『サントリー対キリン』(永井隆/日本経済新聞出版社)は、酒類・飲料を中心とした食品産業を支えてきた業界の2強「サントリー」と「キリン」について実際の社員への取材をもとに、「現場の空気」を感じながら読めるビジネス書である。

日本国民のほとんどが知っている超大手企業「サントリー」と「キリン」。2社は「思想や文化、ガバナンスは対極にあると位置づけられてきた」積年のライバル同士。

一時「統合」の話が持ち上がったこともあるが、お互いの条件がうまく一致せず、流れてしまったそうだ。

一度は手を組もうとした、長きにわたるライバル同士2社の「特徴」「ビジネスモデル」「営業」「マーケティング」「成長戦略」などを徹底比較した本書。

飲料業界の方は必読、異業種のビジネスマンでも、営業職に就いている方なら読んでおいても損はないだろう。

構成は21世紀のビール・飲料業界についての説明から始まり、業界の最新情報を知ることができる。

それから「サントリー」について。その歴史や企業マインド、経営者についてなど。お次に「キリン」。こちらも企業の特色や経営体制について詳しく書かれている。

2社の情報を頭に入れたら「ビール・飲料会社の現場力」として、サントリー、キリン問わず、現場で働く社員の「個人(事業部)エピソード」が紹介されている。

最後に「市場の勝敗を決めるもの」では、今後2社がどのように展開していくのか、それぞれの強み、弱みなどがまとめられている。

サントリーは1899年に「鳥井商店」として開業し、当初は葡萄酒の製造販売を行っていた。創業者は鳥井信治郎(とりい・しんじろう)。子孫が経営者となる「一族経営」だが、因習に囚われた旧態依然たる企業ではない。

むしろ、ベンチャー気質を持っている。創業者・鳥井信治郎の口癖「やってみなはれ」精神が今でも受け継がれ、「やって失敗するよりも、やらないことが罪」という社風だそうだ。

「ハイボールブーム」の仕掛け人の一人、(当時)スピリッツ事業部の竹内さんは、受注があったわけではないのに、「つくっちゃった」と、とりあえずハイボール専用のジョッキを作ってしまったそうだ。

ブームが起こるのはまだ先のことだが、このジョッキを携え、さらに当時は店によって分量が異なっていた「ハイボールの標準レシピ」を飲食店向けに情報発信しつつ、竹内さんたちは根気強く営業を行った。

サントリーの強みの一つは、この「チャレンジ精神」に代表されるだろう。

一方、キリンは1907年に三菱、明治屋といった有力財閥による合資によって始まった装置産業。「麒麟麦酒」として横浜に創立された「キリン」は、三菱系のサラリーマン企業だった。そのため、経営者は世襲ではない。

70年代初頭から、アサヒが「スーパードライ」をヒットさせる前年の86年まで、約6割のシェアを誇っていた業界最大手のキリン。その強みは「組織力」だという。

「一人ひとりのレベルが高い。なので、誰かがプロジェクトを引っ張るときにも平均的にしっかりして、まわりはじめると大きな力となる」。品質本位で、社員がみな真面目であるとも。

この「高い組織力」を生かした「営業の精鋭」である「キリン特殊部隊」も存在する。

今まで自分がよく飲んでいたノンアルコールカクテルの製造元など、気にしたことはなかったのだが、この本を読んでからはメーカーをチェックするようになった。

行きつけのスーパーにこのカクテルが置いてあるのは、もしかしたら営業マンがものすごく頑張った結果かもしれないのだ。

サントリーとキリン。双方は、それぞれ優れた点と劣っている点を持っている。けれど、共通して言えることは、どちらにも「ヒーロー」がいるということだ。

私たちの家庭にお酒を届けるため、今日も走り回っている営業マンの姿が見える本書は、業界や営業術を学ぶこともでき、また仕事への活力をもらえる一冊だった。

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