記事提供:日刊サイゾー

人気番組『フリースタイルダンジョン』のモンスターとして、ヒップホップ・リスナーの域を超えて知名度上昇中のサイプレス上野。

テレビ番組やCMのみならず、本業の楽曲のほうでも新日本プロレスの新春東京ドーム興行の公式テーマを作成するなど、活動の幅は拡大中だ。そのサ上が、自身の半生を綴った書籍『ジャポニカヒップホップ練習帳』(双葉社)をリリース。

『FSD』でのコミカルなキャラクターとも異なる一面が垣間見られる同書について、「お笑い・プロレス・ドリームハイツ」の3ワードを中心に話を聞いた。

――『ジャポニカヒップホップ練習帳』(以下・練習帳)を読んで、一番気になったのが「俺達はラップの練習と平行して、漫才の練習もしてた」のくだりだったんです。漫才についてはその一文しか出てこないですけど。

上野 やりましたね。時期的には『ごっつええ感じ』大ブームの頃です。俺は兄貴がいたから、最初は『ゲンテレ(天才たけしの元気が出るTV!)』派だったんですよ。

でも中学になっていい加減『ごっつ』見たほうがいいって雰囲気になって、見たら「なにこれ。超おもしれー!」(笑)。それに影響されて、お笑いの感度が高い連中と俺たちもやってみようという話になった。

ボケ・ツッコミはジャンケンで決めて、10分だけ考える時間設けた後、漫才というかコントを作って、家の裏にあった森で披露しました。

――まさにフリースタイルじゃないですか。

上野 でもガキだったんで、漫才を理論的に分かっていないんですよ。だからお笑いに詳しくて、ロジックを分かってるやつだけが笑いをかっさらっていきましたね。

――上野さんのお笑いの原点は何なんですか?

上野 ドリフですかねえ。兄貴にムリヤリ見させられて、なんとか間に合ってる世代なんですよ。でもコントの途中に大仏が動き出したり、『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』の「スイカ男」は怖くて泣いてたなー。

『ひょうきん族』をあまり見なかったのは、ブラックデビルを怖く感じたせいのような。たぶん明るいお笑いを求めてたんでしょうね。それがそのうち、『お笑いウルトラクイズ』に触れて、俺はこっちのムチャやってるほうが好きだなと。

――その頃、サ上さんはグループの面白いヤツとして君臨してたんですか?

上野 俺はトップではなかったし、ギャグでクラスを笑わせることはなかったです。そこはスノッブで、人のギャグに「つまんねーよ」とチャチャ入れてるようなタイプ。でもお笑いをことこまかく見てたから、他のヤツより詳しいことが多かったかな。

――ガキ大将タイプだったのかと勝手に思っていたんですが、『練習帳』を読むと決してそうではないですよね。業界やいわゆる“シーン”の中心に行かされそうになると拒んで、全体のバランスを気にしたりするタイプ、と自己分析されているくらいで。

上野 シンナー吸ってるヤツに「ジャイアン」と呼ばれていたぐらいなんで、暴君っぽい一面はあったかもしれないけど、中心には行きたくなかったです。でもカラダがでかかったから、行かざるを得なかったんですよ。

隣の地区のグループとケンカした時、リーダー格のヤツに「おまえ、上野だろ?」と言われると、こっちは自覚ないから「え?俺?」(笑)。こういう役目回ってくるのは、イヤだなと思ってました。

――その時、サ上さんたちのグループのリーダーはどこに?

