「一発屋」と揶揄されながらも芸能界にとどまり続け、最近では中野区中野坂上でカフェ&カラオケ喫茶「ヒロシのお店」も経営しているタレントのヒロシが、6冊目になる『ネガティブに生きる。ヒロシの自虐的幸福論』(大和書房)を出版した。

昨年、前作の『「モテない人」と「仕事がない人」の習慣 ダメ男、38のエピソード』(バジリコ)についてのインタビューをした際、「2016年中にネガティブな格言とその解説を書いた本を出版する」と本人から聞いていたが、正直あまり期待していなかった。

が!この本には淡々としたネガティブさの中に、「うんうん、そうだよね」と思ってしまう言葉の数々がちりばめられている。とくに悩んでいる人、先が見えない人にとっては救いになるのではないかと、お世辞抜きに言いたくなる内容だった。

不景気な表情を見せながら、「劣等感との付き合い方」「働くのがいやな人へ」などのテーマに沿った形で、「先生って呼ばれる人にはロクな人がいない」「失礼な人にいちいち傷つかない」といった言葉(格言ではないと思う)と、その解説を5章にわたって展開している。

大見出しを見ただけでもうなずけるものばかりだが、ネガティブながらも真理を突いている解説が、実にヒロシらしく読ませてくれる。

たとえば、

「「英語が話せないと生きていけない」僕は生きています」

出典『ネガティブに生きる。ヒロシの自虐的幸福論』(ヒロシ/大和書房)

という項目では日本語話者の英語コンプレックスに触れながら、

英語を話せるようになったからといって、僕がいったいどこでその能力を使うことがあるのでしょうか。

海外で仕事するのに必要?今の職場はどこですか?

街で外国の人に道を聞かれた?これまでに何回そんなことが?

英語を話せる人はその能力が必要だったはずです。海外で仕事をする人くらいです。

無理する必要はないのです。

出典『ネガティブに生きる。ヒロシの自虐的幸福論』(ヒロシ/大和書房)

と喝破し、さらに、

生きていくうえで必要な能力は、必然的についていくものだと思います。キリンは高いところの葉を食べるためにあんなに首が長くなりました。首が長くならないからって劣等感を抱き、へこむことはないのです。

それはあなたにとって必要のない能力だったというだけの話です。

出典『ネガティブに生きる。ヒロシの自虐的幸福論』(ヒロシ/大和書房)

と、ハイスペックの持ち主だったり、あれこれ身についていたりすれば人間として偉いという考えが正解ではないことを、読者に伝えている。

そしてヒロシは全体にわたり、「ひとりは恥ずかしくない」「嫌なことからは逃げろ」というメッセージを送り続けている。

売れている時に誘われたある有名人の誕生パーティで、「大勢の中で感じる寂しさが一番寂しい」と気づいた彼は、ひとりでも楽しいことはいくらでもあると「ひとりキャンプ」を始め、結果的に同じ趣味の仲間を得ている。

そして学生時代を回想し、いじめられていた時に「将来お笑い芸人になって、こいつらより圧倒的にいい生活をする!」と精神的な逃げ場を作っていたことで、生き延びられたことを明かす。その逃げは現在も続いていて、

「もっと上を目指せ!」というのが一般的な正義だと思いますが、その正義を貫いたら、僕は死んでいたと思います。僕はテレビに出ないという「逃げ」を実践しました。そのおかげで、今、生きています。

出典『ネガティブに生きる。ヒロシの自虐的幸福論』(ヒロシ/大和書房)

と、戦って負けても誰も責任を取ってくれないのだから、戦わずに逃げることで生き延びろと語りかける姿は、実にポジティブだ。

巻末には『ひとりぼっちを笑うな』(KADOKAWA 角川書店)がベストセラーになった蛭子能収氏との対談が掲載されているが、これがかみ合っているようであまりかみ合っていない。

時折集中力を欠く蛭子氏にヒロシが金や女性への執着を打ち明けるものの、そのいずれにもこだわりがなく(と、見せているだけかもしれないが)、仕事とギャンブルを愛する彼に、のらりくらりとかわされるからだ。

しかし芸能人の友人がほとんどおらず、つるんで遊ぶのが苦手な2人はともに理不尽な学生時代を経験していて、

蛭子「もう死んじゃったら終わりだから、いじめられても死なないでほしいですよね、ほんとに。ちょっと我慢すれば、この世界、変わるから。いじめられている世界は、本当に1年か2年の間だけだから」

ヒロシ「いやあ、そうなんですよね」

出典『ネガティブに生きる。ヒロシの自虐的幸福論』(ヒロシ/大和書房)

と、いじめを受けても生き延びてほしいと願う気持ちに関しては一致を見せる。

全体的にあっさりした筆致ながらも、読後感はしっかり残る。そしてヒロシが一発屋のようでいて、しっかり芸能界に残っていることの答えも見いだせる気もする。「ヒロシかよ…」と思わずに、書店で見つけたらページをめくってみてほしい。

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