コンビニ業界に詳しいライターの日比谷新太さんが、業界の様々な問題点をレポートする当シリーズ。前回の中華まん販売の裏側に続き、今回取り上げるのは「恵方巻き」について。

このところ販売ノルマに悩むアルバイトたちの声がネット上に多く挙がり、違った意味で話題になっている恵方巻きですが、一体どのような経緯を経て現在のような定番商品となっていったのでしょうか。

恵方巻きブームを起こしたセブンイレブン

今週末の2月3日は節分ですが、その習慣としてここ近年で全国的に定着したものといえば、恵方巻き(まるかぶり寿司)を食べることではないでしょうか。

この恵方巻きのブームをおこし、売上が見込める一大商戦にまで昇華させたのはコンビニ、それもセブンイレブンであることを、ご存知である方は多いかもしれません。

今から遡ること15年以上も前…それまで関西圏のみで行われていた恵方巻きの習慣を、東京をはじめとした日本全国に広めていくことは、容易なことではありませんでした。

恵方巻きをコンビニで販売するにあたって、まず行われたのは販売現場の意識改革だったそうです。

当初の店舗の雰囲気は「何を言っているのだろう?」「恵方って何?」「なぜ寿司を丸かぶりしなくてはいけないの?」といった状態。まずは、売る側である店舗の責任者やパート・アルバイトさんに、恵方巻きという習慣を理解してもらう必要がありました。

ところが一通り説明をしても、特に関東圏の店舗からは「関西の風習なんかマネしたくない」といった声が、多く挙がったといいます。

そこで「節分には豆だけではなく、新しい縁起の良い習慣として、この恵方巻きを定着させよう」と、大檀上に構えて各店舗を説得したのだそうです。

そんな紆余曲折を経て販売を開始した恵方巻きでしたが、最初のころはまったく売れませんでした。

米飯ゴンドラにズラリと並べて陳列した恵方巻きは、ほとんどが廃棄処分となり、当時の担当者の家庭にはその日以降、食卓に恵方巻きばかりが並んだそうです。

従業員を巻き込んだ販売作戦とは

恵方巻きを人気商品にするためには、一体どうすればいいのか。当時の担当者は考えた末に、それには売る側のさらなる意識向上が必要であると思い至ります。

確かに最初の発売時に、恵方巻きという商品や風習に関してのレクチャーは行いましたが、それだけでは売場の従業員のマインドや行動は変化しませんでした。そこで、より興味と理解を深めてもらうために、従業員を巻き込んだ販売作戦を立てたのです。

まず実施したのが、店内にディスプレイする販促物(ツール)のコンテスト。店の天井から吊り下げる恵方巻きの巨大販促物を自作してもらい、より良い作品を表彰しようという企画でした。

主力となったのは、高校生や大学生のアルバイト従業員たち。1年目、2年目と継続するうちに「勝ちたい」「優勝したい」という欲求が高まり、コンテストは大いに盛り上がったそうです。

もちろん良い販促物を作成するには、対象となる恵方巻きの風習や商品知識を高めなくてはいけませんので、従業員たちの知識も必然的に増え、お客さんにお勧めすることも自然にできるようになりました。

それ以外にも、より多くの事前予約を獲得するために、予約特典はどういったものが良いかを、従業員たちと考え抜きました。

なかでも「五円玉を付ける」というアイデアは、その後に「近所の有名な神社に祈祷してもらった五円玉を付ける」サービスに進化していきました。

何事もスタートアップ時には、目に見えない様々な苦労があるもの。セブンイレブンの昔からの店長さんには、「私たちが恵方巻き文化を広めた」という自負がありますので、現在でも他のチェーンより多い販売数となっています。

そんな恵方巻きですが、各チェーンの今年の動向を見ていると「高級化」「小サイズ化」「スイーツ化」といった特徴が見て取れます。

なかには、京都の清水寺で祈祷をしてもらった海苔を使用したという、とてもユニークなものも。また予約特典についても、「まとめて購入割引」や「お茶プレゼント」など、より洗練された取組みが実施されています。

最初は手探りで始まったものの、今ではこの時季を代表する立派な商品にまで成長した恵方巻き。

ただその反面で、従業員への販売ノルマの存在もここに来て表面化しています。年々過熱する恵方巻き商戦ですが、ひとつの曲がり角を迎えているのかもしれません。

文/日比谷 新太(ひびや・あらた)

日本のコンビニエンスストア事情に詳しいライター。お仕事の依頼はコチラ→のメールまで:u2_gnr_1025@yahoo.co.jp

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