ビジネスの現場に限らず、あらゆる交渉に欠かせないのが理性に則った判断。しかし、人は必ずしも合理的な思考を貫けるかといえば多くの方が思い当たるとおり答えは「否」で、感情を軸にしてしまうことも多々あるものです。

無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』の著者で現役弁護士の谷原誠さんは、ある行動経済学の実験を例に挙げて、なぜ人間は交渉の場などで理性を失うのかを紐解きつつ、「交渉をうまく運ぶコツ」について記しています。

公平にしないと…

こんにちは。

弁護士の谷原誠です。

弁護士は、様々な法的な問題について依頼を受けますが、その一つに、離婚問題があります。弁護士に相談に来るケースでは、相当に話がもつれている案件が多いことは言うまでもありません。

そのような案件にかかわる時に気づくことがあります。それは、婚姻中の財産を分け合う、という財産分与などの請求では、自分が金銭的に得をしたいというより、相手に一銭も得をさせたくないという気持ちが強いこと。

そのためなら、必ずしも自分に得にならないような、時間と金を使った裁判をすることも辞さないという態度をとる人が意外に多いのです。

行動経済学の実験で、最後通牒ゲームというものがあります。ルールを簡単に説明します。

Aさんにお金を渡し、Bさんと分けさせます。分け前を決定できるのはAさんです。ただし、Bさんはその分割案に反対なら拒否できます。拒否した場合、AさんもBさんも1銭も受け取れない、というものです。

たとえば、Aさんに10万円を渡した場合、Aさんが、「Aさん:6万円、B:4万円」と提案するとします。Bさんが受け入れるとその通りお金を得ることができ、拒否すると、2人とも0円となります。

この場合、Bさんにとって合理的な判断は、Aさんからの提案を受け入れることしかありません。分け方が100対0であればともかく、少しでも分け前があるのならば、拒否して0になるよりは、受け入れた方が得だからです。

しかし、実際にはAさんが自分に有利な分け方で提案すると、Bさんは拒否することが多くなります

とくに、分け前が3割を下回るとその傾向が強くなるようです。ちなみに、Aさんも、相手が拒否することを避けるため、50%に近い分け方をすることが多いそうです。

最後通牒ゲームから学ぶ「交渉のコツ」

この、最後通牒ゲームが示していることは、人間は、必ずしも経済合理的な判断を行うのではなく、自分がないがしろにされたり、不当な利益を得たりといったことが許せないという公正、公平を求める感情があるということです。

離婚問題は、感情のもつれがあることがほとんどですから、とくにそのような傾向が強くなるでしょう。

離婚問題の解決に大切なことは、金額的な話し合いをする前に、まず話し合いができる状態に持っていくこと。

別れて、早く別々の生活をスタートした方が互いに幸せだから、そのために協力し合おう、と合意したうえで金銭的な問題について話し合わなくては、互いに疑心暗鬼になり、話はまとまりません。

これはビジネスの世界にも当てはまります。ビジネスは理性的に、経済的合理性にかなうよう進めるものですが、交渉などでは、公正を求める感情により、態度を硬化することが多々あります。

その心理を知らないと、互いにとって良い条件であっても決裂し、いわば最後通牒ゲームで双方がゼロとなるような不利益を被ってしまいます

交渉で相手から感情的な拒否を受けた場合は、金銭などの主張の裏に、自分が軽視されているという感情的な反発が隠れているのかもしれません。その場合、まず感情の部分を手当てする必要があります。

そして、感情で話をしているときは、金銭など理性的、合理的な話をしないことが交渉をうまくまとめるうえでのポイントとなります。

今回は、ここまでです。

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