少し前の話になるけれど、秋に娘(4歳)の保育園の運動会が開催されたので、今回は、そのときにわたしが親として感じたことについて書いてみようと思う。

娘は現在3歳児クラス(年少クラス)に在籍。運動会では、はじめて本格的な「かけっこ」を経験することになった。本格的というのは、去年までの乳児クラスとは違って「順位がつく」という意味。

運動会前になるとクラス内でもたびたびかけっこの練習が行われていたらしく、お迎えの際に娘が自分の肩に貼られた「1」というテープ(1等になれたという意味の)を嬉しそうに見せてくれることもあった。

月齢が高い(5月生まれ)娘は、クラスの中で自分の足が速い方ということが誇らしい様子で、休日にいたっても公園で走る練習をたくさんしていた。

「ころんでも、なかないで、さいごまで、はしります!」と宣誓して(保育園で教わった決まりごとらしい)練習に励む様子を、わたしはとても頼もしい気持ちで眺めていた。

運動会当日、わが家は夫とわたし、わたしの父の3人が応援に駆けつけた。

娘のクラスのかけっこ競技が始まると、ゴール付近にスタンバイし、わが子の登場を待った。

ニコニコしながら歩いてゴールする子もいれば、「絶対に勝つぞ!」という気持ちが体中から溢れでている子もいて様々だった。

一番最後の列に並んだ娘の顔をふと見やると…ガッチガチに緊張している

なんだか心配になってきた。大丈夫だろうか?

そんなわたしの気持ちをよそに、娘の走る順番がやってきた。

まずは一人ひとり名前が呼ばれる。

「加藤こはな(仮名)ちゃん!」と呼ばれると、うちの子がひときわ大きい声で「はい!」と返事をした。

普段わたしが見ている娘は、少々恥ずかしがり屋で、人前で何かをすることを躊躇するようなしぐさが多かったので、これだけ大勢の人の前でこんなに堂々と返事ができるのか!となんだか感激してしまった。顔はガッチガチだけどね。

「よーい、ドン!」

娘を含めた4人の女の子が一斉に走り出す。横一線のデッドヒートだ。

うちの子が一歩リードか!?と思った次の瞬間、ゴール付近で事件は起こった。

娘が転んだのだ。

他の3人がめいめいゴールする中、娘は目に涙をためながらよろよろと起きあがろうとしている。

「あっ」と思った瞬間、わたしの体は反射的に娘の元にかけよろうとしていた。それが今まで普通にやってきたわたしの役割だったから。

けれど、実際にかけよることはなかった。そう、これは、あの子のレースなのだ。

娘は自力で立ち上がり、そのあとしっかりとゴールまで走りきった。

先生に誘導されて、娘の肩には「4」の数字が貼られた。

わたしは今すぐにでも飛び出して彼女を抱きしめたい気持ちと、それができない歯がゆさを抱えながら、涙をためてうつむく娘の様子を観覧席から見守るしかなかった。

後日、そのときのことを考えてわたしはある「詩」について思い出した。

産後のつらい時期に何度となく読んではたびたび号泣していた、浜文子さんの「抱きなさい 子を」という詩だ。(全文が読みたい方は検索してみてください)

その詩の中にこんな言葉がある。

いつか母の膝は

子の悲しみに近づけない日がやって来る

やがて母の手が

子の涙を拭いてやれない日が訪れる

出典(書籍「お母さんと呼ばれるあなたへ」より)

“子の悲しみに近づけない日がやって来る”

わたしは、転んだ娘にかけよれなかった自分の姿にこの言葉を重ねていた。

子どもがわたしの手を離れ自立し、自分で自分の問題を解決できるよう導くのが子育てというもので、親はいつまでも子どもにべったり付き添うものではない、というのは娘が生まれたときから承知していた。

けれど、それはもっともっと遠い未来の話で、まさかこんなに早くそのことを実感するような出来事が自分に訪れるとは、思いもしなかった。

確かに娘はまだ4歳で、日常生活でも親の助けがいることがほとんどである。けれどもその中で、着実に、自分ひとりで問題の解決を試みようとする娘のふるまいを見る機会が多くなってきたことも事実だ。

かけっこが終わったあとトイレに行った際に、クラス行動をする娘と偶然遭遇した。娘は不機嫌にうつむき、先生は、「1番をとると張り切っていたので、すごく悔しかったみたいです」と言った。

一緒にいた夫が娘を抱きしめると、娘はわあわあと泣き、わたしはそのちいさな手を握った。

いつか母の膝は

子の悲しみに近づけない日がやって来る

出典(書籍「お母さんと呼ばれるあなたへ」より)

そんな日が、きっと来るのだろう。それがいつかは分からない。

だけど、

子が涙を拭う手に

柔らかな記憶の手が重なるように

痛む子の心が

温かな思い出の膝に包まれるように

出典(書籍「お母さんと呼ばれるあなたへ」より)

今はまだ、その悲しみを(あるいは悔しさを)、こうして胸に抱き、ともに感じさせてほしいと思う。そして…。

「転んでも、泣かないで最後まで走ります」

自ら宣誓したその約束を守り抜いたあなたを、わたしは心から誇りに思います。

著者:はなこ
年齢:アラサー
子どもの年齢:4歳

2012年生まれの娘をもつ1児の母。どちらかと言うと子どもに育てられている。重度の親バカ。

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