山本一郎(やまもといちろう)です。いやー、炎上ってさせる方もさせられる方も楽しいもんですね。正論あり、言いがかりあり、やってきたことをいろんな角度から論評する愉しさというものがそこにはあります。

今回のキングコング西野亮廣さん(36)の絵本問題、ガセネタも憶測もありつつなかなかのカロリーで問題が広がっていて、ある意味で西野さんの素材の良さが活きていると思います。

何よりもまず述べておきたいのは、これって西野さんのキャラがああでなければボヤ程度で終わっていたであろう物件だということです。

後出しジャンケン的に西野さんのブログで放たれる鋭角の煽り文句、いちいちそれに反応するネット民、そして次々と明らかになる問題行為、クリエイターへの報酬の在り方、絵本業界の将来は、そして西野さんは次の炎上の舞台へ──。

もう今年も年始から煽りに煽ってるんですよね。もちろん、本人の才能に依拠する部分もあるでしょうし、周りもこういうことを書かれるとカリカリする、いろんなアンチが拡散するってのは間違いないわけであります。

そして、実際に批判が西野さんに集まれば集まるほど、本当に絵本が売れてしまう、彼が成功してしまう、それが腹立たしくてさらにアンチが燃え上がるという図式であります。

然るに、イラスト自体は西野さんが描いたわけではない、でも西野さんの絵コンテを元にイラストレーターの六七質さんら参加したとされる33名のクリエイターたちが描かれた絵も優れたものだったとして、その絵本としての品質がどうなのか、無料で絵本を公開することの是非は何なのか、いろんな論点が出ては拡散のネタになっていきます。

この点で、絵本と西野ネタが輻輳して、モノとしては売れて成功してしまうという「局地的な成功」を西野さんは果たすわけですよ。ある意味で、炎上を含めた状況自体、この環境そのものが西野さんの作品であり、コンテクストなんだろうと思うのです。

過去にも、品川庄司の品川祐さん(44)、南海キャンディーズ山里亮太さん(39)も、アンチを抱えて表現活動を行って似たような炎上の商品化を図ってきたわけなんですけど、単純に素行や言動で批判されるのに比べてビジネスモデルの是非を論じさせるという炎上のさせ方は好きなようにさせておいて、その実、ビジネスにおいて「モノが売れたほうの勝ち」という見せ方さえ確保しておけば「あれだけ叩かれても仕事は評価された」という形だけが残っていきます。

ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん(41)も、社会派も語れる芸人枠であったり、お笑い以外の表現を目指していこうとすると、だいたいこういう登竜門をくぐらないといけないのかと思うぐらい、物議の醸させ方から成功を掴む方法がテンプレ化してきているようにも感じます。

■炎上商法のビジネスモデル

それまでのテレビに出ている芸人の上がり方は、やはりMCや司会をやる中で有識者を目の前で回しながら、自分のポジションを高めていく方法だったように感じます。

しかしながら、ラジオであれテレビであれ、そのような席がすでにベテランや事務所推しのタレントで固まってしまっているので、ひとつ頭を出そうとすると物議を醸すような言動をし、ネット民を挑発して、炎上を仕掛けないとならないという状況になっているのでしょう。

その意味で、西野さんの場合は本人の性格や嗜好も含めて炎上に向いた人物であり、きちんとモノを作り込む才能があった故に、いまのネット時代、というよりは芸能界の上が詰まっている現象にうまく適応しているのだと感じます。

一部の人の熱狂的な支持すら特にない状態でも、ひとつのモデルケースとして批判を浴びながら知名度を上げ、他人の高い品質の品物を組み立てて自分の名前を付けて売り捌く仕組みはとても今風です。

逆に言えば、世の中の八割の人が批判的であっても、二割の人が「まあそうだね」と思えば炎上で母数を大きくすることで稼げる、というやり方であって、一般的にはこれは焼き畑農業のような座組みです。

ただ、優れているのは表現する方法は絵本に限らないし、この成功をテコにして売り込んで偉い人と組みながら上を目指していくこともできる、映画撮ったり作家になったりいろんなことが可能になります。

これはこれで、西野さんなりに正しい戦術なんだと思うわけですよ。

問題は、燃え続けることはむつかしいということです。

ネット民で著名なイケダハヤト師のような優れた炎上師でも、一度燃えて、いろんな人がカリカリして、でも一部の人たちが「まあ、イケダハヤトの言ってることも何割か理解できる」となってくれれば、次の話題づくりのチャンスは巡ってきます。

ただ、そういう“自分を炎上させて話題づくりをするルート”に乗ってしまった人は、忘れ去られることが最大のリスクになります。

話題を提供することで耳目を惹き、集まった人のうち八割が批判的でも二割の人が「まあ、正論だよね」と商品に手を出してくれればビジネスは回るわけです。

しかしながら、話題の提供ができなくなると、その「まあ、正論だよね」という人の数も減ってしまう。悪評だけが残る可能性がある、だからこそ炎上し続けなければならない、と。

キングコング西野さんが辿る道筋は、まさに“自分を炎上させて話題づくりをするルート”であり、そこで得た成功を糧に、次に大きな仕掛けを打ちに行く、そこで「西野さん、前にうまくヒットさせたからね」と脇の甘い大物が出てきて、うっかりカネを出したり支援したりして、一緒に燃えたりするのでしょう。

そしてその燃え方を見て、彼に支援してみようという次の大物が現れて…。みたいな焼き畑を、少しずつ規模を大きくしながら広げていくことが彼の生命線にならざるを得ません。

それでも西野さんには他人を怒らせても、手伝う大物を踏みつけても何かを燃やす才能があるのだとするなら、ひょっとすると本当の意味で凄いクリエイターになっていくのかもしれません。

それまでの批判を見返して金字塔を打ち立てるような。炎上芸が飽きられて人垣が薄くなる前に、彼がどんな仕掛けを打ってくるのか、心待ちにしたいと思います。

著者プロフィール

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数。

公式サイト:やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研。

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