米・オクラホマ州在住のアビー・アハーンさんは、ずっと望んでいた3人目の新しい命を授かり大きな喜びに包まれていました。

しかし、妊娠19週目に、思いもよらぬことを医師から告げられます。お腹の子どもの脳が発達しておらず、頭蓋骨が不完全で流産の可能性が大きい、もしも無事に出産したとしても、家族と過ごせる時間はほんの数時間。とても短い人生を終える事になるだろうというのです。

後期中絶を勧められたアビーさんは、ショックで何も考えられなくなってしまったといいます。同じような状況の女性は95%が中絶を選択するとも言われました。けれど「お腹の中で痛みを感じていない」という医師の言葉もあり、必死に生きようとしている命を諦めることはできなかったのです。

そんなアビーさんの背中を押してくれたのが、夫のロバートさんでした。無事にお腹の子どもを出産できるようにサポートする、そしてほんの僅かな時間だとしても、お腹の中にいる我が子を自分たちの家族として迎え入れよう、そう言ってくれたのです。

そして夫婦は、もう一つのある大きな決断をしました。その時が来たら、子どもの臓器を必要としている人へ提供しようと。その提案は、医師を困惑させたようでした。それまでオクラハマでは、幼児の臓器提供は行われていなかったのです。

「わかりました。調べてみましょう」

14時間58分の家族の時間

そして、定期的なケアを受けながら妊娠期間を過ごし、ついに2013年6月26日午前8時36分、その小さな命は無事に生まれてきてくれました。その可愛らしい女の子は「恵み」という意味でアニーと名付けられました。

アニーは、生まれたその日の午後11時34分に亡くなくなるまで、家族に囲まれて過ごしました。家族で写真を撮り、キスをし、アビーさんはその小さな命に自分の顔をつけ、愛おしいアニーの匂いを記憶に刻み込もうとしました。5歳のディランちゃんは、アニーに本を読んで聞かせてあげました。

2歳のハーパーちゃんは、幼く何が起こっているのか分かりませんでした。けれどアビーさんが、妊娠期間からその外見(頭蓋骨や脳の部分が未発達なため、一般的な赤ちゃんの外見とは異なる)について「神様は私たちをすべて違うものにしてくれるの。だからきっと美しい姿で生まれてくるのよ」と語っていたため、アニーの姿を見ても驚かず受け入れることが出来ました。

そしてお姉さんらしく、アニーのお世話をしました。それは始めてみる甘えん坊の末っ子だったハーパーちゃんの姿でした。

アニーを失った時に襲ってくるであろう大きな悲しみのため、夫婦は心の準備を整えて過ごしてきました。幼い2人の子どもたちにも、混乱しないように妊娠中から丁寧に説明していました。けれど驚いた事に、最期の時に家族を包み込んだのは、絶望や悲しみではなく大きな愛でした。

「アニーが生まれてくるまでは、暗く恐怖との戦いの時間を感じる時もありました。けれどアニーが生まれてきてくれてからは、私たちはみんなリラックスし、その貴重な時間を楽しむ事が出来たんです」

家族が一緒に過ごすことができたのは、僅か14時間58分。けれど、その時間は「決して無駄な時間ではない」とアビーさんは言います。「そして最期のその瞬間まで、アニーは愛、喜びそして平和に囲まれた彼女の一生を過ごしました」そして「彼女がこの地球にいた14時間58分は、私の人生の中で最高のものでした」

その選択に至った思いを否定しないで

そしてアニーは、オクラホマ州で初めての乳児臓器提供者になりました。けれど、実はアニーは低酸素状態で生まれた為に、殆どの臓器は移植するレベルに達していませんでした。そんな中、唯一その小さな心臓だけが移植に適するレベルに達していたのです。それは奇跡的なことでした。

そして、移植することが叶わなかった幾つかの臓器は、病気の治療の研究の為に使うことができました。

アビーさんのこの選択は、多くの人を感動に包み、そして命というものの尊さと奇跡について考えさせました。しかし中には、アビーさんの選択に疑問を投げかける人もいます。

妊娠中にも、友人や知人から「それで本当にいいの?」と聞かれたり、なぜ中絶しないのかと問われたといいます。また、乳幼児の臓器提供への拒絶反応も少なからずありました。アビーさんは、寄せられた様々な意見に対し「そのどの意見も否定しないけれど」と前置きした上で、「誰がどんな選択をしたとしても、その選択に至ったそれぞれの思いを知ってほしい。それを否定しないでほしい」と語っています。

妊娠期間中のアビーさんは、おそらくアニーちゃんが着ることができる唯一の服となる洋服を選ぼうとすると、それだけで辛く悲しくなり、売り場で立ち尽くして泣いてしまったこともあったといいます。

ドナーとしての臓器提供ではなく、研究用に提供するということを受け入れるのに時間がかかったとも語っています。

最期の別れの時には穏やかに過ごせたけれど、最初にアニーちゃんの呼吸が止まったかもしれないと思った時は、一瞬パニックになり泣いてしまったそうです。

そんな時間の中でした決断を、どうぞ否定しないでください。誰がどんな決断をしたとしても、そこには本人たちにしか知りえないそれぞれの思いがあるのですから。

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