空前の好景気に湧くホテル業界にあって、アパホテルの快進撃が群を抜いています。昨春の週末に、都心部の店舗でシングル素泊まり1室1泊3万円という高価格をつけたことで物議をかもしましたが、今も売り上げは絶好調。

その裏には、どんな戦略・カラクリがあるのでしょうか。

無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者でMBAホルダーの安部徹也さんが、あらゆる側面から「アパホテル快進撃の秘密」を探るとともに、影に潜む「死角」についても論じています。

快進撃を続けるアパホテル

アパホテルが、ホテル業界での存在感を増しています。

2010年4月にスタートした中期5ヶ年計画「SUMMIT5」では、「一点突破・全面展開」をキーワードに、宿泊特化型ホテルだけではない総合ホテル産業としての更なる成長とブランド力アップを実現し、都心3区でホテル棟数No.1という高い目標を掲げて、挑戦を続けてきました。

結果として、東京23区内だけでもアパホテルの客室数は1万室を超え、全国では提携ホテルを含めると当初の目標であった4万室を大きく上回る5万1,896室を達成しました。

この急成長に伴い、2015年の売上高は900億円に達し、1,751億円の売上高でホテル業界トップに君臨する西武ホールディングスとの差を確実に狭めてきているのです。

続く2015年4月からは、「SUMMIT5」の勢いをさらに加速すべく、「SUMITT5-Ⅱ」と名付けた新たな中期5ヶ年計画を策定し、客室数10万室、2020年度のホテル部門の売上高1,200億円など更なる高い目標を掲げ、日本でダントツNo.1のホテルチェーンとなるべく快進撃を続けているのです。

なぜ、アパホテルは快進撃を続けられるのか?

驚異的な成長を遂げるアパホテルですが、その背景には何があるのでしょうか?

ひとつの大きな要因としては、外部環境の好調さが挙げられるでしょう。つまり、アパホテルだけが快進撃を続けているのではなく、ホテル業界全体が好景気の恩恵にあずかっているということなのです。

ここ数年ホテル業界は空前のブームに沸いています。

特に東京や大阪、京都といった大都市圏のビジネスホテルは稼働率が80%前後に達し、予約がなかなか取りづらい状況になっています。

この理由として、訪日外国人の急増が挙げられます。

日本を訪れる外国人の数は、2012年には836万人程度でしたが、2013年に1,000万人を超えると、2016年は10月までの統計ですでに2,000万人を超えるなど、わずか4年で3倍近い増加を記録しているのです。

更に政府は、東京オリンピックが開催される2020年までに訪日外国人の数を4,000万人まで増やす計画を立てており、今後も益々日本を訪れる外国人の数が増えることが見込まれています。

訪日外国人が増えれば、宿泊施設が当然必要ということで、今やホテルの建設ラッシュが大都市を中心に展開されているのです。つまり、このような好調なホテル需要の高まりを受けて、アパホテルも積極的な拡大路線に邁進しているということなのです。

好調なホテル業界の中でアパホテルの突出した成長はどこから来るのか?

お伝えしたように全般的に拡大基調にあるホテル業界ですが、その中でもアパホテルは突出して成長し続けているといっても過言ではないでしょう。

それでは、なぜアパホテルは抜きんでた成長を実現できているのでしょうか?ここでは、その成長の背景にある戦略を浮き彫りにしてみましょう。

1. 「一点突破」の集中戦略

まず、アパホテルの強さの根幹となる戦略として、集中戦略が挙げられるでしょう。

2010年4月にスタートした「SUMMIT5」のスローガンである「一点突破」が示すようにアパホテルはニーズの高い地区に絞って集中出店を続けています。

これは「ドミナント戦略」とも呼ばれ、特定地域に集中出店することによって地域内でのシェアを高め、結果としてブランド力が向上することによって、特定の地域で圧倒的な地位を確立することができます。

このドミナント戦略は、セブンイレブンがコンビニ業界で圧倒的な地位を確立するために採用した戦略としても有名で、アパホテルも同じように特定の地域で圧倒的No.1になるために、ドミナント戦略を駆使しているといえるのです。

