結婚も育児もほぼ考えていなかった、気楽な独身時代。そんな時に、赤ちゃん育児真っ最中の先輩から聞いたとある話が印象深く、心の片隅に残っていました。

それから時が経ち、私も育児をすることとなりました。初めての育児生活には言葉では言い尽くせないほどのあれやこれやがありましたが、辛い時にふっと例の先輩の言葉を思い出すと、

「私はまだ大丈夫かな…」

と思え、そんな時期をなんとか乗り切れました。

支えになった、というのとは少し違いますが、ある意味「聞いてて良かった」話である、先輩とのエピソードについてお話したいと思います。

大学のサークルの先輩は、私が初めて会った時は既に卒業生だったのですが、いつも穏やかな笑顔のとても優しい女性でした。

福祉関係の仕事に就かれているという話で、成程ああいう人ならぴったりなんだろうなぁと、大学生だった私は妙に納得していました。

そして、私も大学を卒業したある年の夏。サークルの卒業生の有志によるOBOG合宿(という名の交流会です)が開催されました。

土日の泊りがけ旅行ということで、参加している大半は私のように独身か、あるいは既婚でも子供はいないという人間が多かったです。

そんな中、先輩は前年に出産されたとのこと(子供さんはご家族に預けられての参加でした)。女子部屋で、赤ちゃんはどうですか~などとわいわい話を聞いたのですが、そんな中で印象的だったのが、以下のような内容です。

「最初はね、本当に大変だったよ。TVで子供の虐待のニュースを聞いていても、なんだか他人事じゃなく思えちゃって」

赤ちゃんのこと、目に入れても痛くないほど可愛い!っていう気持ちもあるの。でも、そんなプラスの感情ばかりじゃなくて…。なんだか、綱渡りをしているような気分だったかな」

「全然泣き止まない時なんて、どうしたらいいか途方に暮れて。もういっそ、この子の顔に濡れタオルを置いちゃえば、この苦しさから楽になれるんじゃないか…って、そんなことを考えたりもして」

子育ての実際をほぼ何も知らず、

「『優しいお母さん』が『可愛い赤ちゃん』を『愛情いっぱい』に育てる」

などというステレオタイプのイメージしかなかった当時の私にとっては、先輩のこの発言は大変に衝撃的でした。

まさか、あんなに優しい女性だった先輩の口から、「我が子を虐待するかもしれなかった」というような発言が出てくるなんて!

とはいえ、先輩にしてみればおそらく「産後すぐは本当に大変だったなぁ…」という気持ちを振り返りながら語ってみていたただけで、後輩を怖がらせようなんていう意志はなかったんだろうな、と、今ならそう考えられます。

それから数年が経った後の、初めての育児中。赤ちゃんはなんて可愛いんだろうと思う反面、大声で泣き続けられて戸惑ったり、夜泣きに悩まされたりと、しんどいことも様々にありました。

先輩の言っていた「綱渡り」の状態がなんとなくわかるような気持ちにもなりましたが、幸いにも私は、我が子を虐待しかねない…というほどまで思いつめずには済みました。

本人の性格も、育児の環境も違うので一概には比べられませんが、それでもあの時の先輩の発言を覚えていたことが、私にとってはなんらかのブレーキになっていたんだろう、と考えています。

乳児、特に第一子の面倒を見ている時には嬉しさや楽しさがある反面、どうしたって大変さや辛さが存在するものだと思います。

どれだけ優しい人でも、子供が好きだったとしても、辛い時は辛いし、その辛さを終わりにしたいと、ふっと考えてしまうこともあるのではないでしょうか。

そんな危うい「綱渡り」をしている時に、

「子供に対して、そんな風に思ってしまうこともあるかもしれない」

赤ちゃん相手にそんなことを考えるのも、私だけじゃないんだな」

こんなことを思い出せたら、それは一線を踏み越える前の抑止力になれるんじゃないかな、と思います。

著者:Takoos
年齢:39歳
子どもの年齢:5歳・3歳

独身時代の海外在勤中に、福祉先進国な北欧の子育て事情を垣間見る。帰国後は関西と東海の狭間で、妊娠、出産、育児、在宅フリーランスと経験中。

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