「いつ亡くなるか分からないからいつでも休めるようにしといてよ」

Licensed by gettyimages ®

独身で子供のいないおじさんの最後は誰が看取るのか?


私の母の兄、つまり私にとっておじさんは3年前に膵臓癌になりました。病院に入院することになり、もう長くは生きられないだろうと言われました。

おじさんは生涯独身で子供がいませんでした。生きている中で一番血のつながりが濃いのが私の母でした。なので母が毎日のように病院にお見舞いに行っていました。

最後は母と私が看取ることになりました。しかし、母と違って私は食品スーパーに勤めています。そんな私に母は・・・

「いつおじさんが危ない状態になるか分からないから、すぐに駆け付けられるようにしとくんだよ」と言いました。

正直に言うと私は不安でした。職場では引継ぎの難しい責任のある仕事を任されていました。

さらにギリギリの人員での営業になることも多く、休みにくいタイミングの時にいざ病院に駆けつけなければいけなくなった時のことを考えると大丈夫だろうか?という気持ちで一杯になりました。

そんな不安が現実になった出来事です。

まず私はおじさんがもう長くはないということで、あらかじめ上司である店長に相談をしました。

おじさんが危篤状態になってからいきなり、「休ませて下さい」と言うよりも前もって分かっていることなので知っておいてもらいたいと思いました。

「店長、実は相談があるんですけど・・・」

出典作 ロバート・熊

私 「あのぅ、店長、実は相談があるんですけど」

店長 「ん?」

私 「実は母親の兄、つまり私のおじさんが癌で入院しまして、しかも、そのおじさんは生涯独身で私たちが最後を看取らなければいけない立場でして、そろそろ最後かもしれなくて、その時はお休みをいただきたくて・・・」

店長 「分かったよ」

店長から事前の許可を頂き、それからしばらく日にちが経ち、ある日の朝、母親から電話がありました。

「すぐに病院に来てくれる?」

出典作 ロバート・熊


朝、本来であればあと1時間後に出勤なのですが店長に電話をしました。

「申し訳ございませんがおじさんが危篤になりましてお休みをいただきたいのですが・・・」と。

店長は快く私を休ませてくれました。そして私は、おじさんが入院している病院に嫁さんと二人で駆けつけました。

私が駆け付けたとき、おじさんは酸素を口から取り入れる機械が取り付けられていました。何か月も食事をとらずに点滴だけで生きてきたおじさんです。そろそろ危ない状態です。しかし、・・・

夜になっても持ちこたえました。

Licensed by gettyimages ®

危ないと言われつつ、最後のその瞬間は1日目にやってきませんでした。店長にお願いして仕事を休ませてもらっている私は現状を報告しなくてはいけません。なので・・・

その日の夜、店長に報告の電話を入れました。

私 「忙しい時にご迷惑をおかけして申し訳ございません」

店長 「いやいや、それで、どうなの?」

私 「それが、危ない状態は今も続いてまして、まだいつどうなるか分からない状態です」

すると・・・

「って言うか、いつまで休む気?」

出典作 ロバート・熊

続けて店長は私に言いました。

「あなたが休んでいる間、いつまでも他の社員が休みを取れない状態なんだよ」

予想はしていました。お通夜、葬式で1日、2日休むのは社会通念上大きく認められていますが、おじさんの死に目にどれだけの日数のお休みが許されるのでしょうか?悩ましい問題です。

独身で子供のいないおじさんですが、直接の親ではありません。親でない人の危篤にどれだけの休みが世間の常識でしょうか?難しい問題です。

しかも、危ない状態の、その瞬間というのは
今かもしれないし
明日かもしれないし
明後日かもしれないし
3日後かもしれないし
4日後かもしれないし

分かりません。ただ一つ言えるのは、いつまでも会社を休むのは大きく気が引けるということです。私が連続して休むことで、他の社員は全員休み返上です。なので私は・・・

「明日家族に相談して、明日またお電話します」と答えました。

そして、母親を病室から連れ出し、職場での苦しい立場を聞いてもらいました。

「実は何日も会社を休みにくい状態で、亡くなってから駆けつけるんじゃ駄目かな?」と。しかし、母親からは反対されました。

出典作・ロバート・熊

出典作 ロバート・熊

さらに嫁さんにも反対されました。

出典作 ロバート・熊

母親と嫁さん二人から仕事に行くことを反対されて、とりあえず残ることにしました。しかし不安の気持ちはどんどん大きくなる一方でした。

店長の「って言うかいつまで休む気なん?」と言う言葉が頭の中をこだましました。

私はいったいどうしたらいいんだろう?