2. 時代の流れと逆行する「逆張り戦略」

また、「逆張りの戦略」も見逃せません。

これはアパグループ代表の元谷外志雄氏のビジネス的な才覚によるところが大きいと言わざるを得ませんが、これまでアパグループは経済の大きな波に翻弄されることなく逆にその波を利用して拡大を続けてきました。

たとえば、2008年に起こったリーマンショックの影響で、地価が下落し上場不動産会社の倒産が相次ぎましたが、アパホテルはリーマンショック前に他社がミニバブルの波に乗って不動産投資を加速させていくのと逆行するように所有不動産を売却して銀行借入を返済し、難を逃れました。

そして、リーマンショック後に他社が地価の下落した不動産を売り急ぐ中、今度は逆に買いに走り不動産を底値で購入することに成功します。

このような元谷氏の逆張りの戦略が、アパホテル急成長の礎を築いていったのです。

3. アパホテルの「勝利の方程式」

そして、アパホテルがここまで急速に勢力を拡大してきた背景には、独自の「勝利の方程式」もあります。

アパホテルは、駅に近いロケーションに続々と新たなホテルをオープンさせていますが、実際に足を運んでみると地形のあまりよくない物件を選んでいることがわかります。

そのような物件は買い手があまりつかずに近隣の相場よりも割安なことが多く、その土地の上に高層ホテルを建築することにより、建築コストを大幅に引き下げることができるのです。

また、一般的にホテルを建設する際には銀行融資を欠かすことはできません。つまり、ホテルが建設できるかどうかは、銀行の判断次第ということなのです。

一方アパホテルは、税引き後の利益とホテルの減価償却で生み出された潤沢なキャッシュで建設費用を賄っており、最近では銀行融資に頼ることなく次々に新たなホテル建設ができるという他のホテルチェーンにはない「勝利の方程式」がその成長を加速させているのです。

アパホテル、高収益を叩き出すカラクリとは?

また、アパホテルは2015年度の実績で売上高900億円に対して経常利益は272億円にも達しています。つまり、経常利益率で30%とホテル業界の中では突出した収益力を誇っているのです。

この高収益体質の背景には売り上げを極大化する戦略と費用を極限まで削減する数々の方法があります。

1. アパホテルの飽くなき売り上げ追求策とは?

たとえば、売り上げを極大化する戦略としては、アパホテルは航空業界で生み出されたレベニューマネジメント」を取り入れています。レベニューマネジメントとは、需要の強弱に応じて柔軟に価格を変更し、売り上げの最大化を図る戦略です。

たとえば、ゴールデンウィークやお盆、お正月など需要が高まる時期には室料を1室3万円など高い価格を設定してより高い売り上げを目指します。

一方、それ以外の需要が低くなる閑散期には8,000円など同じ部屋でも室料を低く設定することによって極力空室にならないように稼働率を高めて、売り上げを高めていきます

このような価格の上げ下げは、すべて各ホテルの支配人に任されており、支配人は様々なデータを分析して、売り上げの極大化に努めることになるのです。

さらに売り上げアップに関していえば、アパホテルでは客室の稼働率を高めるためにデイユースを取り入れています。

たとえば、ホテルの客室を当日の15時から翌日の11時までなどといった宿泊だけでなく、当日の11時から17時などといった日帰りプランも提供しているのです。

このデイユースにより、通常は利用されないスキマ時間も埋めることになり、客室稼働率は100%を超えることもあるのです。

アパホテルは、他にもアパカード会員による囲い込みによって売り上げアップを図っています。

アパホテルの利用者は、アパカードの会員になれば、様々な特典のメリットを受けられます。

たとえば、アパカード会員は、公式サイトから予約すれば、一般会員でも10%という高い還元率を得られ、5,000ポイントになると5,000円のキャッシュバックを受けることができます。

つまり、宿泊費が1泊1万円だとすれば、5回泊まっただけで5,000円のキャッシュバックを受けることができるのです。

通常クレジットカードなどでもポイントは貯まりますが、1%~2%の還元率なので、いかにアパカード会員の還元率が高いかがわかるでしょう。

このような魅力的な会員特典に引き付けられ、2016年11月30日現在でアパカード会員は1,200万人を超えており、日本国民の10人に1人はアパカード会員という計算が成り立ちます。

