記事提供:サイゾーウーマン

これまで、日本のペット事情について取材を行ってきた、短期連載「ペットと人のこれからを考える」。

初回は、架空のペットブームにより犬猫の値段が高騰していること、そして第2回は、そんな状態に疑問を持ち、ペットショップでありながら生体販売をやめたChouChouの店長、澤木崇氏にお話をうかがった。

今、各所で「殺処分ゼロ」を目指す試みがある。

しかし澤木氏の言うように「ペットショップより前の段階で、命を落とす子犬や子猫がたくさんいる」ことを考えると、動物愛護センターに持ち込まれるのは、流れの中の“末端”。

もっと先端の“蛇口”にあたる部分を取り締まらなければ、到底「殺処分ゼロ」にはならないのだ。

その取り組みで最も有名なのが「TNR活動」だ。TNRとは、「Trap Neuter Return(トラップ・ニューター・リターン)」の略。

飼い主のいない猫を捕獲して不妊手術を行い、元の場所に戻すことを指す。そうして手術を受けた猫は、人が目で見てわかるように、耳の先を軽くV字にカットされ、その形状が桜の花びらに似ていることから、「さくらねこプロジェクト」とも呼ばれている。

大阪に、飼い主のいない猫の不妊手術専門の病院「のらねこさんの手術室」がある。この病院では、避妊手術をメス8,000円、オス4,000円、入院費800円、送迎料金2,000~3,000円という安価な料金でサービスを行っているという。

今回は、その代表・秋本真奈氏と副代表の安田和美氏に、病院でのTNR活動やこれからの課題をうかがった。

■「猫を増やしすぎない」TNR活動とは?

動物看護士の安田和美さん。

――まず、野良猫の不妊手術が必要な理由を教えてください。

安田和美氏(以下、安田) ねずみ算は有名ですが、実は“猫算表”というのがあるんです。猫は1回のお産につき平均6匹産みますが、昔は母猫の栄養状態が悪いため、そのうち2~3匹残ればいい方でした。

今は栄養状態がいいので、みんな大きくなります。年に4回産む子もいますから、1匹の猫が子猫を産み、その子猫がまた子猫を産みとなると、1匹の猫から年間50~70匹くらいに増える計算なんです。昔より今の方がスピードは速いと思います。

――猫が増えると、なにか問題なのでしょうか。

安田 だいたい年間7万匹の猫が殺処分されていますが、そのうち約4万4,000匹が子猫です。

産まれて1~2カ月たち、離乳の終わった子猫なら里親を探せますが、まだ乳離れできていない、へその緒がついた状態で持ち込まれた子は確実に殺処分となってしまいます。殺されるために産まれてくるような子があまりに多いんです。

代表の秋本真奈さん。

秋本真奈氏(以下、秋本) 私たちはこの病院を始めるまで、動物愛護団体にいました。そこは、動物を保護して里親を見つけるところなのですが、次から次へと保護されてくるんです。

里親に出せない性格や病気の子もたくさんいるので、頭数はどんどん増えていってしまいます。そこで「今、なにを急がないといけないか」と考えたら、殺されている子をこれ以上増やさないようにすべきだと、猫の不妊手術活動にたどり着きました。

――猫が病院に持ち込まれる経緯には、どんな例がありますか?

安田 地域猫の世話をしている方やボランティアの方から依頼が来たら、まずはどんな場所に何匹いるのかなど、聞き取り調査をします。

それから捕獲器を頭数分持って、餌をあげている時間帯に合わせて、うかがいます。捕獲器の中にエサを入れて設置しておくと、8割方捕まりますね。

そこで捕まらなかった子は、用心深いのか臆病なのか、その子の性格に合わせて、あの手この手で罠を作ります。

秋本 1回失敗すると次は同じ手は使えませんから、捕獲のタイミングって、すごい緊張感があるんです。

安田 確保したら落ち着かせるために捕獲器を布でくるんで、病院に連れて帰ります。捕獲器の外から麻酔をかけて眠らせて、体重を量って、ケガをしている子がいたら手当てをして、ご希望の場合はワクチンを打ちます。

不妊手術自体はオスで5分くらい、メスでも麻酔をかけてから覚醒するまで30分くらいです。一晩病院で預かって様子を見て、翌日同じ場所へ返しに行きます。

捕獲に使用する捕獲器。ほかにも数種類完備している。

――手術も麻酔の時間も、ずいぶん短いんですね。

安田 低容量麻酔とはいっても、あまり体にいいものではないので、少ない量でかつ短時間で済ませたいんです。

飼い猫ではなく、地域猫や野良猫が来るため、健康状態がわかりません。中には肝臓の悪い子も来ますから、なるべく負担の少ないようにしたいと思っています。そういう猫が、だいたい1日に20~30匹来ています。

取材中もなんどか依頼の電話がかかってきた。まだまだ需要はなくならない。

■多岐にわたる猫トラブル

――“地域猫”という言葉がありましたが、野良猫とは違い、誰かに管理されているということでしょうか?

