学校、会社、地域…生きていく上では必ず「コミュニティ」の形成を目の当たりにする。直訳すると「集団目的を共有している仲間」という意味だが、別のコミュニティにいる人物とは相容れなかったりと、“選別意識”を生み出す可能性がある。

貫井徳郎氏の直木賞候補原作を映画化したミステリー『愚行録』(2月18日全国公開)は、未解決の一家惨殺事件の真相を追う週刊誌記者・田中(妻夫木聡)が、被害者夫婦と関わりのあった人物たちに肉迫していくというストーリー。殺害された妻・田向(旧姓・夏原)友季恵が、大学時代に形成していた「コミュニティ」を調べていく内に、様々な事実が判明していくというもの。

今回、そんな夏原を演じる松本若菜さんと、夏原の同期でもある宮村淳子の元恋人・尾形孝之を演じる中村倫也さんにインタビュー。美人で何事もそつなくこなし、周囲から羨望の眼差しを浴びる夏原と、バイトと部活に明け暮れる毎日を過ごす尾形の立場が、非常に対照的で興味深い。

夏原は「友達にしたくない女性」ナンバーワン

――原作を読んだ時、ズシッと胸に重みが残り続けるほどの暗さがありました。ですが映画ではお二方の対照的なキャラクターによって、ストーリーに奥行きが出て、はじめて観る人でも抵抗なく見られるような感じがしました。

松本:
そう思っていただけるのはうれしいです。

中村:みんなドロッとしたキャラクターで、僕だけ気楽でしたね(笑)。

――松本さん演じる夏原は、一見何を考えているか周りからは把握できない人物でしたが、演じてみてどうでしたか。

松本:私にとっては“友達にしたくない女性”ナンバーワンでした(笑)。ただ、劇中では、周囲の回想でしか伝えられていないので、本当の夏原は登場していません。だから個人的にもどういう人なんだろうという思いがあります。

――確かに回想シーンだけだと、人物像が間違って伝わっていく可能性がありますね。

松本:なので意識して何も考えずに演じていました。含みを持たせて演じてしまったら、それが観ている人にも伝わってしまうので。それは(石川)監督と相談した結果です。

――顔にも行動にも出ないのでミステリアスでした。

松本:台本を読んでいて本当に人間らしくないというか…何せ感情らしい感情を出すことが控えめな女性だったので。その中で夏原が人間らしいと思ったのが、宮村をビンタするシーン。「よかった、この人は感情がある人なんだ」というのがわかったのでほっとしました。そのあとすぐに平静を装っていたのは彼女らしいなと。

中村:聞いていると、夏原の取材のときには人物像を語るのは難しいですね。何かを特定して答えてしまうと、観るお客さんの想像力を狭めてしまうし、答えるのが大変でしょう。

松本:お察しいただきありがとうございます(笑)。

尾形は自分の若いころを見ているかのよう

――中村さん自身は演じた尾形をどのような人物だと思っていますか?

中村:
若いころの自分を見ているかのようで、シンパシーを覚えていました。女性は大学にしかコミュニティがない中でも、ひとつひとつのことに一生懸命で、自分の今いる位置を多くの人に認めてもらいたいと考えているんですよね。それに比べて男性は精神年齢が低いから「みんなで居酒屋でも行こうぜ!」ぐらいのことしか思っていない(笑)。

尾形もそれと同様で、毎日へらへらと笑いながら過ごして、きっと将来のことは考えていないはずです。映画の宣伝チラシには、「女って、基本自分の話を聞いてもらいたがるじゃないですか」というセリフが書かれているんですが、こんな残念なことを言っちゃうのも愛おしい。

松本:
たぶん、男の人が言いたがる“あるある”だと思います。

中村:「女って~」といった時点で、女性を敵に回していることに気づかないと。尾形は世の男性に多いタイプだと思うので、共感しやすいと思います。

――そんな中村さんが、実際に細かいことでカリカリする宮村(臼田あさ美)のようなタイプと付き合ったら疲れてしまうかもしれませんね。

中村:若いころはそうだったかもしれないですが、この歳になると小さいことに傷ついている宮村がかわいくて仕方がないですね。飼いたいぐらいです(笑)。

実際の夏原のモデルは…

――夏原や尾形を演じるとき、モデルになるような方は周囲にいらっしゃいましたか。

中村:(松本の方を向いて)夏原は絶対友達になりたくないタイプとのことなので、モデルは誰なのか聞きたいですね。

松本:(笑)。夏原のように同性が憧れる女性はいますが、その人のしゃべり方とか行動とかまねるという事は一切なく、「こういう感じなんだろうな」というイメージでした。

――付属校からエスカレーター式に入学してきた「内部生」と、外部の高校から入ってきた「外部生」が織りなすコミュニティが登場人物の関係性を表す上で重要となっています。

中村:どこにでもありそうですよね。イギリスが舞台になった映画を観ていると如実に表れていたりとか。

松本:一緒に大学生を演じていたある方が、いわゆる内部生の出身で「こういうのよくあるよ」と言っていました。

中村:立場に層がくっきりあるわけではなく、グラデーションになっていますよね。それがこの作品の見どころだと思います。

登場人物の必ず誰か一人に感情移入できる

殺人という最大の「愚行」が物語の発端として描かれているが、人間の身勝手さ、狡猾さなど、ささいな「愚行」も全貌を暴く上では見逃せない。

松本:これを初めて読んだとき、率直にどのように映画になるのか、それ以前に「映画化できるのかな」と思いました。でも、一個一個のエピソードは身近に起こりうることで、よかれと思っていた行動だったり言動が、相手からしたらまったく違う感情を持たれていて…例えばもしここで中村さんに気を遣って「大丈夫ですか?」と言ったことが、中村さんからしたら「何が大丈夫なんだ、今言うんじゃねえ」と思われてしまったりとか。ストーリーは殺人事件になっていますが、現実にそんなことになってしまったら、と考えると怖いですよね。

――最後に「ここは注目して欲しい」というポイントがあれば教えてください。

松本:人ごとでなく、自分の環境に置き換えて観て欲しいです。だからこそ、この映画の恐ろしさがあると思うし、必ず誰かひとりに感情移入できると思います。

中村:登場人物の小さな見栄や嘘というものにクスクス笑いながら観てください。客観視していたことが、鑑賞後に実は人ごとでなかったとゾッとすると思います。

出演作が次々と控えている二人に最後「今後出演してみたい作品は?」と聞いたところ、「現存するすべての作品に出たい」と同じ返答が。

今回、この二人にインタビューをお願いしたことの理由の一つに、それぞれの対照的な役柄への思いを聞き出したいこともあったが、その答えからもわかるように「演じることへのありあまる情熱」がスクリーンを通して伝わり、“いますぐ会って話を聞きたい人”となったのだろうと腑(ふ)に落ちた。

<文:東田俊介 撮影:長谷英史>

出典 YouTube

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