができてもクチャラーだけは勘弁、という人も多いことだろう。とはいえかく言う自分だって、もしかしたらマナーに反した行動をしているかもしれない。

子供の頃にテーブルマナーや食の作法を習ったことがあったとしても、日常生活の中で「つい」「うっかり」雑な仕草をしてしまい、いつしかそれが当たり前になった人は、男女ともに意外と多いものだ。

だってクチャラーを憎む私自身ですら、たまに箸で食器を寄せる「寄せ箸」をして後で反省するし…。

と、このように人のフリみて我が食事マナーを再確認したいと思った時にピッタリなのが、『「食べ方」を美しく整える:仕事ができる人ほど大切にしたいこと』(小倉朋子/実務教育出版)だ。

著者で食の総合コンサルタントの小倉朋子さんは、人はなぜ他人の食べ方が気になるのかについての理由を、「食べることが唯一“人に見られて”社会性を映し出す本能」だからだと語る。

しかし所作が醜い人に向かって「お里が知れる」というのは間違いで、お里は自分では選べない。でも自分をブラッシュアップすることは何歳になってもできるとも述べている。

そういえば某首相も、テレビで披露した箸使いが幼稚だと視聴者から笑われていたが、彼はお里が悪いどころか日本のセレブ出身。なのにロクに箸も使えないから嘲笑されたのだろう。

とにかく食のマナーをよくする機会は万人に平等に与えられていて、それをブラッシュアップするかしないかはその人の生き方や価値観につながる「食べ方は、人生や生活習慣、人柄までも映し出す鏡」だと、小倉さんは説いている。

しかし「ペチャペチャ」「ガツガツ」食べるクセが悪い人に対して、第一章で小倉さんは、

私の長年の経験上、こういった食べ癖の人は大らかだったり、優しく温和だったり、いわゆる“いい人”が多くいらっしゃいました。

とはいえ、ご自身の食べ方を意識して少し整えてみてはどうでしょうか。

そうすると、会食相手との会話もいっそう弾んで目標に近づいたり、よい出会いに恵まれたり、商談がまとまったりなど、不思議なほど環境が変わってくるはずです。

これまでの「いい人」という評価に「素敵な人」という評価も加わることでしょう。

出典『「食べ方」を美しく整える:仕事ができる人ほど大切にしたいこと』(小倉朋子/実務教育出版)

と、どん底に突き落とすことなくフォローしている。クチャラーをはじめとする悪マナーの者どもを厳しく叱りつけることなく、優しく導いてくれる文体になっているのだ。

これなら他人に指摘されるとすぐにむくれる某首相のようなタイプでも、抵抗感なく読み進めることができるだろう。

第二章以降では焼き魚やハンバーガー、カレーライスやサラダなど日常的なものから、伊勢海老のテルミドールや鴨のコンフィといった、レストランで供されることが多い食べ物の具体的な食べ方を紹介している。

こう書くと一般的なマナーブックとあまり変わらない印象だが、同書の素晴らしい点は「食べる時の自分や相手の気持ち」にまで触れていることだ。

たとえば飲み会の席では「とりあえずビール」と言ってしまいがちになるものだが、他の人がまだドリンクを決めていないうちからこれを言ってしまうのは「無意識に相手を急かしてしまう行為」であり、「メニューをしっかり読むことは飲食店に対する客側のエチケット」なので、料理との相性やお店とのコミュニケーションを考えてドリンクをオーダーするのが、大人のマナーだと勧めている。

また1人暮らしで自炊をしていると、前の日の残り物やレトルトなどで手軽に素早く食事を済ませてしまうことが多いものだ。しかし小倉さんによると、

1人ご飯は単なるエネルギー補給ではない。

1人ご飯は、自分のストレスをオフにするための大切な時間。

出典『「食べ方」を美しく整える:仕事ができる人ほど大切にしたいこと』(小倉朋子/実務教育出版)

だから、「与えられた条件下で可能な限りもっとも食べたいものを選ぶ」ことも勧めている。

食べる作法と自身の心の持ち方、そして相手がいる席では相手とのコミュニケーションが揃って初めて、「美しい食べ方」が完成するということがよくわかる。

ただ美しく食べるだけではなく自分や相手を大切にする心が伴ってなければ、完璧なマナーとは言えないようだ。

タイトルに「仕事ができる人ほど大切にしたい」とあるのでビジネス本や自己啓発本のように感じてしまうかもしれないが、仕事ができなくても社会人でなくても、誰が読んでも「食べることの楽しさと、食べることで相手を楽しくさせることの大事さ」に気づける1冊と言えるだろう。

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