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おかざき・しずか

~もぎたて女子アスリート最前線 第24回~

はっきり言って、可愛い。“アスリートにしては”可愛いのではない。“アイドル並みに”可愛いのだ。岡崎静夏、24歳。

抜群のビジュアルを誇る美女の正体は、男子選手に混じりながら鎬を削るバイクレーサーである。岡崎は昨年10月、モトGP日本グランプリに出場した。結果は最下位に終わったものの、女性レーサーが世界選手権に挑んだのは実に21年ぶり。

今、その走りに大きな注目が集まっている。

「もともとは器械体操をやっていたんです。始めたのは3歳で、当時はかなり本格的に取り組んでいましたね。選抜の選手コースにいたし、そこではオリンピックを目指していましたから。全国大会も最高で2位まで行きました。だけど小5のとき、弟がポケットバイクに乗り始めたんです。それで私も乗ってみたら、すっかりハマっちゃって…。一時は器械体操とバイクで掛け持ちしていたけど、結局、器械体操は辞めちゃった。すごく悩みましたけどね。バイクのほうが面白かったんですよ」

いつも乗っている自転車と違い、右手を回すだけでスピードが出る。「何これ!?」という衝撃と快感とが全身を貫いた。考えてみたら、岡崎の日常にはいつもバイクがあった。

父も母もバイクに乗るため、近所のプールに行くときも移動手段はバイク。弟は父の背中に、自分は母の背中に掴まる。駐車場で車の行列に並ばず中に入れるのが、少女には誇らしかった。

さらなる転機が訪れたのは中3のときだ。弟が今度はMFJオートレースアカデミーに入校を決意する。

聞けばアカデミーに入れば、ツインリンクもてぎの本コースを走ることができる上に、全日本レーサーたちがインストラクターとして指導にあたってくれるという。こんな恵まれた環境はない。

またしても弟に触発されるかたちで、姉は後を追うことにする。ただし、問題がひとつだけあった。金銭面だ。

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「ライセンス取得料も含めて、1年間で35万円くらいかかるのかな。両親としては弟に払ったら、私の分までは無理ということになったんです。なので、自分で払うことにしました。私、それまでの人生でお金を使ったことがほとんどなかったんですよ。

他の女の子が夢中になることに何ひとつ興味が持てなかったので。出かけるときはいつもジャージだし、スカートは1着も持っていなかった。プリクラなんて“撮ってどうするんだろう?”って意味がわからなかったです(笑)。

そんな感じだったから、お年玉とかおばあちゃんのお手伝いとかで貯まった金額が結構あったんですよね」

それまで「楽しいから乗っているだけの遊び感覚」だった岡崎のバイク人生は、ここで一転。怒涛の快進撃が始まる。

08年にレディースロードランキングでの1位獲得を皮切りに、09年・10年とMFJレディースロードレースで連続優勝。あっという間に“女子に敵なし”の状態になった。

「当時は怖いもの知らずでしたね。完全に調子に乗っていました。たとえば雨が降ったときでも、“雨だから転ぶかも”っていう発想が頭にないんですよ。初めてコースインしたサーキットでもそんな感じだったし、30代とかのベテラン選手を相手にぶっちぎって走っていました。これしかないっていう手応えが自分でもありましたし」

生活も完全にバイク中心となった。レースを続けるには、とにかく費用がかかる。高校に入学すると「せめてタイヤ代だけは自分で払おう」と考え、アルバイトを始めた。タイヤは消耗品だが、1本3万円以上するのだ。

高1からできるバイトはマクドナルドだけ。途中からは酒の問屋にバイト先を変え、可能な限りシフトを詰め込む。高校も一番家の近くに決めた。少しでも無駄な通学時間を削り、バイトでタイヤ代を稼ぎたかったからだ。

一応、短大には進むことにした。これは就職を見越してのこと。とはいっても、バイクの道を諦めて企業に勤めるわけではない。レース活動の資金を捻出するため、普段は働く必要があったのである。

やがて岡崎は、男子選手に混じって全日本ロードレース選手権で戦うようになる。たしかにボートレースなどでも男女混合戦はあるが、フィジカル面で勝る男性を相手に、時速200kmを超える世界で戦うのはいかにも大変そうだ。