出典作 ロバート・熊

いったいこのまま何日、職場に迷惑をかけたらいいんだろう?心配で心配で胸がズキズキしてきました。

いったいいつまで?という気持ちが一番の悩みです。しかし、そんなことを口にすることは出来ません。

しかし、そんな私の疑問に一つのヒントを与えてくれる人が現れました。

母親の昔からの友人という看護士の人が駆け付けてくれたのです。その方が言うには・・・

おじさんの今の状態は、普通の人ならもう天国に行っているらしいです。しかし、通常、癌は末期になると、耐えられない痛みを和らげるため、モルヒネを打つらしいのですが、おじさんは打たなかったのです。

だから生命力が普通よりもあるらしいということでした。さらに、100%とは言えないが、おじさんのように心電図モニターの数字が変化しない人は、危ないと言われつつ、何日も生きるらしいです。

しかし、こればっかりは、本人の生命力の問題で、はっきりと断言できないということです。あくまでも看護師としての今までの経験で、まだ生きるんじゃないか?という見解でした。

そんな元看護士の方の話を聞いて、私は思いました。多分おじさんは何日も生きそうだと。危ないと言われつつ、何日も持ちこたえそうだと。そして・・・

私の心の中にある「何日も会社を休むのは気が引ける」という気持ちがどんどん大きくなりました。

その悩む姿を察知した母親はついに・・・

仕事に行きたかったら行ってもいいという許可が・・・

出典作 ロバート・熊

そして、昼に職場に到着。さぁ、今から仕事をというときに・・・

携帯のベルがプルルルルル。

「今さっき亡くなったよ」

出典作 ロバート・熊

病院を出て、1時間ほどした後の出来事でした。あれから3年、思い出すたびに、「あれってどうなんだろう?」という気持ちにさせられました。

後悔をしても仕方がありません。私が選んだ道です。私は、おじさんの死に目には会えなかったけれど、最後のお別れの挨拶は出来たと、自分の出した答えに納得をすることにしました。

私は様々な友人・知人にこの話をしてきました。その時、みんなが口をそろえて言うことは・・・

「難しい問題ですね」

Licensed by gettyimages ®

「難しい問題ですね」「正解と言うものはないことですね」と言われました。


大切な人との最後の別れの瞬間。そばにいてあげられることが理想ですが、それを許さない現実の問題があります。

その置かれている現状は人それぞれでしょう。何日でも気兼ねなく休ませてもらえる職場もあれば、私なんかよりもずっと責任重大で代わりの人員がいない仕事をしていて駆けつけることすら困難な人もいることでしょう。

あの当時の私は自分のブログにもこのことを書く気にはなれませんでした。自分の行動に納得がいきませんでした。

しかし、今では簡単に休めない仕事を選んだことは仕方がないものと割り切るようにしました。そして、死に目には会えなかったけれど、最後の別れの挨拶は出来たと思うようにしました。

多くの方が避けて通れない大切な人との別れの場面です。

忙しい現代に生きる私たち。理想は何日でもそばにいてあげたい。しかし、職場で与えられた責務によって大きく悩まされる人も多いと思います。


人によっては、そんな会社辞めてしまえと言う人もいるでしょう。しかし、長年勤めた会社でそう簡単に辞められない現実もあります。

あの時に私が出した答えは、最後の瞬間にはそばにいてあげられないけれど、最後の挨拶はしたということです。

これが正解と胸を張って言えることではないと思います。人によって置かれている状況を判断して、最後は自分で答えを出す問題でしょう。

多くの方が避けては通れない大切な人との別れ。しかし、その時に目の前にはだかる現実の問題に悩まされる人も多いと思います。

私が苦しみながら出した答え。正解とは言えなくても少しでも参考になれればと願います。

この記事を書いたユーザー

ロバート・熊 このユーザーの他の記事を見る

spotlight公式プラチナライター。食品スーパーの店員ならではの記事を楽しんでいただければと思います。

権利侵害申告はこちら