上野 その場に全然降りてこなくて、この先輩はダメだと小6で悟りました(笑)。結局、周りが自ら動かないヤツらばかりだったんで、やらざるを得なかっただけです。

今も俺が立派な人みたいに見られることが多いけど、単純に相方の吉野と比較されることが多いから良く見られるだけで。

――俺、出身が神奈川県大和市なんです。

上野 あ、地元近いじゃないですか。今もチャリでブラブラ行きますよ。

――南にドリームランド、北行けばNORIKIYOさんが団地で悪さを働いていた相模原市があって、そんな危険地帯に囲まれているとは思ってませんでした。

上野 いやいや、大和こそマッドシティですよ!(笑)まあ当時のドリームランドは物騒ではありましたね。家まで暴走族が押しかけて金属バット振り回すようなこともあって、ぶちぎれた警察官のオヤジが追っかけまわしてました(笑)。

コンビニのガラスにモノ投げて割ってる、やさぐれたヤツらもいたし。俺たちが健全に野球してたら、「パクられたチャリがここに置いてある。おまえの仕業だろ!」と因縁つけられたこともありましたね。

「知らねーよ。ふざけんな!」とキレたら、どうもシンナー吸ってるワタって仲間(サ上とロ吉結成前に組んでいたユニット・ドリームラップスのメンバー)が勝手に持ってきてたみたいで…。

そこで揉めてたら、ワタがまたパクッた原チャリに乗ってきたんですよ。そしてその様子を目撃して、そのまま逃げるという(笑)。そこから火蓋切られて、後処理が大変でした。

――そういう荒れた部分が、サイプレス上野とロベルト吉野の曲にはあまり出てないですよね。

上野 ファーストアルバムで出してたらよかったのかもしれませんね。でも当時、そういうやんちゃや武勇伝みたいなのがだせーなと思ってたんです。危ない経験をして生きてきたことを主張するより、今のほうが楽しくない?って気分で。

その頃、俺が音源リリースしたことがラップやめたワタには悔しかったらしく、文句言ってきたことから殴り合いのケンカになったりして、まだ昔話を語る余裕がなかったんです。

――それでヒップホップの定番でもある、過去を振り返る曲には向かわなかった。

上野 ヤンキー気質の不良って、勝ち上がって社長になるような野心が強くて、ビジネスに向かうヤツが多いんです。結果、猛勉強して若くして社長になったり、法律事務所を始めたりする。

ろくな死に方しねーなと思ってたスケーターの後輩たちなんて、それぞれ一国一城の主になってますもんね。

「え?おまえら、かなりやってるよね?」と思うようなヤツが税理士になって、今やタワーマンションに住んで、「先輩たちがドリームを守ってくれる」ですから。バカにしてんのかこいつらと(笑)。

でもそれって、自分を捨ててビジネスに徹する覚悟があるんですよ。ラッパーでも昔話系ができる人はひとつ“上がってる”人なんです。NORIKIYOくんとも、マジでしょうもないことを自慢しあってる時期から知ってるし(笑)。

今の生活があるから昔を歌える。

――人が変わったというより、ひとつステージがあがったんですね。

上野 そうなんですよ。でも俺は昔から地続きで延長線上なんで。街も飛び出してないし、いまだ毎週ヤサ(ドリームハイツの一室を仲間で買い取った作業部屋)で反省会してるし。

「また揉めごと起こしたらしいじゃねーか」と説教してるのが36才で、「すいません」と謝っている後輩が35才(笑)。

変わらなきゃいけないのかなとも思うんですけど、変わったら変わったで周りが窮屈に感じるだろうし、仲間と決別するのもムリだと分かってるんで。

そういえばこないだ後輩の女に、「最近、天狗になってる」ってしつこく言われました。その子に初めて会ったの、今年の夏なんですけどね!(笑)

――面倒な友達が多くても、縁を切りはしない?

上野 腐れ縁で、楽しいは楽しいんです。ただ何回もダメだと思ったし、疲れます。なんせ現役で揉めごとがあるんで(笑)。

仲間に店のオーナーやってるヤツがいるんですけど、もともとヤンキー寄りだったのが改心してまっとうになったと思ったら、どうにも気質が抜けない。

俺がその店に立つ話になったのに病気で行けなかった時、来店したヒップホップ好きが酔って、ずいぶん客に絡んだらしいんですよ。そうしたらそのオーナーが、「てめー、外出ろ!二度と来るな!」と叩き出したみたいで。

