愛の言葉といえば、まず「I Love You」が頭に浮かぶ。日本語訳は、「愛してる」。ラブストーリーの中でイケメン俳優や美人女優が囁くこの言葉に、うっとりした経験がある人も多いはずだ。

ただ、この「I Love You」、日本人の私達 にとって日常生活で想いを伝えるために使うには、少々ハードルが高い気はしないだろうか。

そこで、大切な人に想いを伝えるためのヒントを与えてくれるのが、『I Love Youの訳し方』(望月竜馬:著、ジュリエット・スミス:絵/雷鳥社)だ。文豪・夏目漱石が「I Love You」を「月が綺麗ですね」と訳したという逸話がある。

著者は本書のまえがきで、漱石が本当にそんなことを言ったのかどうかは定かではない、と言及した上で、『「愛してる」なんて言葉を使わなくても、想いを伝えることはできる』と著名な作家の小説や詩、手紙の中から選りすぐりの“愛”の100フレーズを紹介している。

それぞれの言葉には、著者の直感によるコメントつきだ。

「あなた様なしには 私の今後の芸術は成り立ちませぬ もし あなた様と芸術とが両立しなければ 私は喜んで芸術を捨ててしまいます」

出典谷崎潤一郎『根津松子へ宛てた 手紙』

谷崎潤一郎といえば、『痴人の愛』や『細雪』で知られる、近代日本文学を代表する作家だ。その彼が、一人の女性のためなら生きがいである芸術を手放してもいいという。「I Love You」と告げる以上に、深い愛情が伝わってくる名言だ。

「あたしあなたにさわりたい」

出典赤坂真理『ヴァイブレータ』(講談社文庫)

誰かを好きになったら、その人に触れたいと思う。そのシンプルな感情を、ストレートに表現した一言だ。愛する人のぬくもりをひたすら求める、女の本能が伝わってくる。

「疲れた君がひたすら海をみるための 小さな白い椅子でありたい」

出典齋藤芳生『短歌往来2009年8月号』(ながらみ書房)

著者の望月竜馬氏は、この言葉に「愛をささやくだけが恋人の役目ではない。なにもせず、そばにいてあげるだけでもよいのだ」とコメントを寄せている。

見返りを求めず大切な人にそっと寄り添う、献身的な恋人の姿が目に浮かぶ。

「僕は君が結婚したら、死ぬ。きっと死ぬ」

出典―福永武彦『海市』(福永武彦集 新潮日本文学49/新潮社)より―

実際に使ったら相手が引いてしまうだろう過激な言葉だが、これが多くの恋する人の本音だろう。好きな人を誰にも取られたくない。どんな手を使っても、振り向かせたい。

胸に残るのは、子供が欲しいものを手に入れたくて駄々をこねているような、純粋な感情だ。

何通りにも解釈できるのが、日本語の大きな魅力。日々言葉に向き合っている作家たちが表現した100通りの「I Love You」を知るにつれて、何気なく使っていた日本語の深みや幅に驚かされ、魅せられることだろう。

そして本書を読み終えた後は、きっと大切な人に想いを伝えたくなるはずだ。ロマンチックでなくてもいい、自分だけのたった一つの言葉で。

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