これら多くの会員がリピーターとなって、アパホテルは業界の中でも屈指の高い客室稼働率を誇るのです。

2. アパホテルの徹底したコスト削減法

続いては、アパホテルの費用を極限まで削減する方法を見ていきましょう。

アパホテルのシングルルームは一般的なホテルが14平米に対して11平米と若干小さく統一されています。これは1ホテルあたりより多くの部屋数を確保して売り上げアップにつながるばかりでなく、各部屋の光熱費を削減する狙いもあるのです。

加えて2015年からは、試験的に顧客がいたとしても数時間で空調を強制的に止める「アイドリングストップ」を実施して更なるコスト削減に努めています。

また、アパホテルのひとつの売りになっている大浴場は顧客満足度を高める効果がありますが、宿泊客が客室の浴槽を使わないことにもつながり、結果として水道代の削減に一役買っているのです。

他にも、予約に関しては、高い手数料を支払わなければならない旅行代理店は利用せず、コストのあまりかからないインターネット経由の予約に特化するなど、アパホテルは売り上げアップを図る策と同時に徹底的なコスト削減を図ることによって、ホテル業界の中で突出した利益率を実現することが可能になっているといえるでしょう。

アパホテルに死角はないのか?

さて、これまでは順調に拡大路線を突き進むアパホテルの背景をお伝えしてきましたが、果たして死角はないのでしょうか?

まず、心配なのは資金面です。

2016年1月4日付の日経新聞で代表の元谷氏は取材に対して「(総資産は)2,000億円から2,500億円程度ある。借り入れは1,000億円程度だ」と答えています。

一方、2015年度のアパグループの売り上げは900億円なので、年間売り上げを大幅に上回る借入残高があることがわかります。

現状のように業績が堅調な場合は問題にならないでしょうが、2020年の訪日外国人4,000万人という数字を基に客室数を拡大し続ければ、東京オリンピック後の反動減で、客室の稼働率が一気に下がり経営が急速に傾くことも十分に考えられます。

事実、過去にウィークリーマンションの草分け的な存在で最大手だった「ウィークリーマンションツカサ」は、ブームに乗って拡大路線をひた走るも、バブル経済の崩壊で景気が冷え込むと業績が急速に悪化。

過大な借り入れがたたって、最終的には倒産の憂き目に遭いました。

今は好調な需要を背景に拡大路線をばく進するアパホテルもウィークリーマンションツカサと同じ轍を踏まない保証はありません。

ただ、アパホテルの元谷代表は2020年以降に繰り広げられるビジネスホテルの激しい生き残り競争もすでに見越していると豪語します。

その際には、利益率の低いホテルの撤退が相次ぐと見て、逆に買収などによって勢力を更に拡大するチャンスと虎視眈々と狙っているのです。

また、人材面も死角となりえるでしょう。

アパホテルは急拡大を続けていますが、問題となるのは各ホテルの支配人です。特にアパホテルでは、お伝えしたように状況に応じて臨機応変に支配人が部屋の価格を決定するなど、大きな裁量が与えられています

この各ホテルの支配人の能力が、アパホテル全体の売り上げ極大化の鍵を握っているのです。ただ、このような優れたスキルを持つ人財を育成するのは一朝一夕にはいかず、適切な人財が不足しているのが現状なのではないでしょうか。

今後更なる拡大を図るうえで、人財不足は成長の足かせとなりかねないことを考えれば社内で育てることはもちろんですが、即戦力を同業からヘッドハンティングするなど、あらゆる手段を使って確保する必要があるでしょう。

光が強ければ、影もまた濃くなります。

現状、アパホテルは順調に成長しているように外からは見えますが、急成長の歪みが必ずや内部の至る所で噴出しているはずです。

これらの次々と浮かび上がってくる課題や問題をうまくコントロールしながら、ホテル業界の頂点に無事上り詰めることができるのか?

ワンマン経営の企業だけに、代表の手腕にすべてが託されているといっても過言ではないでしょう。

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