それ、オーナーのすることか?と(笑)。でもそっちのお客さんより、仲間を選びたいと思っちゃうんです。

――ケンカも多いけど、和解も多いんでしょうね。

上野 「揉めたくない」が前提にあって、面倒くさいからすぐ仲直りしますね。それにどうしようもないヤツらばかりでも、ヒップホップによくある金持って逃げる事態はないかなと。多分ぎりぎりで踏みとどまるはず。

そう言いながら、謎みっちゃん(サ上とロ吉と同じ、ZZ PRODUCTION所属アーティスト。ドリームハイツ出身)は踏み込む可能性あるかも(笑)。でもまだ信頼がギリギリ勝ってるな。

――51対49くらいで。

上野 結局、厄介ごとを楽しむ癖がついちゃいましたね。

――あと『練習帳』は随所にプロレスの表現が散りばめられてますね。サ上さんのプロレス好きは有名ですが、ついに来年は新日本プロレス東京ドーム大会のテーマを担当するという快挙を。

上野 さすがに世界第2位の団体だけあって、古参のプロレス原理主義者から批判の雨あられを浴びました(笑)。「今までのテーマがよかった」って。それ、いつも聞いてるハードロックみたいなやつだろ?ジャンル違うんですが、と(笑)。

でもその言いたくなる気持ちはすごくわかるんです、俺も。まぁ、そこに対する思いを全部喋ると総攻撃食らうんで、このへんにしといてください。

――もともと団体はどこが好きなんですか。

上野 子どものころは新日、全日見て、FMW、W★ING、リングス…。ほぼほぼ全部見てました。近所の古本屋にすごい数の「週刊プロレス」のバックナンバーが置いてあったから、座って貪り読んでたんです。

――近所の誰かがプロレス卒業して売ったんでしょうね(笑)。

上野 働き出した兄貴と金を出しあってそれ買って、けど兄貴もプロレスを卒業して全部捨ててました(笑)。

俺もその時はプロレスを見てはいても、のれない時期だったんで…。新日の暗黒期で、大日(大日本プロレス)からザンディクがいなくなった頃ですね。

――2000年代初頭ですか。

上野 それまでしょーもない大会に行って楽しんでいたはずなのに、面白がれなくなって肩落として帰るようなことが続いたんです。そのうちいろんなファンが入ってきても、もう俺だけのもんじゃねーんだ、みたいな気持ちにもなりました。

「何も知らない新参者が…」と新規のファンを見下すイヤなプロレスファンになってしまった。

――それこそ今、ヒップホップに新参者のファンが入ってきているのは、どう感じてるんですか。

上野 ヒップホップはプレイヤーとしてそこにいるんで、また違う感情なんです。ニトロが盛り上がった時は、「知らねーやつがのっかってきやがって」ってにわかヘッズを超憎みました。

そこで「ライブはやるけど興味ない」みたいな態度をとって、新譜ばかりかけてる友達のDJとぶつかったりもして、一回ヒップホップから離れたんです。

だから『フリースタイルダンジョン』前からヒップホップ好きだった人は、あの頃の俺みたいに歯がゆい気持ちなんじゃないですか。でもプレイヤーがそんなことを言ってもしょうがないんで、棚橋選手みたいに布教活動するのが役目なんだなと。

ブームといっても一過性で、「即興でラップできてすごーい」だけじゃないですか。まだ何も開花してない。これから続けていくためにも、顔と音源を売らなければいけないなと思ってます。

でもプロレスに関しては、いっこ抜けた感があるんです。10何年前から誰もいない大会でよく顔をあわせる、女の子のファンがいたんですよ。ガラガラの客席で、リングサイドの反対側にいるから、お互いに意識はしていて。

FREEDOMSの興行に行った時、その子に声かけられて、「おまえ、いつもいるよな?」と話をしたんです。ちょうどデスマッチで、周りに友達もいたからギャーギャー騒ぐじゃないですか。

