「荒れる成人式」。いつからか、こんなフレーズが生まれ、今や年始の“風物詩”のように定着してしまった感があります。今年も、茨城県つくば市や岡山県岡山市などで乱闘騒ぎや新成人同士の喧嘩が起きました。

毎年、こんなニュースを見聞きさせられたら「成人式なんてやめちゃえば?」という声が挙がるのも無理はありません。

しかし、「荒れる成人式」だけが日本の成人式ではないことも同時に理解する必要があります。「成人式」という節目は、子どもを大切に育ててきた親たちにとって、実に感慨深いもの。子どもの成長に覚える、嬉しさと一抹の寂しさ。普段なかなか言葉にできない想いを、一生に一度の「成人式」だからこそ伝えたい。このように考える人たちもたくさんいるのです。

今回は、そんな親の想い、ふるさとの想いを新成人に届けた「安らぐ成人式」をご紹介します。

「いつか帰ってきてほしい」。願いを込めた贈り物とは

出典大野市

その舞台は、福井県大野市。大野市は福井県の東部に位置し、城下町の面影を強く残す“越前の小京都”として知られています。「天空の城」越前大野城は全国的に有名で、豊かな美しい水に恵まれる小さな町です。

ただ、他の地方の町と同じく過疎化は深刻。子どもたちは高校を卒業すると、そのほとんどが市外に進学・就職し、町を離れて行きます。

そこで、「大野のことを思い出し、いつか帰ってきてほしい」との願いを込め、成人式で“ある贈り物”を新成人にプレゼントすることになったのです。その贈り物とは――

出典大野市

大野市内の四季折々の風景や食を収めた写真集でした。タイトルは「大野へかえろう」。

雪で白く染まった荒島岳、雪の中を走る車、春の田植え、野菜を冷やす地下水、夏の川遊び、秋の稲刈り。大野市で生まれ育った人にとっては、すべてが日常で、すべてが懐かしい。A4判の200ページに厳選された100枚の写真が並びます。

そして、それらの写真には、それぞれキャッチコピーが添えられています。例えば、この「夏野菜」の写真の隣には、「地下水が冷蔵庫」というキャッチコピー。

「清水」(しょうず)と呼ばれる湧き水で炊事や洗濯をまかなう大野市ならではのキャッチコピーですが、実際、この写真を見た新成人は「水の中でトマトとか夏野菜を冷やすの、私のおばあちゃんも良くしてたなぁ」と、しみじみ。

このように、懐かしい風景との相乗効果で、当時の感情をより鮮明に思い出すことができる構成になっています。

この写真集は、1月8日に大野市内で行われた成人式で、市内の新成人314名に配られました。写真集を手にした新成人からは「田んぼとか緑豊かな景色など懐かしい写真が多いので、大野が恋しくなったときに見返したい」「『大野は良い町』って友だちに写真集を見せびらかせます!」「田舎だけど、生まれたところだから愛着がある。住み慣れた大野で暮らすのも良いかなって思い始めています」といった声が聞かれました。

成人式本来の意義に基づき“郷愁”を誘う取り組みに地方創生のヒントが

出典大野市

奈良時代に起きた元服に始まる日本特有の風習といわれる成人式。祝福された新成人たちは、親をはじめ、自分たちを大きく育ててくれた“ふるさと”に対し、改めて感謝する場でもあるのです。そういった成人式本来の意義を忘れるべきではないでしょう。写真集を眺める大野市の新成人たちの言葉からは、ふるさとの愛を感じ、感謝の念を抱いた様子がひしひしと伝わってきました。

一部の「荒れる成人式」がクローズアップされることで成人式を日本から無くしてしまえば、ふるさととのつながりがますます失われてしまうことになるかもしれません。ふるさととのつながりが希薄になっている今、成人式本来の意義に基づき“郷愁”を誘った大野市の今回の取り組みには、地方創生のヒントが隠されているようにも思えました。

この記事を書いたユーザー

marlgoro このユーザーの他の記事を見る

公式プラチナライター。たまに、ちゃんと取材した記事も寄稿しています。

権利侵害申告はこちら