秋本 特定の飼い主を持たずに、地域で管理されている猫のことです。私たちのやっているTNR活動も、“地域猫活動”といわれています。猫が増えすぎたり、トラブルが起きないように猫との共存を考えていく活動です。

よくある相談が、「猫が家の庭で排泄し、苦情になっている」というもの。そういう問題に対して、一つひとつ対応の仕方をお話していきます。

――その場合、どういう指導をするのでしょうか。

秋本 「ここで排泄してほしい」という敷地内に、猫が好む砂を使ったトイレを設置します。それで解決するかどうかはわかりませんが、まずはやってみましょうと。

苦情を言ってこられた方には、消臭剤をプレゼントするなど、誠意のある対応をします。実際それで猫が来なくなることはあまりないと思いますが、意外とそれで解決したりするんです。

安田 猫のトラブルって、「もともと仲のよくない近隣の人が、猫に餌をやっているから気に入らない」といったように、実際は住民の方同士が揉めているケースが多いんです。それに猫が巻き込まれている感があります。

心に余裕がないと、ちょっとフンをされただけでも許せなくなるみたいですね。ただ、人って、誰かから感謝されると、他人に対して寛容になるもの。真摯にお詫びをされると責めにくいものです。

つまり人間関係が良くなると心が広くなります。猫に対して苦情を言っていた人でも、揉めていた人との関係が良好になるだけで、猫問題へのいら立ちが収まる場合は多いんです。それで、半分以上の猫問題が片付くんじゃないかと思うほどです。

――ほかに、どんな猫トラブルの例があるのでしょうか。

安田 地域猫に餌をやっている方のマナーも問題になりがちです。地域によって決まりは違うのですが、基本は「置き餌はしない」。

自分が餌をやりに行くときは、その子が食べられる量をあげて、食べ終わるまで待ち、片付けて帰る。マンションの駐車場や駐輪場といった私有地であげないなどのマナーがあります。

それを守れない人が多いようで、「餌をそのままにして帰る」という苦情が一番多いんですよね。必要以上の餌を放置して、カラスがたかっているとか、あちこちの猫が集まってくるとか。

マナーがなっていないと、結局は猫のためにならないことを、餌やりさんが理解しないといけないんです。

手術を終えた地域猫。野良猫より、飼い猫の方がよく麻酔が効くそう。

――餌をやっている人たちは、自分の家で飼えないのでしょうか?

秋本 飼えないですね。まず捕まえられないですし、捕まえて家に入れたところで、地域猫とはいえ、野生です。簡単には人に慣れません。

安田 野生の猫を家に入れるリスクって、すごくあるんですよ。

「外で暮らす猫は不幸だ」という考えで、どんどん家に入れる方もいるんですが、多頭飼いになることで、発症のリスクが高くなる病気もありますから、野生の猫が家の中で幸せに暮らせるとは思えないんです。

猫は結構、自分でちゃんと餌を取れる動物。ゴミを漁ったりもしますが、ネズミや虫を捕って食べたりしています。生きていくための能力があるから、あまり過保護にして守りすぎるのもよくないのではないでしょうか。

とはいえ、地域猫の適性数ってあると思うんです。今は頭数が多すぎるから、餌も足りないしトラブルにもなる。人間が見守るだけになれば理想かな、と思います。

不妊手術の活動をしていると、よく言われるんですよ、「猫を絶滅させたいのか」って。決して、そうではないんです。絶滅なんてしてほしくないし、いつか猫が自分たちで餌を取って生きていけるような環境を作っていくのが目標です。

■猫が「好きか嫌いか」は問題ではない

――猫が嫌いな人には、地域猫活動は迷惑なものなのでしょうか。

秋本 猫が嫌いだといって排除するだけでは、解決にならないんですよね。一方で、猫好きな方に餌をやるなと言っても、隠れてあげるようになるだけ。

それなら「時間と場所を決める」「しっかり掃除をする」「不妊手術を受けさせる」というルールを作る方が、早く解決すると思います。

安田 実際に、地域猫の管理に成功している地域もあるんです。猫たちを手術して、写真を撮って個体管理をしっかり行っています。

その地域の団地に住む方が“見守り隊”を結成して、猫の様子をみているんです。今では、2~3カ月に1匹手術をする程度になっていて、その地域では完全にTNRが完結しています。

――活動が一段落した地域は、ほかにもあるのでしょうか?

秋本 アメリカやイギリスにも、もうTNRが終わっている地域があると聞きます。何年か前に比べたら猫の数は激減しているそうです。

安田 瀬戸内海の男木島(おぎじま)は、住民の数より多いほどの猫が暮らしている“猫の島”として有名ですが、苦情もかなり寄せられていたそうです。

実際にニュースでもこの問題は取り上げられていました。そこの役所の方が、TNR活動に力を入れようと提案したのですが、その方は、もともと猫が大嫌いだったんだとか。

どんどん増えていくことで、さらに嫌悪感が増して、それを「どうにか排除したい」という気持ちでいろいろ調べたらしいんです。

そうして地域のボランティアさんと打ち合わせをしているうちに、「排除するだけではダメだ」と理解が深まったと言っていました。

無料で猫の不妊手術が受けられるシステムを作っている「どうぶつ基金」さんに依頼をして、2日間で200匹の猫を不妊手術するという活動を行ったのですが、そのときに「本当によかった、猫が幸せに暮らしていける」っておっしゃっていました。

TNR活動に協力してくださる方は、猫の好き嫌いにかかわらず、問題を理解してくださっている方なので、ありがたいと思っています。

「のらねこさんの手術室」が目指すのは、猫と人間の共生だという。だが、そこに行き着くために必要なのは、過度な猫の保護でも、排除でもない。トラブルの根源を見つめ、それを解消する前向きな姿勢と、さまざまな立場の人がいることを理解することだ。

最近は、無料で不妊手術を行うなど、行政もこのTNR活動に着目しつつあり、今後「殺処分ゼロ」への取り組みに欠かせない活動となっていくのではないだろうか。

これまで、ペット問題を通して、“人とペットが共生する”術について探ってきたが、次回はペットの老後について考えてみようと思う。

ペットも長寿になり、人間と同じように、認知症を発症したり、健康状態に問題を抱え、介護が必要になったペットがたくさんいる。そうしたペットたちを、人はどのように支えていくべきなのだろうか。次回は、今や全国にある“老犬ホーム”を取材する。

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