そうしたら前に座っていたオタに「静かにしてもらえますか!?」と怒られちゃった。

昔だったら「はあ?ここは騒ぐ場所だろ。おまえバカじゃねえ?」と突っかかっていったはずなんですけど、あ~もうそれを言う必要ないんだなって。その瞬間、後楽園ホールの天井に魂が抜けていった気がしたんです(笑)。

――「もう自分の知ってるプロレスとは違う」と解脱しましたか。

上野 今、場外乱闘やっても、ファンがリングサイドの席から離れないから、若手がレスラーを止めたりしてるんですよ。昔は席がグシャグシャになって、気づいたら2階席からリングサイドに移動するような楽しみがあったのに(笑)。

――よくも悪くも今は整備されたんでしょうね。

上野 自分にとって、客のやばさも大事な要素だったんですよ。

会場で社会不適合者と出会って、食らうじゃないですか。ずっと寝ているヤツがいたかと思えば、コーラの1.5リットルを何本も持ち込んでゴクゴク飲みながら実況してるやつがいて、それ観てるの好きだったな~(笑)。

それも相手を見下すわけじゃなく、冬でも短パン、さらに金髪の俺を見て向こうも同じこと思ってただろうし。人生いろいろで、いろいろな楽しみ方があることを学べたのは、でかかったです。

それに比べると今、プロレスを見ていてもどこか冷静で、自分が熱狂してるか分からないんですよね。じゃあなんで行ってるのかといえば、自分を保つため会場に行ってるのかもしれない。

リリック書くのが溜まってて煮詰まってるとき、家から遠い後楽園ホールにわざわざ出向くと、救われるというか。こないだも大日に行ったら、見られたのがセミのフォールからだったんですよ。

でもメインマッチの内容がよかったんで、これでいいかなと納得して。

――今は勝った負けたで一喜一憂はしていない?

上野 ないんですよ。そこは寂しいですね。テーマがある試合は気持ちが入るんですよ。

でもそれも09年の葛西VS伊東(FREEDOMS・葛西純VS大日本・伊東竜二のデスマッチ対決。同年のプロレス大賞ベストバウトを受賞。参照)あたりで記憶が止まっている。

あれもプロレス雑誌に載ってたバルコニーダイブの写真に俺が映ってるから、「これはやばいことが起こるぞ!」と自分の席外して向かってたんでしょうね。

――サ上さんはやばい現場にいたい人なんですね。今、ほかに注目してる現場はありますか?

上野 ヒップホップもやばいヤツが現場にいなくなりましたからねえ。アイドル現場は取材でいくと、ファンが結構ちゃんとしていて健全だなと思う。今やばい空気が残ってるのは女子プロレスなのかなー。

スカスカの後楽園で、リングサイドでずっと「うおー」とデス声出してるヤツは衝撃でした。人目もはばからず、ずっとカメラでバシャバシャ撮ってるヤツもいるじゃないですか。でも俺たちは自意識が強くてそれができなかった。

『東京ポッド許可局』でいう「自意識が邪魔をする」ですね(笑)。だいぶ落ち込んで帰りましたねえ…。いつまでも女子レスラーのポートレートを買える人間でいたいですよ!(笑)

■サイプレス上野

ヒップホップ・ユニット「サイプレス上野とロベルト吉野」のMC。

横浜市戸塚区ドリームハイツ出身。最近では『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)のモンスターとして知られるように。

無類のプロレスファンでもあり、来年1月4日開催の「WRESTLE KINGDOME 11 in 東京ドーム」(通称イッテンヨン)のオフィシャルテーマソング「GET READY」を制作。MVがYouTubeで公開中。

Twitter ID<@resort_lover>

■書籍情報

『ジャポニカヒップホップ練習帳』

今や地上波番組はもとよりテレビCMにも出演し、一般知名度も急上昇中のサイプレス上野の半生記。自分にとっての「ヒップホップとは何か?」がぎゅう詰めされた一冊。

著:サイプレス上野 発行:双葉社 価格:1400円(税別)

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