だが岡崎自身は、男性に比べて女性ライダーが特に不利だとは考えていないという。

「あくまでも走るのはバイクであって、選手自体じゃないですからね。それに“最低重量”というものが規則では決まっているんです。J‐GP3だと135kg。つなぎからマシーンまでフル装備での重さが、これを下回ってはいけない。なので、体重もいくらでも軽くできるというわけではないんです。もちろん男性よりも筋肉量が少ないのは事実ですけど、そのへんはジムで集中的に鍛えるようにしています。乗るときに重要な体幹…特に腰回りの筋肉を筋トレしていますね」

男女差はないとする岡崎だが、実際の成績上は男子と戦うようになって壁にぶち当たったのは事実だ。これまでと同じ走り方では勝てない。そう感じた岡崎はイケイケの根性勝負を根本から改め、技術の精度を上げる方向に集中する。

求めるのは“速さ”よりも“上手さ”。やみくもに速さだけを求めると、結果として横転してしまうことも経験から学んだ。素早くコーナーを回るためには、むしろ上手に減速する必要があるのだ。

繊細なコントロール技術や、ミリ単位の体重移動を研究するようになる。

「でも、上には上がいるんですよ。世界選手権に出たときは、みんなの走りがすごすぎて笑っちゃいました。マシーンを扱う知識というか引き出しの多さが、それこそハンパじゃないんです。しかも、すごく楽しみながらレースしている。

コーナーで競り合っていても“お前、こんなこと知らなかっただろ?”って言われているような気がして。その走りは、まるで魔法を使っているみたいでした。ただ彼らが本当に魔法使いだったら諦めるけど、同じ人間ですから。

つまり、私にもできるってことじゃないですか。“いいこと知っちゃったな”って、少し得した気分になったんですよね」

現在、岡崎はバイク用のタイヤウォーマーを製造する企業で働いている。試合や取材がある日は休ませてくれるし、その代わりに土日でも働きたい場合は出勤可能。岡崎のレース活動に理解がある会社だという。

オフの日はもっぱらツーリングに出たり、録画したレースを観て過ごす。オフの日でもレース(!?)である。息抜きはしないのかと尋ねると、「いいえ、レースといっても車のレースですから。研究にもなりますし」とのこと。

彼女にとってはレース抜きでの生活は考えられないのだ。会社までの通勤も愛機・CBR400Rを使用。

もちろん公道で“攻める走り”はしないが、「リアブレーキだけを使い、同じ力のブレーキングをしながら停止線ギリギリで停まる」「コーナーで曲がるとき、身体の重心の位置を確認する」などと頭の中は常にバイク一色。

「大型のバイクっていうのは直線で飛ばす分、コーナーではスピードが落ちるんですよ。私が出ているような排気量が小さいバイクレースの場合、コーナーでもスピーディー。小さくて軽いから、細かいテクニックが楽しめるはずです。一度、自分のピットウォークに来てもらいたいですね」

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アイドル的人気を誇る岡崎だけに、好きな男性のタイプを尋ねてみた。返ってきた答えは「私よりバイクに乗るのが上手い人」。でも、そんな人がいるのか?

では、バイク以外の趣味や特技は?少し考えたあと、「…たぶん、ない」と回答。最後に女子力アピールをお願いすると、「髪が長いところですかねぇ」と苦笑いした。

「ごめんなさい。バイクのことだったら何時間でも話していられるんですけど、女子力とか自分に縁がなさすぎて…。こればっかりは課題ですよねぇ」と、岡崎は屈託のない様子で加えた。

【おかざき・しずか】

1992年6月12日、神奈川県生まれ。コハラレーシング所属。10歳のときに乗り始めたポケバイを皮切りに、バイクレーサーの道へ。09年・10年と2年連続でMFJレディースロードレースで優勝。

“女子に敵なし”とみなされた岡崎は、男子選手に混じって全日本選手権に参戦するように。16年10月にはロードレース世界選手権モトGP日本グランプリに出場。女性ライダーが出場するのは21年ぶりとあって、大きな話題を呼んだ。

キティちゃんグッズ収集と西野カナが好き。ただし、レース前はTeriyaki Boyzの『Tokyo Drift』を聴きながらテンションを上げるのだとか。

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